第14話 婚約者の職場見学[上](メリル視点)

昨日はなかなか寝付けなかった。私もいつの間にかマクリッド様がいらっしゃるのを楽しみにしていたのかもしれない。それに、ラサーラにもマクリッド様を婚約者として紹介したいと思う。


彼女は私が小さなころから良く面倒を見てくれていた。どうしてかは分からないが彼女になら、何でも相談することが出来たのだ。そんな私でも、婚約者のことはどうしても相談することが出来なかった。きっと、こんなことを相談しても困らせてしまうだけだと思ったからだ。


でも、マクリッド様なら、あのお方ならきっとラサーラも喜んでくれると思う。私はいつしかマクリッド様を彼女に紹介することが楽しみになっていたのだった。




マクリッド様をラサーラを含む三人がいる部屋に案内するとやっぱりというか、当然と言うかいつものように会議が白熱していた。


マクリッド様のことを三人に紹介すると三人は急に私に温かい目を向ける。ちょっと、その眼は何なのよ。流石にそんな目をされたら居たたまれないんだけど。


というか、マクリッド様にそんな言葉使いはダメよ。相手は王子なのよ、どうして商人のあなた達がそんなことを出来るのよ。不敬と言われてしまえばどうするの。


良かった、マクリッド様は全然気にされていないわ。こっちがハラハラしたわよ。そんな私の元に来客の報告がもたらされる。でも、流石に今はマクリッド様をご案内しているのよ、婚約者である彼を放置して仕事をしに行くなんて失礼極まりないことよ、それだけはできないわ。


えっ、良いんですか?本当にこの人はやさしい人なんですね。この人なら私の夢をお話すれば応援してくれそうな気がします。でも、ラサーラから私の昔話を聞くのはやめてください。そんなことをされたら恥ずかしさで悶え死んでしまいます。


ラサーラはおしゃべりなので私の恥ずかしいことをいっぱいしゃべってしまいますから。そうなればマクリッド様と顔を合わせるたびにそのことを思い出してまともに顔を合わせることが出来ません。


「絶対にやめてください。」


とにかく、ラサーラが何も話さないように早く打ち合わせを終わらしてしまわなければなりません!




ようやく、打ち合わせも終わり私たち三人はマクリッド様とラサーラがいる部屋へと戻ってきました。そんな中、私が扉を開けた先にはラサーラが大泣きをしている姿でした。


「えっ。」


ラサーラが泣いている?普段、彼女が絶対に弱みを見せないことを私は知っている。そんな彼女が泣いていたのだ。私はその瞬間何も考えられなくなり、マクリッド様を部屋から追い出す。


「帰って下さい!今すぐに出て行ってください!」


「えっ、ちょっと、えっ。」


マクリッド様とラサーラが何か言っているようだったけど、そんなことは私の耳には入ってこない。やさしい人だと信じていたのに、彼のことならもう一度信じても良いかもしれないと思えたのに。侯爵家の娘が王子であるマクリッド様にこんな無礼を働くなんてきっとお父様にご迷惑がかかるだろう。


でも、私の頭の中にはそんなことはかけらもなかった。あるのは私の大切な人であるラサーラがマクリッド様に泣かされていたという事実だけ。私は、信じていたマクリッド様に裏切られて涙をこらえることしかできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る