第13話 すれ違い

「はい?」


先ほどと同様に再びおばちゃんは硬直する。このおばちゃん、こんなのばっかりだな。


「だから、彼女は感情を表に出すことが少しだけ苦手なクール系の人なんだろ?内心では感情豊かなんじゃないか?」


そう、俺がずっと彼女に抱いていた疑問とはクール系な人間なのではないのか?ということだった。別に俺との婚約がいやだったわけでもなく、単純に普段からずっとあんな感じなのだ。


そう考えれば初めて会った時に少しだけ笑った気がしたのはもしかしたら本当に笑っていたのかもしれない。すでに過ぎてしまったことであるため、あの時、彼女が笑っていたかは分からないが。


これは俺の思い上がりかもしれないが彼女は少しだけデレたのではないか?そう、彼女はかなり高度なクーデレさんだったのだ。


「あっ、はいそうです。よくお分かりになりましたね。」


やはり、そうだったのか。いや、分かるか!こんなの、前世の小説でそういうキャラがいたから分かったんだよ!普通に分かるわけがないだろ、難しすぎる!


「はぁ、ようやく理解できたよ。いや~、俺との婚約が嫌であんな顔をしていたんじゃなくて良かった。」


本当にホッとしたよ、だって初恋は叶わないなんてよく言うだろ?俺もそのジンクス通りになってしまうのではないかと思っていたけど、確認してよかった~。


「そうなんです、お嬢様は感情を表に出すのが大変苦手な用で、今までも大抵の方が不機嫌とか怒っている、不愛想など陰で散々、悪口を言われていました。


長い間、一緒にいる私達でしたら徐々にお嬢様の表情の変化が分かってくるのですが、みなさまお嬢様と表面上でしかお話しされませんので、いつも誤解なさるのです。」


「まぁ、普通に考えたら誤解されちゃうよな。」


「はい、お嬢様もそのことに関しては気にしていられる様子で努力なされてはいるのですが実を結ばないようで。王子様が理解のある方で本当に良かったです。私にとって、お嬢様は小さい頃から見てきましたので無礼とは思いますが娘のように思っているんです。どうぞ、お嬢様のことをよろしくお願いいたします!」


おばちゃんは俺の両手を握り、涙を流しながら頭を下げている。おばちゃんからしてみればメリルが自身のことで悩んでいるのが心苦しかったんだろ。娘のように思っていたのであればなおさらだ。


「任せてください、彼女のことは必ず幸せにして見せます。確かに、今回の婚約は政略結婚ではあるけど、正直彼女を見た時にひとめぼれだったんだよ、めちゃくちゃタイプだ。これから夫婦になるのなら長い時間を一緒に過ごすことになるからな。その過程で彼女の感情なんていくらでも引き出してやるよ。」


すごい恥ずかしいセリフを言っているのは分かっているけど、このおばちゃんの前では自分の気持ちを隠さずに正直に答えたほうが良いと思ったんだ。彼女のことをここまで真剣に考えている人だ、この気持ちを聞く権利くらいあるだろ。


「ありがとうございます、ありがとうございます。」


おばちゃんが感極まってさらに涙を流していると部屋の扉が開かれる。商業組合の副会長と打ち合わせを行っていたメリルたちが帰ってきたのだろう。うわ~、こんな場面を見られでもしたら俺の赤裸々な気持ちが丸見えじゃないか!さすがに、まだ婚約したばかりでこれは気恥ずかしいぞ。


俺が恥ずかしい気持ちを何とか心の中で抑えているとメリルがゴミを見る目でにらみつけてくる。ん?なんかものすごい形相でこちらを睨みつけていないか?


「帰って下さい!今すぐに出て行ってください!」


彼女はいきなり俺の腕をつかみ、部屋からたたき出す。


「えっ、ちょっと、えっ。」


俺はなぜか部屋から叩き出されてしまった。えっ、俺なんかした?やっぱり、俺は嫌われているんじゃないか。流石に今のは俺でなくても泣いてしまうぞ、ぐすん。


俺はあまりの衝撃に動揺で何も考えられることが出来ず、侯爵へのあいさつも忘れてトボトボと城へと帰っていくのだった。もう、立ち直れない、城の部屋で引きこもろう。

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