15-夜の決定
濃い紅茶と食事を腹にいれ、仕事に戻った。粗方まとめられた、書き上げたものをグスタフは再読する。
魔木対策を、発表までする必要がある。その準備できるものを集中して終えた。
「今回は運が良かった。」
魔法による短期戦略、少数による転移魔法で魔木が活動を始める初期に到達できた。キースが居たのは大きいが、1人での対処は無理だ。
組織的に対応できるようにしなければ、対処が遅れるだけ被害が拡大する。
属性魔法を使える者が少ない獣人の部隊で、対処できる方法を確立しておかなければ。
極北は、まだ謎が多い地だ。
机に置いたセリの作ったお守りを見る。個人的に気になる代物だが、後回しになってしまうだろう。いや、キースが乗り気だな。
シュルトの協力とカナンを取り込み、セリとロードを結びつける。そうするだろうな。まあ互いに良い環境なのだろう。
(俺がどうするかは見透かされている。)
居心地が良い。しかしずっとこれに掛かり切りになる訳にはいかない。
故郷に置いてきた恋しい相手も居る。
王都で忙しくなる日々が、少しでも早く終わるように。俺はペンを持った。
「転移陣の使用は、なし。」
手紙を素気無くキースは答えを呟いた。相手はそう答えると見越して書いているだろうけど。
“さっさと帰って来い”という意味を遠回しに丁寧に、わかりづらく書かれている。
「意味が読めない」
セリに、貴族同士の手紙というのを見せてあげていた。ロードの膝に座り、カナンに時折読み方を教えてもらいながら全文読み切ったらしい。
難しい言い回し、独特な惰性の文。カナンが、“装飾的な表現”と説明をしていて少し笑えた。とても貴族へ配慮した表現だね?
その様子に、立派に手なづけている。と評価する。
僕にも掛かってくる値踏み、貴族達がこの3人を放ってはおかない。その側に竜人の逆鱗があって、触れてしまう危険を軽々しく扱う。
「“美の女神の頬に口づける事を許して欲しい”?」
セリは一文を読み上げて、キースを見る。美の女神と形容するのは良いけど、内容は仕事に帰って来いとなるとチグハグな賛辞だ。部下の人が書いた手紙だし。
「狩の女神でもあるから、難しくても確実に帰って来いって比喩?」
カナンは試してみな?とロードにやってみろと示唆した。
難しいヤツにも、すんなり受諾させる行為を。セリが、ちゅっとほっぺにする。
…間。
「最凶に可愛い!」
ロードは、感動してぎゅっとセリを強めに抱きしめた。
(とりあえず私の勝ちらしい。)
身体強化でぐえっと言うのは避けられた。もう流れるようにできて、慣れている。
「最強の男を黙らせたな〜。」
カナンが仕向けた悪戯の成功に、予想通りと笑う。こうなればなんでも言う事を聞くぞ、と。ロードの反応にセリは驚き、宥めている。
その戯れる様子をキースは落ち着きはらってお茶を飲んで眺める。
“最強”の竜人、“最狂”と言われる狼獣人。この3人をみて、誰が強いのか考える。
セリを中心に、うまく回っている。意外だったのは、カナンが思ったより面倒見が良いことかな?
懐かれればと言ったところか。やっぱりセリの方に主導がある。
手紙はまだ、お勉強の材料になっていた。見られて問題は全くない。
シュルトのが解読が慣れていそうだけど、今はグスタフを呼びに行っている。
数日後、この街をたつ。
向かうのは、王都だ。
最短、最速で戻るのはつまらないけど。そろそろ、うるさくなるだけだからね?
部屋に戻ったシュルトと、一緒に連れてきたグスタフが揃い出立の日を皆に告げた。
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