10-川の生き物

川イルカ

子供の頃には川で過ごすその生き物は、友好的で悪戯好き。


尾で川辺にいる子供達に水飛沫を上げて、揶揄っている。

「川イルカは群れで動くから、船を引っ張ってくれる。」


カナンの説明を聞きながら、止まっている船を見ていく。観光客らしい団体も見えた。その豪華な船だが違和感を持つ。


「薄い?」


セリが乗った船とは高さが違った。船底を擦らないためで、魔物の対策に頑強な海の船より速さを重視している。


「速さを重視した造りだ」


なるほどセリは、ロードのひと言に頷いた。



近くを子供が通る。遊んでいるのか手伝いなのか?暇つぶしとおやつ目当て働いていた。地元の子が立ち止まる。


「金持ち?」

見ているのはセリ、私か。


白いワンピースは働くのには不向きで、護衛を2人もつけたお金持ちに見えるらしい。

「違うよ」

否定した。セリのお金ではないので、当然と思ったが。


「あ、そ。」

立ち去った。


お金持ちだと答えたら、どうだったんだろうか。彼の行く先を見ると荷物持ちを買って出ている。そうやって稼いでいる様子だ。


荷物もないし、護衛が2人と見られているのなら客にはならないと判断されたのだろう。


それにしても、格好で随分印象が変わるんだなと思った。

セリは教会の子、日々の暮らしを切り詰めて余裕のない雪国の生活をしていた。


(お金持ちなんて、一番縁がなさそうなヒト達なのに。)


自身がそうだと思われるのは不思議だった。


「セリ?」


ロードのお蔭か。手を繋いでみる。

甘えてみようと態度で示してみた。


振り払われない手が

ふらりと森木々の見える所まで来てしまう。


そろそろ、食事を探しに市場へ戻っても良いだろう。


船影に、ナニカをセリは見つけた。


「毛玉」


小さな魔物だろうか?


ネズミ型の魔物がよく出る、薬師が作った罠で捕るんだとか。

何匹かで換金もできる。依頼も出ていた。


近づいて良いか、じっと観察する。


ロードもセリの視線の先を見た。

「猫だな」


ピヨっと三角の耳が出た。


「ん?猫か。まあ船に乗せることもあるから、不思議じゃないが。」


従魔として、鳥や猫を伴う船員はいるらしい。カナンが続けていった。

「クロ、だな」


艶やか墨のように黒い。

ただ、カナンが言いたかったのは多分、黒色を忌み嫌う考えの事だろう。


クロの魔獣が、街を襲った記録が残っている。そこから、黒色の生き物を嫌って排除する考えがあるのだとか。


カナンがそうではなく。怪我で動けないのかもしれない。今も身動きしない。


セリはそっと驚かせないように、水魔法を飛ばした。

飲み水と少しの魔力補給になるように。

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