7-水瓶

白い彫刻は滑らかな肌と注がれる水を形作る。

その先は水瓶


「水を注ぐ乙女の像、な。」


観光名所になった像に前で、カナンが案内文を読む。


「水魔法で水瓶を満たす乙女は、清らかな飲み水を注いでくれます。

この水は、健康でいられるよう願掛けるために…」


「この柄杓で、注ぐの?健康って?」

セリが手で持ちながら内容を確認した。


「水を飲んで腹を痛めないとかー」

「船乗りには必須だな」


カナンの例えと誰向けかをロードが答える。港を行き来する船員は、自ずと市場近くに足を運ぶという配置になっている。


乙女像のモデルとなった女性がいるのだろうが、今は市場と海の間に立つ境目に置かれている。側では、教会の喜捨を願って花を売っているのは観光客向けだろう。

そんな意図を読む大人とは違い、セリはしげしげと水瓶の模様を見ている。



「入れる量はどれくらいだろう?」


あまり大きくない柄杓、高さ、


セリは、水魔法で満たす事にした。ざああーとかなりの量を入れる。魔力に余裕はあるが、個人に風呂3杯分を入れてもまだ足りない。


ロードはその様子を見守りながら、思考する。想定は、海水?その場合、噴き上がる仕掛けが作動するだろうか?違う気がした。


「満たす、雨でか?」

「川から、ずらっと人を並べて水を注ぐんだってー」


花売りから花と情報を得たカナンが答える。


「溢れた!」


水の流れが、巡る。

さああ!と噴き上がる。


「へえ。水瓶が満ちるとこんな仕掛けがあるのか。」

飛沫を受けて、カナンが感心する。


その近くでセリに水滴がかからないよう、ロードは寄り添っていた。


虹が掛かる。


市場の人達が、「久々に見たなー」「おおっ有り難い」と、賑やかになる。


「仕掛けが動くのは、珍しいのかな。」

「あー、これ量が必要だしぃ。魔石じゃ相当大きいにじゃないと無理だねえ」


カナンの指摘通り、大きな水の魔石なら可能だ。しかしそういった魔石は、船乗りが買い締める。

魔石が使えないとなりと、水瓶を満たすほどの水を用意するのは難しい。この仕掛けは、祭りの日の目玉のするほどの珍しい物だった。


魔石を使って動かす事もできるが、水の魔石をここで失うのは勿体無くてやる者はいない。この場所は海と緑深い森を通らなければ、ヒトの住む街にはたどり着けない。


冒険者も飲める水の大切さは身に沁みている。それ故か、水瓶に小さな水の魔石を入れて、健康を願う旅人が居るくらいだった。


並々と注がれた水瓶は、再び静かに水を注ぐだけになる。その様子を確かめるとセリ達はすぐに見える、市場に足を向けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る