6-水の恩恵
早朝の薄暗い道を行く。会話はなかった。
少し眠い目を擦りながら、セリには速いスピードで進む。この辺りはまだ住民も眠っている時間帯だ。石畳みが続いていた道は、砂浜へと変わる。
この先は海だ。
「まだ暗い」
そう囁いたセリの髪を、さらっと撫でるロードの手の感触。前にはカナンが居た。ずっと尻尾を見ながらセリは来たのだ。
(ちょうど見えるから、仕方ない)
セリは不可抗力を主張するが、2人にはバレバレだった。ただ触れなかっただけで。前を向いているカナンが気づいたのは、薄ら寒い冷気をロードから感じたからだ。
うっかり尻尾が凍るところだった。話題に出せば、確実に凍らされる。番への関心を得た嫉妬は、地味に冷たかった。
そんな2人の水面下のやり取りに気づかず、セリはじっとその時を待つ。
体温を奪う風に、セリがロードに身を寄せた。その様子をきっかけに、寒さが霧散したカナンが聞く。
「セリちゃん、寒い?」
「大丈夫。」
ロードがぎゅっとセリに回した腕を強める。密着した体が、風を防いでくれた。
(もう少し)
視線はそのまま。海から出る、朝日を見た。
明るくなっていく海と、白い砂浜が広がっている。
セリが見ていた雪ではない白色が、とても綺麗だった。
何故日も昇らない早朝に3人がこの場所に?ここに来るのを決めたのは、グスタフの情報が発端だった。
「海辺には“水瓶を持つ女性像”がある」
シュルトは知っていたらしい補足した。
「有名なヤツね。」
「教会と関係あるんだったかな?」
キースの投げかけた問いに、シュルトが答えている。
「ええ、観光名所にもなっていて、海から出てくる太陽が素晴らしいのヨ。早起きしないと見れない宝物ってネ」
観光名所とも言えるらしい。
セリは船での寝起きは部屋で、少々窮屈だった。雪に囲まれた景色が常で海も遠目に見た事があるだけ。その時も暗いなという感想だけで、実質見えていない。
感動ものだ。
白いワンピースが、風に遊ばれる。
その下には動きやすいようにズボン。シュルトが用意してくれた服は、上質な生地に白い布。
仕事向けではないが、場所柄に合った服。履き物は突っかけるだけのサンダル。
草履のような形が、人族の国由来の物だった。
セリにも見覚えがある筈だが、素材感が違うため別物と思っている。
細々と交易があるのだが、セリはまだ知らない。
知らない事も、景色も多い。
そう知ったセリは、海を背にして歩き出そうとして一緒に来た2人を伺い見る。
次は、水瓶のある広場へ向かう。
案内のため先に動き出したカナンを、ロードとセリの2人が追って行った。
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