(14)宵闇

夜の深まった頃、貴賓室はすっかり寝静まっている。

安全の疑いもなく、寝息は穏やかに響いていた。


そんな船が浮かぶ、海の底から忍び寄る存在。


その気配と呼ぶものに、すんなり気づいた者。その感覚で魔物の気配に、気付いた者が対処に動き出す。音もなく、静かに。


寝息は途切れていない。



別の場所、船の外では。熟練の海の男が、波の僅かな変化に気づいた。

妙だ、おかしいと自身の警鐘を信じて海を睨みつける。


この商会が用意した隠匿、魔物が嫌悪する波音がする高価な魔導具が備わっている一級品の船だ。船員は小僧達でも、なかなかの守りだ。


乗っている貴族は面倒そうなのがいるが、あれくらいなら甘ちゃんか。

高貴そうなのは静かだし、周りの面々もそうだった。商人にどっかの騎士。そして竜人。


ありゃ、ちょっかいかけちゃイカンだろうに。

小さな子供を守るように過ごしている客としては楽な面々。


危機が近づいている今は、貴賤の関係もなく一艘の船の上。一縷の望みを希望的観測といえどこのまま通り過ぎる事を祈っているが


(あの人らは助けてくれるか?)

大物に目をつけられる可能性を極力、排除していたのだがコレは果たして通り過ぎてくれるだろうか。緊張をはらむ暗い海をにらむ。


“静かにしていろ”と波に揉まれる音さえ、煩わしく過敏に反応してしまいそうだ。


夜の見張り役が、専用の魔導具に寄って敵の接近に気づいたのは最後だった。まだ若いと言い張る男は魔導具の反応に気づいた。急ぎ、老齢な男に報せに来たものの黙っているよう視線と動作で命令される。


“なぜ?すぐに動かなければ危険かもしれない。”

どうするにしても、この男の指示を仰がなければ行動を決められない。手で制されるまま、内心は焦るも従った。この老齢な男の判断を尊重するぢかない。


その2人の船乗り、視線の先には…男。

舳先に悠々と立つ姿は、武器を構えていない。客人として貴賓室に篭っていた男の方だと髪色で、月明かりでも判断できた。


“あのままでは、海に巻き込まれる。”

そうとしか思えない訴えを老齢な男に、向けるも。


黙って制されたまま。


あの男に何を期待しているのか?


そう目を離した先から、魔力。

風が唸り


「ヤバイ」

声が漏れた。轟々と海が荒れた時、大物の魔物が出た時。


“避けて通れないもの”

その、本能的に危険をビリビリ当てられた男は、目の前にできた氷の槍が突如として現れたように見えた事だろう。


それが、船に近寄るのを阻み瀕死にさせた。


日が昇るまでオブジェのように出来上がった氷に驚く船員たちに、興奮して伝える事になる。



そんな騒ぎとは無縁でいた貴賓室は、穏やかな朝を迎えるのだった。








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