北の砦から

① 思い返す

セリは自身の部屋を訪れた。運命神の教会がある雪深い場所で育ち、そのあと北の砦と呼ばれる僻地で兵士達と過ごした。


その生活で、1人部屋というものなどない。それが今はセリの部屋だと与えられているのが慣れなかったのだけど。


(久しぶりに入った。)


そう思うのは、ロードの部屋にずっといるからだ。

移動しても食堂。本を借りにグスタフの部屋へ行くのにもロードが一緒に居た。


「たまにはひとりで過ごして良いのヨ?」


セリが1人で過ぎせるようにと、シュルトが用意してくれた私室。2階に上がってすぐの角の部屋。窓から明るい日差しが入り、魔の森と呼ばれる場所の縁も見える。


この屋敷に来てから、長閑な時間が過ごせていた。


板張りの床に足を踏み入れる。白い壁は明かるく綺麗で、文机が魔の森を見るように一つ置かれている。


それは持ち上げて閉じると蓋が鍵がかかるようになっていて。セリは、キースとグスタフに借りた本をしまっていた。


本は高価だし、鍵には妖精から悪戯されるのを防ぐ効果もある。


今日は、日向ぼっこをするために来た。板床に引き詰められたクッションがいっぱいの場所。

このクッションは、北の砦の部屋にあったものだ。部屋の隅っこだけカラフルになっている。それ以外に物は置いていない。


今は、日の射し込まない影になっている奥の戸棚は、服が入っている。

たくさんのドレスもあった。


『セリのために作ったものだから』と言われてあるが、なかなか着る機会がない。そのうち活躍の日が来るのだろう。


クッションの上に寝転がり、部屋を見る。

「とても、変わった。」


雪のない景色、重ね着していない服。ひとりの時間を持ち、温かな部屋で昼寝ができる。


おやつは毎日食べても良いし、今日の夕食も楽しみ。

今寝たら、目が覚めて雪の上に居るんじゃないか?そんな夢だったと思うのか。


今は、そちらが夢だと思える。


陽射しで温まったクッションのにおいが、心地よい。

(変わったのは私の方か。)


そんなに私は変わったのかな?

その答えを探るために、セリは≪獣人の国≫に来るまでを思い返す事にした。


横になったものの、眠りにつくまでには時間がかかる気がする。寝返りをうち、窓から見える空を見た。


明るい空、厚い雲は以前は見なかった景色だ。

こんな風景が空の繋がった場所にあるとは考えもしなかった。


そう、まずはあの海からの迎えから始まったんだったと。

少しの眠気を感じたセリは、思い出す。

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