12-お呼びでない

「あちらのお客様がご挨拶をしたいと」


会いたい知り合いはいないらしい。それに、キースに会う手順としては最悪の方法だ。


「お忍び中だから。」


セリも予想した通り、キースから出たのは断り文句だった。美味しいケーキ、好みの熱さの相性の良い紅茶。


それを邪魔した人に会いたい気持ちは起こらない。


特にこの後の用はないので、もう少ししたら帰ろうかと話して決めた。

すぐだと待ち伏せされ、出会ってしまうだろう。


“ああ、偶然にお会いできる事を感謝しなければ”とでも話しかけてきそうだ。


何回かそう言う事はあった。キースの顔は王都では知られているし、有名な貴人…らしい。セリはまだ実感していない。特権階級だとは思う。


そういう方々のお忍びに、声をかけるのはマナー違反というのもあるらしい。それを見越しても近づいてくる人は、会うほどでもないか“企みがある人”。


「脅威はないけど、面倒?」


キースの立場、能力を使おうと狙われる事もあるらしいとは聞いている。

今のところ、嫌がらせ程度と見ているが。


「ねえ?」


ドレスの女性が声をかけたらしいが、無視(スルー)。


セリは視線を向けないようにした。目を合わせたら。頭に乗る。


笑顔で、知り合いも同然と声をかけてくる!以前の経験から、セリは対応を覚えた。


「ちょっと!」


きっと、店の人を呼んでいるんだ。

そうか。従者か。


仕立ての良いが、動きやすい格好のセリ。ロードが護衛とわかっていて、声をかけるには凄い。


(ロードに勝てるわけないのに。)


キースの微笑みは崩れないが、たぶんさっさと消えろって思っていそう。

そこにもう一人、でっぷりとした男がキースに話しかけている。


内容は、力を貸して欲しい、慈悲にあやかりたい。

キースにとってどうなのか?の意図が入っていない。こういう話し方の人に、協力しようとは思わないよ。


「お嬢さんもそう思われますよね?」


(ふるな。)

という巻き込まれたくないセリの本心とは別にどう答えるか。



下手にしゃべっても怒られ、勢い好き貶される。

そうなるとロードが、止められない。


セリは慎重な対応を求められる。キースはこの場合、止めに入ってくれないのだ。


カナンが居てくれれば、まだ何とかなるのに。


従者らしく、キースの少し後ろをついて馬車に乗り込んだ。

あの2人、あの店は出禁になる気がすると思いながら。


キースは口直しと言って、甘いものを買って帰ると寄り道をしてから拠点に帰ったのだった。

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