10-買い物

馬車が止まったのは、書店の前だった。

出入り口に2人のガードマンが立つ、高級な建物。


キースが魔術書を見に行きたいと言ったので、ケーキを食べる前に寄った。


本は高級品だ。こだわりの紙とインクに魔法で劣化防止され、装丁の素材を厳選している。貴族向けの高級な仕様も、知識人向けの知識の結晶は高値でも売れる。


それ相応に作る事で、関わる人達が生活できるとシュルトが商人の視点で言っていた。


セリが買える値ではなく、古書を求めて掘り出し物を古本屋か市場で探すのがせいぜいだ。


キースとロードが居ることで、入店できると認識している。


ここでは、有名な著者が潤沢な資金を投じて作られた本が並ぶ。魔術書の類もあるので、警備が厳重だ。


高価な物で貴族向けのため、子供の姿を見た事はない。


貴族の子なら、来るだろうか?

その場合、従者に頼む事にセリは思いつかなかった。


セリ独りでは入れてもらえないが、すんなり通れるのはキースの貴人としてのお忍びオーラのお蔭として、セリは何だと思われているのだろう?


ロードは護衛だ。体格でひと目、見れば戦える人だと分かる。珍しい翠色の髪で、“竜人ロード”だと分かる者もいるのだろう。


その名声で一緒にいる人が邪険にされる事はない。なんなら、丁寧に扱われる。


ロードがいれば、高ランクの冒険者を護衛にしていると見なされるが。セリの立ち位置は、不明になるだろう。


そう店の者の視線を無視して、セリは本を眺める。

新しく入る本は少ないため、見たことのある背表紙を辿る。


魔術書の方に行ったキースにはついて行かず、ロードと一緒に歩く。


キースに護衛は必要ないだろう。建物内に、声をかけたい輩は居ない。

ここで話しかける場所ではない。せめて外に出た時だろう。


お忍びに声をかける者は相手しなくて良い、という約束事でもあるのだろうか。


店の格にも関わるらしく、静寂が守られた空間を小声で話すだけ。

その静謐な雰囲気を好ましいと思うくらいには、本が好き。


賑やかに、図鑑を眺める『竜の翼』での時間も楽しいとセリは思い直す。


ロードを眺めると、高いところにある本を勧められて開いて見る。

グスタフの蔵書にあったか、なかったか?


欲しければ買ってやるとロードに言われながらも、なかなか手が出ない。

採取図鑑の本棚から、魔術書の方へ行くか?いいや、料理のレシピを見に行こうとロードを引き連れて本の森を歩く。


便利にロードを梯子がわりに使っているようだが、たぶん2人でいるとセリがお忍び中の貴族の子に見られると気づく事はなかった。

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