8-授業の準備

散歩が終わり、まったりした後。

誰かの用事を手伝うのが、セリの次の行動だった。


また散歩は流石にないが、街へ出てギルドに行ったりシュルトの店に訪れる。そこには、職人見習いが集まって生活し、技を学んでいる。多くが女の子やまだ子供という年齢なため、セリとも話が合う。


今日は違った。


「手伝って欲しい。」

グスタフからの要請に、セリとロードが応じる。


カナンはシュルトの手伝いの方だろう。この拠点の食糧庫に荷を納めている。セリの出番は下拵えをする事。昼食と夕食は、たぶんシュルトの家から持ち帰りの品がある。


(ポトフだろうか)


特徴的な香辛料の匂いはしなかったためセリはそう予想しながら、グスタフの部屋へ入る。


左右、なんなら前にも上にも本が並ぶ。


本棚に綺麗に収まっているさしずめ“本の森”になっている部屋は、3部屋分ほど打ち抜きの広さを本の壁で仕切ってある。グスタフの生活場所は、奥の奥。


どちらかと言うと、もう一つの出入り口のが近い。そこと浴室をのっそり移動するグスタフが時折見られる。


集中している時は、そに移動さえ見えず部屋に篭っているのがグスタフだった。


セリの手伝いは、研究の方ではなく授業だ。

グスタフは、研究者だが学園での授業も受け持つ。


「仕方なくな。」


そう言うくらいには乗り気じゃない様子。研究をする分、柵(しがらみ)があるのだろう。


本棚から資料を取り出し、採取物を並べる。


洞窟型ダンジョンの研究者のグスタフが話す内容は、もちろんダンジョンの事。


講義のようにグスタフに話を聞いたり、高いところにある本はロードにとってもらったりして時間が過ぎる。


「この魔物なら、南のダンジョンに出てきたな。」

「色が違うが、同種とされている魔物だな」


「ドロップは?」


ダンジョンで魔物を仕留めた場合、体が吸収され残る品のみ手に入れられる。全部手に入らないのか?は研究者が求める謎のひとつだ。

「羽だ。」


「爪も稀にドロップする。」

「嘴を出す魔物もいた気がする。」


クチバシ、何に使うんだろうか?


ドロップ品を選びたいも、そうだが。珍しい物が高く売れるとは限らない。


そういうドロップ品を覚えるのも、冒険者に必須な知識だ。

手に持っていた羽を眺め、何に使うんだろうと話しながら作業は終わった。


セリはグスタフが学園で行う授業に参加した事はないが、個人授業とも言える贅沢な時間だと思う。


「昼にするか」


お腹も減っていたので、食堂に向かう。途中から、スープの良い香りが漂っていた。



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