5-商売中

新人冒険者のセリに、指名依頼など来るはずはなく。貼り出された依頼を受けにいくのが、新人の姿である筈だが。


セリはその辺が新人とは言えなかった。

薬草採取なら、既に十分な知識を持っていた。なんなら、カナンに採取物を預けて報酬を分けている。


採取の記録は残っていないが、生活に十分な稼ぎ方ができるほどだ。1人で魔物と出会ってしまう森に入るのも簡単に…。


「ロードの許可が出るかい?」

「ムリかな。」


カナンがお付きでないと、外出の許可が出ない。

「ロード付きで良ければ、どこでも入れるんじゃないか?」

「その通りだから怖い。」


危険な魔物のいる僻地から、王城の中まで連れて行ってくれるだろう。

どんな手段でも、セリがお願いすれば入れる。


その事実が、困る。

「問題視されたいわけじゃはいから」


冒険者の認証が必要な危険地帯か、侵入者として罪になるか?

どちらも遠慮したい。


「そもそも用事がない。」

話に入ってきたのは冒険者ギルドで会議を終えてきた『竜の翼』のリーダー。

「ロード、お帰り」


セリを番と言う竜人だ。


片時もセリと離れたくないのが本心だが。セリの望みを叶えたい気持ちもある。

両方味わうために、セリを膝の上に乗せて座った。


「また遠征しないかと指名依頼を出された。」

「何か気になるのあった?」


「依頼相手が面倒だ。」


ロードとカナンがいれば大抵の魔物が屠れるし、繋がりを持ちたいと言う貴族もいる。


「まだセリの情報は流れていない筈だが、『竜の翼』の新人は気になるのだろう。」


疲れた様子を見せるロードに、セリが優しく労わる。


それ、セリちゃんの同情を引くポーズだからね?と知りつつ、見ているカナン。

ままある日常なので、慣れが必要だ。


「周りを心配させ過ぎないように動いてるつもりなんだけどね。」


セリは、自身が受けた少しの怪我でもロードがキレる事を知っている。

それを止めるのは、セリの役目であるとも。


その役回りは、受け入れているが気づかって動くのは難しい。

特に、ロードがその必要がないと言ってくれる点で。


自由は好ましいが、誰かの不利益だけを与える存在になりたくないのだ。


まあ、色々考え過ぎても答えは出ない。


以前からの目的であった、自活できる能力を培うのに集中しよう。

セリは、薬師見習いでもある。



材料は、森で採取してきた物。

注文されている品を作るために、部屋に向かったのだった。

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