第3話 竜の玉(ぎょく)

「わりぃな。答えはわかってたんだわ。この金で奢るから勘弁な!」

賭け金は、飲み代になるらしい。獣人の男カナンはそう言って新人冒険者に向き直った。


自身が賭けの対象にされていたがセリは、果実水を頼んだ。奢り飲み物は美味しい。


他の冒険者も狼獣人と馴染みのように話す新人が気になるが、タダ酒も忘れない。正確に言うと俺らの金だが、気にしない。


ワイワイガヤガヤと戻るかと思ったが、違う一団が合流した。


「新人はオマエか。」



“所属があろうと、力で引き込めば良い。”

端的に行って、タチの悪い方だ。


「てめえが新人か。先輩が教育してやろう。さっさと来い。」


初対面であり、入るとも言っていない。


「興味ない。」


新人の態度に武器を持った男達が殺気立つ。囲まれた状況は、流石に分が悪いだろう。狼獣人に守ってもらう気か?


それでも、数と武器持ちに対抗できるとは思えなかった。それでも、


「面倒」


態度は変わらない。新人の勇み足にしては、危険だ。


水浸しにしてしまうかと魔法放つのだろうが、それだけで退散する奴らではないのだ。


流石に止めよう。

飲んだくれの冒険者達の心が一致する。

相手はまあまあランクが上だが、ここで引くのは目覚めが悪くなる。


「セリ」


周りは、登場した人物に目を剥いた。


「竜人だ」


翠色の髪に、黄色の眼。有名な冒険者であり敵に回してはいけない最強種族。


「一人でできるって言ったのに。」

騒めきに興味なく新人冒険者は呟いた。



「結局、2人とも冒険者ギルドに来たんだね?」


潮が引くように、冒険者たちは下がった。そして3人は個室へ案内される事になる。


冒険者ギルドでは、この日。

最強で最凶なのを連れて来た新人の話題で、持ちきりながらも酒を飲んだのだった。

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