何もない

みさか/UN

何もない

には何もない。


そこには何もあるはずがない。


いつだったか。


人間の子供が入り込んだことがあった。


……いや、ない。


そこには何も無いのだから。


正確には、のだから。


そこに入る子供なんていないはずだから。


最初からそんな子供いなかったんだ。


そう。



それは昔々の話。


あるところにとても仲の良い兄弟がいた。


士郎、『――』、『―――』、の、三兄弟だ。


彼らはとても貧しかった。


翌日も厳しい年貢の取り立てが来る予定だった。


『――』と『―――』は、人一倍働く士郎をとても尊敬していた。


それは少し歪なほどに。


だから二人は一計を案じた。


そして翌日。


いつもどおり家に取り立てがやってきた。


士郎は弟たちが木の実拾いに出かけたので、一人で応対していた。


そして、「家の中には誰もいない」といった。


すると、何を思ったのか、年貢取り立て役の武士の一人が、家のなかに入って行き、すぐに二人の人間をつまみ上げてきた。


そしてこういった。


「誰もいないんじゃなかったか?」


「「いない」」


「な!」


武士が驚きの声を上げる。


それもそのはず。


つまみ上げた二人が声を揃えて「いない」と即答したからである。


そして二人は言った。


「「僕たちは存在していない」」


「お前ら何を言って!」


「「ここには何もない」」


そう繰り返す二人に、ついに武士は激昂し、斬り殺してしまった。


そして―――


そんな話はなかった。


士郎に弟なんていない。


元々一人っ子だ。



―――

ああ。そんなことがあった――


ことなんてない。


士郎?誰だそれは?


ここにはそんなやつ存在したことがない。



そうだろ?



歴史、思い出、記憶――


ここにはそんなものは存在したことがないんだから。

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何もない みさか/UN @misakaya

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