第21話 繋いで、繋いで、繋いでいけ

 全八クラス、各三十六人。勿論人数は前後するが、どこも規定人数となるように誰かが複数回走ることになっている。俺のクラスも、短距離で健闘した文化部なんかが二回走っている。

 人数が多い。それはつまり、走力に大きな上下差が生まれるということだ。まさかそこまで勘定してクラス分けをしているということはないだろうが、速い奴が集中したクラスや遅い奴が密集したクラスというものはない。平均値はどこも一緒だ。


 そこで作戦を立てる必要がある。と言っても、ことは単純だ。およそ三種類。

 まず、速い奴を前半に固めて、序盤でリードをつけておき、後半の遅い連中はそのまま逃げ切る、という作戦。

 次に逆、遅い奴に先行させておいて、そこでつけられた差を、後半に速い奴らで追い上げる。

 そして三つめ、俺らのクラス――神子島が取ったのは、安定化。

 基本的に速い奴と遅い奴、ないしは男女を交互に組み、速度を平均化する、というものだ。とはいえ四百を女子が走るのは辛いから、そこには体力のある男子を配置したりと工夫する。

 そして最後の千メートル。神子島と堂島を畳みかけて、一気に加速する。多少のリードなら容易に埋められる。堂島は百や二百の全国クラスだが、部活ではマイルリレー、千六百メートルリレーにも出ている。四百だって遅くはない。


 だからふたりに繋ぐまで、全員で追いすがり続ける。


 スタート、三十六人のひとり目。ここから既に、各クラスの作戦が透けて見えた。第一走に速い奴を入れたクラスは一気に前に出て、遅い奴や女子の入っているクラスは出遅れる。第三コーナーからカーブを回り、第二走者、二百メートルにバトンが渡る。ひとり目の四百メートルが出るまではセパレートコースだ。


 わーわーとあちこちから歓声が上がる。各コーナーで待機している三年生もそうだが、スタンドで観戦している下級生も前のめりに声援を上げている。先輩などを応援しているのだろう。


 距離がついたかと思ったら、次の走者で追い抜いていく。余裕があったと思ったら、次の走者で崩れていく。それぞれの走力にムラがあるから、あちこちでそんな光景が繰り返す。


 一進一退。

 その中で、俺のクラスは終始五位前後をキープしていた。


 四百メートルをボロボロになりながら走り切った男子から、次の女子へバトンが渡る。百メートルではふるわなかったはずだが、ここでは健闘した。先行していた前のクラスに肉薄にくはくするまで迫り、彼女にバトンを渡された男子は余裕でそのクラスを抜いた。

 じりじりと、じわじわと順位を上げていく。ときにはバトンを落としてしまったクラスを躱し、接触で崩れかけたニクラスをさらに抜く。抜かれても、抜き返す。離されない。

 三十六人でトラックを九周――残り三周。


 俺は、刻一刻と迫ってくる出番へ向けて少しずつ身体の調子を上げていく。

 砲丸投げでは体力を使わなかったが、千五百での疲労がまだ尾を引いている。俺の担当は二百メートル。なんだかんだと言ったものの、八瀬さんが何位でここまで来るかはわからない。とにかく前に出るだけだが、途中で足をるとかは絶対に避けなければならない。


 最後から二番目の走者が出た。空いたトラックに、次々と最終走者が入る。俺もトラックに立ち、走り続けるクラスメートを見据える。


 現在、順位は四位。もう少しで目標圏内だが――八瀬さんにバトンが渡る。

 十メートルで、ひとり抜かれた。五十メートルでふたりに抜かれる。カーブなのに遠慮も容赦もない。決して八瀬さんが遅いわけではない。他のクラスが速過ぎるのだ。抜かされるだけでなく、距離差までも開いてしまう。


 八瀬さんが来る。

 横で、一位から次々とバトンが渡っていく。だが、一切見ない。

 必死で走る八瀬さんを、彼女だけをまっすぐに見る。

 八瀬さんは、諦めていない。だから――

 差し出した手に、ぐっと、バトンが繋がれる。



「――お願い!」



 心得た。


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