第13話 開戦前、ワンステップ

 翌朝。体育祭当日。

 集合場所は、ダイレクトに陸上競技場だ。スタンド席が学年とクラスごとに割られていて、指定された場所に集合し、点呼を取る。その場所の仕切りなんかが、俺の仕事だ。

 体育祭実行委員としての仕事のために早起きして、陸上競技場に早朝に到着し、担当教師の寝ぼけ気味の指示のもと体育祭の準備をする。これが思いのほか早く終わり解散になってしまい、まだひとりも来ていない五組のスペースの隅っこに座って、ぼちぼち集まってくるクラスメートを眺めていたが……成程確かに神子島の言う通り、士気は悪くない。


 なんというか、ギラギラしている。

 強いて「絶対勝つぞ!」とか言う奴はいないのだけれど、「勝ったるで」という目力がいくつもある。

 どうやら今のところ、作戦は成功裏に進んでいるようだ。


「おはよう、御社みやしろくん。調子はどうかしら」

 半分ほど集まってきているあたりで神子島みこしまもやってきた。隅でひっそりと座っている俺を目敏めざとく見つける。

「あなた友達いないんだから、早く来すぎても話し相手がいなくて切ないだけでしょう。暇ならウォーミングアップにでも行ってきたら?」

「ほっとけ」

 委員の仕事がもっと時間のかかる予定だったんだよ。


 神子島は、昨夕の情緒豊かな表情が嘘のように無機質な鉄仮面だった。夢だったのかとすら思われるほどに隙のない無表情。が、


「期待してるわよ、アンチヒーロー」

「……お、おう」


 どうやら夢じゃなかったようだ。

 それから、点呼時間間際になってようやくやって来た八瀬さんも、なにを思ったのか俺のところまでやって来た。


「あ、その、御社くん」

「ああ、八瀬さんおはよう」

「お、おはよう。……それで、えっと」

「…………?」


 なんだか知らないが、言い淀んでもじもじしている。前にもあったな、確か談話室で。一体なんの用だろう。

 はっと閃く。まさかあれか、罰ゲームで告白か。冗談でもフラれるのはキツイけれど、フる側に回るのも辛いんだぞ。万が一オーケーしても「罰ゲームだから」って素面で言われるし、フッたらフッたで「あんな奴にすらフラれた……」とか愚痴られるんだぜ? そもそも罰ゲームの告白相手に設定されるくらい学校で人気がないということをまざまざと知らされて……って、いや、別に経験があるわけじゃないよ。トモダチのトモダチの話。うん。トモダチなんてひとりもいたことねえけどな。


 しかし結局のところ、今度も八瀬さんははっきりしなかった。

「や、やっぱりなんでもない。き、今日、頑張ろうねっ」

「え、ああ、うん」


 頑張りますけどね。生徒会長に立候補とか嫌だし。よくわからないまま頷いて、小走りに去っていく八瀬さんを見送る。本当に、なんなんだ一体。

 あと、地味にずっと堂島に軽く睨まれ続けているような気がしてるんだけど、こっちは無視無視。


「――さて」


 ん、と伸びをする。出席簿を持った先生たちがやって来た。点呼を取ったら、フィールドに出て、開会式。その後はすぐに競技開始だ。


 いよいよ、始まる。

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