第1話 美味たるフィンガー

 或る日、四時限目が終わり昼食の時間が訪れた。「飯だ飯だー」「今日何ー?」「鮭の塩焼き」「魚くれよ」「じゃんけんで勝ってから言え」

 用を足しに、トイレへと向かう途中の、その言動は最早、紛紜なのか戯れなのか判別し難いものだ。

 昔(といっても小学生)、漫画で読んだのだが、じゃんけんで相手が出す手は相手の行動一つで決まるという。グーなら歯をくいしばる、チョキなら────

 余談はこれくらいにして、飯に急がなくては。今朝は朝飯を食べる時間がなく、死にかけで四時間を過ごしていたのだった。

 皆が席に着き、手を合わせ一斉に叫ぶ中、いつも飯をフライングする輩が今日も既に、白米を頬張っていた。

 おかずのスープにはゴロゴロとした人参やジャガイモの入っていた。不透明の下に隠れる野菜は朝飯を食べていない僕の心を擽る。

 基本的好き嫌いをしない僕は野菜が好きという訳ではないが、食べられない訳でも無い。

 魚を取り合い、席に着いた者は笑みを浮かべながらスープを胎内に掻き込んだ。

 次の瞬間、頰を動かす彼の口の中から音が聞こえた。小さな音だったが、少しは聞こえた。

 人参にスジでも有ったのだろうか。

 ジャガイモの芽が混ざっていたのだろうか。 

 苦い表情で舌を出す彼の上唇と舌に挟まれた物は…

 『指』だった。人間の指と同じ容姿をしている。第一関節に沿って切断されており、固まった血のこびり付いた骨が此方を向いていた。

 彼に近い席から順に、数多の悲鳴が湧き上がる。

 口の中で指を転がしていた彼は、言葉を失ったと同時に口から本日の昼食一口目を吐き出してしまった。

 多少のグロ耐性を持つ僕でも実物を見るのは初めてだった為か、それとも思考回路は画面の中で描かれた肉片しか許してくれないのか。どちらかは分からないが、僕は取り敢えず目を逸らした。

 

 後日、その指は保健所と警察に届けられた。

 隣のクラスには一ヶ月前、指を口に含んだ彼の父親が原因の交通事故で片手をなくした者が居るのだが、その者は何故かこの事件の際に廊下で壱年死組を見つめていた。

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