第2話
「ニッキをつけなさい」と せんせいに いわれました。
なんでも キョーヨーヲモッテイルコトが キゾクのもちものとして ふさわしい のだそうです。
せんせいは わたしとおねえさんを きぞくにふわさしい とりにするために カイヌシさんに ヤトワレタといっていました。
キョーヨーヲモッテイルコトは よくわかりませんでしたが ならったもじやことばを よくおぼえるためには ブンショーを かくのが だいじだそうです。
おねえさんも おなじことを いっていたので きょうから ニッキをつけることに しました。
***
わたしが おねえさんと くらすように なってから たくさんの あさとよるを すごしました。
おねえさんは とても あたまがよくて やわらかくて やさしいです。
わたしが しっぱいしちゃったときも おこらないです。まえにいたところだと すごくおこられたので おこられなくなってうれしいです。
でも にんじんを たくさんたべなきゃいけないときの おねえさんは やさしくありません。
ぎゅってして むりやり おくちに にんじんを ちかづけてきます。
わたしの かみや はねが あかいのは にんじんを たくさんたべているからで あかくなくなったら ショブンされるから こころぐるしいけど たべなさい とおねえさんはいいます。
ショブンされると おねえさんと えいえんに はなればなれになってしまいます。おねえさんとはなればなれは いやなので がんばってたべます。
でも おおすぎるし あんまりおいしくないので ほんとうは たべたくないです。
それに たべないと おねえさんとおそろいの きいろになります。まえに おねえさんや せんせいに 「わたしもきいろがいい」といったのだけど けっきょくだめでした。
どうしてだろう。
***
おねえさんは いつも たくさんのことを おしえてくれます。
わたしとおねえさんは ホコリタカイはるぷいあだということ。
うたとおどりで にんげん(おねえさんはときどき エモノとよんでいます)を ミリョーすること。
じょうずに ミリョーできるほど つよいはるぷいあ ということ。
おねえさんは うたもおどりも とてもじょうずなので きっと つよいはるぷいあ なんだと おもいます。
カイヌシさんのおきゃくさまも おねえさんのうたとおどりを すごいすごいといって ほめていました。おねえさんがほめられると わたしも うれしいです。
わたしも もっとじょうずになって おねえさんといっしょに うたっておどれるようになりたいです。
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てんじょうで たくさんの ちいさなキラキラが光るときがあります。キラキラは「おほしさま」なのだと 先生が言っていました。
おほしさまが光っているときは「よる」なので「おやすみなさいをするじかん」だと ずっとずっと前に教えてもらいました。
今おねえさんと暮らしているトリカゴ(カイヌシさんがそう呼んでいました。おねえさんは「オリのまちがいだろう」といっていました。オリってなんだろう。)でも「よる」になるので、おねえさんと一緒におやすみなさいします。
おねえさんはおやすみなさいするとき、いつもわたしをだっこしてくれます。
わたしはもう、おねえさんと同じくらい大きくなりましたが、それでもぎゅっとだきしめてくれます。
おねえさんは相変わらずやわらかくてあったかくて、だっこされるととてもきもちがいいので、今でもだっこしてくれるのがとても嬉しいです。
それに、そうしてふわふわしていると、おねえさんも笑ってくれるので、ぽかぽかした気持ちになります。
でも時々「あのホシはニセモノなんだ」「おまえとホンモノのソラを飛びたいな」と言うことが あります。
なんでも、ホンモノのソラはてんじょうよりも、もっともーっと高くて広くて綺麗で、どこまでも自由に飛んでいけるそうです。
わたしはホンモノのソラを見たことがないので、どういうものかよくわかりません。
先生にも聞いてみたけど、外は危ないこと、ソラは特に危険なのだと教わりました。アメや風がすごいし、危ない生き物もたくさん居るともおっしゃっていました。
危ないってどういうことなんでしょうか。外に出たことがないわたしには、足の鎖が絡まって転んだりするくらいしか思い浮かびません。
だから、まるで夢のお話のように聞こえてしまいます。
おねえさんにそう話すと、悲しそうな顔をするので、いつも「わたしも一緒にソラに行きたい」と答えるようにしています。
外のことはわからないけど、おねえさんと一緒ならきっとどこだって楽しいと思います。
***
最近、おねえさんは先生とよくトリカゴの外に出かけるようになりました。
わたしはお留守番なのですが、ひとりで過ごしていると「おねえさんはこのまま帰ってこないんじゃないか」と不安になってしまいます。
なので、気を紛らわせるためにたくさん踊ったり歌ったりします。
どれもおねえさんに教わった大切な曲なので、かなでるとおねえさんが近くに居るような気がして少し安心します。
でも、前におねえさんが何回か「あさ」に帰ってくることがあったときは、どうしようもなく不安で、頭の羽根をいつの間にか抜いてしまうことがありました。
わたしが羽根を抜いてると気がついたおねえさんは泣きながらごめんね、と言って抱きしめてくれました。
それからおねえさんが「あさ」に帰ってくることはなくなりましたし、先生もわたしに優しくしてくれるようになりました。
でもきっと、いつかおねえさんは外に行ってしまうと思います。だって、わたしが小さい頃からおねえさんは何度も「外に出たい」と言っていたから。
そのときはきっと、先生も一緒だと思います。
わたしは、わたしはそのとき、どうなるのだろう?
わかりません。
トリカゴでおねえさんと一緒に暮らしていれば幸せなのに、それではダメなのでしょうか?
いつかわかるときがくるのでしょうか?
紅金糸雀の唄 牧瀬実那 @sorazono
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