14話獣人の国・獣王国オウガ
「うわぁー、壮大な森だね。ここが獣王国オウガなのか?」
どこまでも続きそうな森を見ながらワタルは呟く。
「えぇ、そうね。正確にはオウガの結界と言ったところね。通称、迷いの森、正しい道筋を知らないとけして辿り着かない」
「ただ、儂とセツナがいるから大丈夫じゃ。任せておけい」
わははははっと笑いながら、何の迷いもなく森の中に入っていく。
「ワタルよ。けして、グリムの後ろから離れるでないぞ。出られなくなるからな」
「フランの魔法で飛べないのか?」
最もな疑問をぶつける。
「この森では転移魔法は完全に無効にされ、飛行しようにもこの森より上は飛べないからの」
それはどういう意味?
「森の上に行こうとするとの。木々が急成長するかのように邪魔をするのじゃよ。行けども行けども上には行けないわけじゃ」
え、フランでも無理だとすると凄いな。
「この森は数百年前に獣王国オウガと妖精族、精霊族の友好の証として妖精族と精霊族によって作られたのじゃよ。儂も妖精族や精霊族は見た事ないがの」
グリムがこの森の歴史について説明してくれた。
さすが、ファンタジーだ。妖精や精霊もいるなんてな。
ワタルはワクワクしながら、はぐれない様にグリムの後ろをついていく。少し、進むと森の木々にワタルは違和感を覚えた。
「なぁ、フラン、変な事聞くけどいいか?」
「ん、何じゃ?ワタルよ」
森の木々を見渡しながら質問する。
「森の木々が何か....植物ってよりも動物の様な感覚があるけど気のせいか?」
「さすがは妾のワタルじゃな」
「ワタルは私のでもあるの」
フランに対抗意識を燃やす。
「わははははっ、ワタル殿はモテモテですな」
間に挟まれる身にもなってよ。
「それでこの森の事だな。ワタルの指摘通り森全体が動物かの様に動き、侵入した敵を迷わせるのじゃよ。
無事に森を突破出来るのは、この森に作製者である精霊族と妖精族、それに獣人だけだな」
グリムの後ろを見失わない様についていき、30分程経つ頃に森が拓けてきた。
「ほら、着いたぞ。ここが獣王国オウガじゃ」
森の外からは判らなかったが、巨大な城壁がぐるっと囲んでおり同じ高さの門も巨大で壮大である。
「大きいな。森の外からは分からなかったけど」
「最初に言った通り、森が結界の役割をしておってな。この巨大な門や城壁を目印にしようと思っても無理なんじゃ。」
門の前にいる近衛兵がこちらに気付き近づいて来る。
「おい、お前達何者だ?ここまで来られたという事は獣人はいるのは間違いないが」
ワタル達の代表としてグリムが近衛兵の前に出た。
「儂を覚えていないか?」
「ん?いや、待て!その顔....どこかで....」
ジーーーっとグリムの顔を見ながら考え込む。
「あっ、あっあああ....失礼しました!グリム様」
近衛兵の一人が顔を青ざめて土下座をする。
「おい、この獣人がなにか?」
「バカ、知らないのか!この人は狂狼のグリム様だ。聞いたことあるだろう。あの伝説を」
狂狼って一体グリムは何をしたんだ?それに伝説って....ぶっくくくくっ、笑いが混み上がってくる。
(若い時の誤りだ。忘れてくれ)
コソコソとワタルに耳打ちで伝える。二つ名と伝説と言われ恥ずかしいんだろう。
「ごほん、獣王に謁見をしたい。伝えてくれぬか」
グリムの伝言に困った顔する警備兵。
「今、獣王様は戦争の事で忙しく難しいかと」
「その戦争の事を聞き付けて、やってきたんだ。助けになると思う」
「はっ、了解しました。直ちに!それで、そちらの方は?」
近衛兵はセツナに指を指して聞くが、何か下心がある様な聞き方だ。
「儂の可愛い孫だ。手は出すなよ」
近衛兵の肩に手を置き睨みを効かせる。
「うっ、直ちに獣王様に確認してまいります」
ここから逃げ出す様に駆け出す近衛兵二人。
「すげぇな!一睨みで近衛兵が逃げ出したよ」
近衛兵が去って行った方向を見ながら、グリムってマジで凄かったんだなと思っていた。
「ワタルとフランが強すぎるだよ」
いやー、そんな実感ないんだよな。
「ん、どうやら来たようじゃぞ」
ギギーと門が開くと近衛兵がこちらへ駆けてきた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
警備兵の後ろについて行くと、そこは王の間や謁見室というよりは会議室みたいな部屋だった。
「おぉー、グリムか。久しぶりだな。友よ」
5㍍はありそうな虎の獣人だ。この獣人が獣王か。それにしても、大きいな!
「その隣にいる娘がグリムの孫のセツナか。大きくなったな」
ポンポンと軽くセツナの頭を撫でる獣王。
「それにしても、あの鼻垂れ小僧が獣王とはな。出征したじゃないか」
「鼻垂れ小僧は余計じゃ」
昔の事をほじ繰り返されて若干頬を紅くしている獣王。
「それで、後ろの二人は何だ。娘の方は魔族で、もう一人は人間じゃないか。何故ここに人間がいる?」
「それは儂らの仲間だからだ」
フランが急にグリムよりも前に出ると獣王に問うた。
「獣王よ。いや、テンガよ。妾の顔を忘れたか?」
そう言われフランの顔をジーーーっと見つめる獣王テンガは何か思い出したのか顔が青ざめていく。
「ゲッ、お、お前はまさか....魔王フランシスカか?」
「あぁ、そうじゃが。そのゲッとはなんじゃ。ゲッとは」
ヤバいと後退る獣王テンガは凄い勢いで土下座をした。
「す、すみませんでした。魔王とは露知らずにご無礼を」
「あぁ、よいよい。頭を上げろ」
会議室周辺に待機している近衛兵達は今の展開について行けずに数秒間、硬直していたが理解が追い付き一斉に驚愕の声が響き渡った。
「「「「「えぇぇぇぇーーーー!」」」」」
「ん、何じゃ?みんな驚いているようじゃが?」
そりゃー、普通は魔王がいたら驚くって。
「な、何で魔王がいるんだよ!」
「何じゃ、妾がいたら何か困る事でも?テン坊よ」
フランの獣王の呼び方に周りから笑い声が零れてきた。
「その呼び方やめい。それで、何しに来たのだ。魔王よ」
恥ずかしいのか話題を反らす。
「グリムとセツナは妾の部下で、その故郷がピンチなのかもしれないと駆けつけたのじゃ」
ありがたい。ありがたいのであるが....
「魔王よ。魔王自身が出陣したら、この世界の滅亡ぞ。来てくれたのは、ありがたいが帰....」
フランが獣王テンガに睨むと恐怖で最後まで言葉が続かなかった。
「安心せい。よっぽどの事が無い限り、見てるだけにしよう。このワタルが戦争を勝利に導いてくれるからの」
フランがワタルの肩をポンと叩き、みんなの注目がワタルに向く。
「その人間がか?笑わせてくれる。魔王も冗談が好きのようですな」
ワタルの事をバカにされて、怒りのパラメーターが上がっていく。
「あぁん、妾の夫がなんだって?」
「ですから....え、今なんと」
(獣王よ。ワタル殿はフラン様の夫じゃ)
グリムが獣王テンガに耳打ちでコソコソと伝えた。
「な、そこの人間が魔王の夫と申すのか!」
あり得ぬという思いでフランとワタルの顔を交互に何度も繰り返し見ていた。
「本当に?その人間が魔王の夫で間違いないのか?」
「さっきから言っておるのに、妾が嘘でもついておると?」
怒りのパラメーターがさらに上昇し、眉間に血管が浮き出ている。
ワタルはフランの怒りを収めるため、頭を軽く撫でると怒りのパラメーターは下がり始めた。
「むー、ワタルー、こいつらが妾の事を嘘呼ばわりしているのじゃ」
ワタルの胸に顔をスリスリと擦り合わせるフランに優しく髪を撫でる。イチャイチャしてる風にしか見えない。
フランの態度に獣王テンガや近衛兵達が口をアングリと開けたまま硬直している。
あの魔王がまさか人間と夫婦になるとは、どうしても信じらないと面持ちである。
「あの魔王が人間と夫婦なるとは噂だけなら、絶対に一笑していたが目の前であんなにデ、デレデレとしているところを見せられて信じる他ないだろう。
はぁー、あの魔王がまさか、こうなるとはな」
近衛兵達も魔王だけでも驚きなのに、その魔王が人間と夫婦となっているとはどんな反応したらいいか、分からず呆然として声が出ない。
「はぁー、それで人間、いやワタルと言ったか。ワタルがこの戦争に勝利に導いてくれると魔王が言っていたが、同じ人間を殺す事になるのだぞ。そなたにはその覚悟があるのか?」
獣王テンガがワタルに覚悟があるか試している。
「獣王よ。フランに出会った時から覚悟は出来てます。それに俺はあの国には恨みしかありません」
「恨みだと何があった?」
フランと出会った経歴を話した。
「うぉんうぉん、可哀想にな。勝手に召喚した上に国外追放とは辛かっただろ?グスン」
この王様は涙脆いのか自分自身の様に涙を流している。
「いえ、直ぐにフランに会えましたし、こうして仲間にも巡り会えましたので、辛くありませんでした」
「そうかそうか、良かったの。仲間は大事にする様にな。しかし、我はワタルの実力を知らん。
そこでじゃ。我と戦い実力を示せ。そうすれば、戦争の参加を認めてやる」
獣王テンガの提案でワタルと獣王テンガが戦うことになったのだが、ただ単に獣王テンガが戦いたいだけである。
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