13話いつもの朝 の日常

 朝日が窓から射して来た頃、ワタルは目が覚め昨夜の事は夢ではなかったと再認識する。何故なら、ワタルの隣にスヤスヤと気持ち良さそうに寝てるセツナがいるのだから。


「ほら、朝だよ」


 起こすためにセツナの体を揺する。


「むにゃ、おはよう。はわぁ」


 可愛い欠伸と背伸びすると掛け布団が落ち体が顕あらわになる。

 可愛いセツナの仕草に油断して、伸びてくるセツナの両手に捕まり引き寄せられ軽くキスをされた。


「キャーー、おはようのキスしちゃった」


 そんな事言うと素早くネグリジェを着ると部屋を出ていった。

 ワタルはセツナにキスされた自分の唇を押さえ、数秒間セツナが出ていったドアを見つめていた。

 ワタルも着替えると、丁度廊下で私服であるのか怪しいがくノ一衣装を着たセツナと会い一緒に一階に降りるのであった。

 一階にはもう皆が揃っていた。グリムは興味深そうにソファーに座りながらテレビを見ていた。

 フランはテーブルに座って、どうやらワタルとセツナの二人を待っていたようだ。二人が来るとフランがニヤニヤと微笑んでセツナに問う。


「セツナよ。昨夜はどうだったかの。ククククっ」


 そうだ、昨夜の事はフランが一枚噛んでいるんだ。だが、なんでこの二人は昨日あんなに飲んだのに二日酔いしてないんだ!


「それはもう!ワタルったら激しくて気持ち良かったですよ。もう、癖になるくらいに」


 本人の近くで何て話をしてんだ。止めて欲しい。

 嫌な趣味だが人の噂話やこういう他人の体験談を聞く事を楽しみにしている人は中にはいるのは確かだ。

 楽しいという事はこれもある意味では娯楽に当てはまるかもしれない。

 やられる方は堪ったもんじゃないが。


「ほぉー、なるほどの。ウフフフフッ、これでセツナもワタルの嫁だの。良かったでないか。のうワタルよ」


 誰がけしかけたんだ。誰が....まぁ、セツナの本心を知れたので良しとする。

 だが、フランとセツナの話が聞こえたのかグリムが近寄ってくる。


「なりませんぞ!フラン様はもう遅かったので諦めましょう。だが、しかしセツナは儂の大切な可愛い孫ですぞ。どこぞの馬の骨と知れない輩にセツナはやれませんな」


 グリムの言い分にフランが意義あり!とグリムに人差し指で指す。


「ふふふっ、一回この台詞言ってみたかったのじゃ」


 実はフランにある漫画を貸してみたら夢中になってしまったらしい。


「グリムよ。ワタルの実力は認めたのであろう。しかも、戦闘だけではない。生活に必要なスキル、いやそれ以上なものを持っている。セツナの事を幸せに出来ると妾は考えているのじゃが、何が気に入らないのじゃ」

「ぐっ、それとこれとは別問題じゃ。セツナの夫になる者は儂が決めるのじゃからな」


 昔の頑固じじぃの言い草の様に聞こえる。


「はぁー、結婚相手は自分で選ぶものと思うのじゃ。それに、ワタル程の者がそうそう現れるとは思えないしの」

「それでも、それでもじゃ。儂の可愛い可愛いセツナを誰にも渡したくない」


 これがグリムの本音の様だ。


「うわー、おじいちゃん気持ち悪いよ」

「き、気持ち悪い気持ち悪い....ブツブツ」


 セツナの一言でグリムは放心状態になり、膝が崩れた。


「グリムよ。さすがにそれは妾でも退くのー」

「フラン様、儂はこれからどうしたら....」

「だからの。将来のことは自分自身で決めればいいのじゃ。その決定に生暖かく見守ってやればいいのじゃ。

 相談された時にアドバイスするだけでいいのじゃ。そこは年の功と言うしの」

「そうなのか?セツナよ」


 フランの説得によって、もう少しで折れそうになっている。


「そうだよ。私はワタルの事が好きなの。もう、身も心もワタルの物なの」


 ワタルの腕と組み胸を押し付け、イチャイチャっぷりを見せつける。


「そうか....そうか。ワタル殿....」


 グリムがワタルの肩を掴む。


「セツナの事を頼んだぞ。ただし、セツナの事泣かしたら....」


 グリムに掴まれた肩がギシギシと力を込められ痛い。


「許さんからな」


 さらに、背中を想いっきり叩かれ転びそうになるが耐える。

 後、ヒリヒリと痛い。でも、セツナの事をグリムに認められて安心するが....


「後はお母さんとお父さんだね」


 グリムはセツナの祖父だった。もちろん、父母はいるのである。

 あぁ、まだ先の話だろうが今から胃が痛くなってきた。ちらっとフランの方を見ると察知したのか答える。


「妾には親はもう居ないのじゃ。ただ、セツナやグリム達が妾にとっての家族かの」


 フランの言葉に感激したようにセツナとグリムが涙を流す。


「姫様」「フラン様」


 二人はフランの前で片膝と右拳を床につき、主あるじに忠誠を誓うように頭を垂れる。


「「一生ついていきます」」

「わははははっ、ここは魔王城ではない。魔王城ならいつ知らず、魔王城の外なら普通に接してくれるかの」

「しかし....」

「了解よ。姫様、いえフラン、これでいいですか?」


 急にフランにフランクな話し方をするセツナを見て、グリムは呆気にとられている。


「セツナ、良いではないか。グリムは....無理せんでいいぞ」

「せ、せめて、フラン様で我慢して下さい」


 グリムにはそこまでが限界みたいだ。


「まぁ、よかろう」

「はいはい、皆さん朝食が出来ましたよ」


 お盆でワタルが運び、テーブルの上に並べる。朝食の内容はトースターで焼いた食パンにコンガリと焼いたベーコンと目玉焼きを乗せた。

 飲み物はこの世界には無いはずのコーヒーを用意した。味の調整するのにミルクと角砂糖もある。もちろん材料は全て通販ネット・ショッピングで買った物だ。


「ほぉー、なんとも柔らかいパンだ。お肉もジューシーで玉子が良く合う」


 はむ、モグモグと美味しそうに満足感があり、あっという間に皿は空になった。


「ふぅー、美味しかったよ」

「うむ、満足じゃ」


 ペロリと舌で口の回りを舐める。


「ワタル殿、この黒い飲み物?は何じゃ?」

「コーヒーと言いまして、俺の故郷では朝食に良く出されているんですよ。苦味があるので、大人の飲み物ですね。

 苦手な人はこのミルクと角砂糖で味の調整をいたします」


 ワタルの説明を聞き、グリムは興味が湧いたのか、そのままブラックで挑戦した。


「う、確かに苦いが癖になる苦さだ。儂は好きだぞ」


 ミルクと角砂糖を入れずに飲み続ける。


「うぐっ、苦いの。妾はミルクを入れるとするか....うむ、丁度良い味だ」

「うぇー、良く飲めるね。わ、私は砂糖とミルクを入れるよ」


 ドボドボと角砂糖を何個も入れて甘々にする。


(うわぁー、コーヒー好きなら絶対に怒る飲み方だ)


「美味しいです。マスター」


 グリムと同じくブラックで飲む桜花ロウカは感激の余り涙を流した。

 こうして、朝食を楽しみながら済ませ今後の予定を話し合った。


「今後の予定だが少しでも情報を集めたいと思う。俺はこの世界に召喚されてから、まだそんなに経ってないからな。少しでもこの世界のことを知りたいんだ」


 ワタルの提案に考え込む四人はもう答えは決まっていた。


「「「それでいいよ」」」

「マスターの考えに従うまでです」

「みんな、ありがとう。まずは冒険者ハンターギルドに行って情報収集しよう。セツナとグリムは待っててくれ。どうやら、この国は獣人に差別があるみたいだからな」

「えぇー、私行って見たかったのに」


 名残惜しそうにワタルの袖をセツナが掴む。


「セツナよ。我慢してくれ。冒険者ハンターの者が行ったら目立ってしまうからの」


 グリムが名案とポンと手を叩いた。


「セツナよ。今回は行けない代わりに何かねだってみたらどうじゃ。夫婦になったからの。これが夫の務めというもんじゃろう。ワタル殿よ」


 セツナとフランがグリムにグッジョブと親指を立てると、グリムも親指を立てやり返す。何かお笑いのコントを見てる気分だ

 もう、しょうがないなとセツナの頭を撫でる。


「ふぅー、セツナは何か欲しい物ややって欲しい事はないかい?」


 ウーン、考え込むセツナは何か思いついた様だ。


「ワ、ワタル、あのね....」


 頬を紅くしてモジモジしだす。何を頼む気だ!


「あ....」

「あ?」

「赤ちゃんが欲しいの。お願い」

「「「ぶっ!ゲホッゲホ」」」


 三人とも盛大にお茶を吹き出し咳き込む。桜花ロウカは訳分からないと首を横に傾ける。

 一方、頼まれたワタル本人は全身びっしょりと冷や汗をかいている。


「や、やるのー。セツナよ。妾もそこまで思いつかなんだ」

「セ、セツナ!まだ、早いと儂は思うの。確かにセツナの子供は見たいが早いと思うの」


 フランとグリムもセツナの突然の爆弾発言に動揺を隠せないでいるようだ。最も一番動揺してるのは言われた本人だろう。


「....セ、セツナ、他の物はないかい?」

「....」


 無言でジーーーっと圧力をかけてくる。


「こ、今回は別の事で頼む。赤ちゃんは絶対に作るから」


 ワタルはセツナに土下座をして頼み込む。もう、尻に敷かれてるワタルである。


「言質は取ったからね。ワタル....お父さん」


 セツナの最後の言葉に心を撃たれ感じでワタルは数秒間、放心状態になっていた。


「わははははっ、やるの。ワタルよ」


 フランに呼ばれ、振り向くと耳に息が届く距離で囁かれた。


「妾の子供も頼むぞ。ワ・タ・ル....パパ」


 ゾクリと不思議な感覚を覚えたワタル。


「ほほほほっ、ワタル殿、頑張れよ」


 グリムに肩を叩かれ、ワタルが質問する


「グリムさんは初めての子供が産まれた時、どうでしたか?」

「儂か?儂はな。怖かったよ。出産に男が出来る事は、ただ待つのみだからの。大の男がウロウロしておったわい。

 ほれ、今日はフラン様と行くんじゃろ。待っておるぞ」


 グリムに急かされてフランの所に急ぐ。外に出るとログハウスは宝部屋アイテムルームに仕舞った。

 フランとデートみたいというか、デートそのまんまですけど、腕を組みわざと胸を当てられながら冒険者ハンターギルドに到着する。

 ギルドに入った途端に聞き逃せない会話が聞こえてきた。


「本当かよ!ムライア王国とあの獣王国オウガが戦争するとは」

「マジだよ。マジ、後半月程で始まるってよ。今まさにムライア王国がCランク以上の冒険者ハンターを募集中ってよ」


 酒場にいる冒険者ハンターの話を聞き逃さない様に無言で席に座り、ワタルとフランは聞いていた。


「Cランク以上か...なら俺達には関係ないな」

「だな。それで、場所なんだけどよ。聞いた話だと幽原の原でやるってよ。あの何もない原っぱでよ」

「あぁ、あそこか。なら、街は大丈夫なんだな?」

「あぁ、そうらしい」


 充分な情報を聞けたので、席を立とうとするとフランの顔が青白くなっている。


「どうした?具合が悪いか?」

「あ、いや、ここを出て話す。誰かに聞かれたらヤバい」


 フランに腕を引っ張られギルドを後にする。


「あの話にでてきた獣王国オウガって言う国はグリムの故郷なのだ。セツナは正確には違うけどね」


 なるほど、それなら次行く場所は決まった。


「グリムとセツナにこの事を話して獣王国オウガに向かおう」

「いいのか?戦争するのは人間の国だ。殺す事になるぞ」


 もう覚悟は出来てるとフランの瞳をジーーーっと見つめる。


「それに、あの国には恨みしかないからね....あ、一つだけあった。フラン達に会えた事だけは感謝しておこう。あの時、追放されてなかったら会ってないからね」


 ワタルの言葉に照れているのかイヤンイヤンとワタルの背中を叩く。

 痛い痛い照れてるのは分かったから止めてほしい。獣人以上の力で叩かれてヒリヒリとしている。

 セツナとグリムがいる場所まで戻ってきた。


「それでどうでしたか?情報は」


 ゴクンと唾を飲み伝える。


「な、何ですと!それは真か」

「あぁ、間違いない。それで、直ぐに向かおうと思う」


 ワタルの提案に驚愕するグリム。


「よ、良いのですか?相手は人間の国ですぞ」

「あぁ、覚悟は出来てる。あの国には恨みしかないからな」


(はぁー、まったくワタル殿はお人好しですな)


「早く行こうよ。みんな、心配だよ」


 でも、どうやって行く?普通の速度で行ったら戦争に間に合わない。


「ふむ、みんなで行く事で良いのじゃな。では、輪に成るように手を繋げるのじゃ」


 フランの言われた通りに手を繋ぐと魔法を唱え始めた。


「では、行くぞ!点と点を繋げ!場所指定転移テレポーテーション


 瞬時に四人(桜花ロウカはワタルの腰)は獣王国オウガの森の外まで瞬間移動したのであった。

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