11話酒に溺れる

 テーブルに夕食のために作ったレッドブルの赤ワイン煮を人数分並べて食べる事にした。


「うまっ、何これうまっ!それに肉が柔らかっ」


 氷狼の獣人だからだろうかセツナは肉が大好物の様で貪り食う。

 幼い頃は雪が降る地方で住んでいたらしく、ほとんど肉は食べる事が出来なかったので大好物になったらしい。


「そうだろそうだろ。ワタルは料理が得意だからな。魔王城のコックにもここまで美味しく出来ないからな。妾も最初はビックリしたわい」


 フランが作った訳でもないのに自信満々に自分が作った様に自慢している。


「さすが、マスターでございます。いつかは食べたいと思っておりました」


 桜花ロウカは人化出来る様になってから、初めて食べたワタルの手料理にウルウルと涙を流しながら感激していた。


「まさか、ここまでとは。わっはははは!気に入りましたぞ。ワタル殿」


 グリムがバンバンとワタルの背中を叩いて大笑いする。

 正直、獣人の力で叩かれると痛い。ものすごく痛いので止めてほしい。


「あっははははっ、そうだろそうだろ。グリムも気に入ったか。さすがは、妾の夫じゃ」


 相変わらず自分の様に自慢する。そこまで、べた褒めでワタルの頬が紅く染まり、小さく縮んでいる。


「うむ、ワタル殿は食事だけではなく、あの麻雀とやらをやり、娯楽の奥深さ知りましたぞ。さらに、お強いときた。

 フランシスカ様....いや、フラン様が夫に選ばれたことはある」


 フランがグリムに睨むと体を震えながら言い直した。


「そんなに俺の料理を褒めて頂き、お口に合ってよかったです。その料理に合うお酒がありますが、どうです?」

「あぁ、いただこう」


 ワイングラスに赤ワインを注ぎ、グリムに渡す。


「ほぉー、赤いお酒とな。まるで生き血の様だ」

「そのお酒は葡萄という果物で作ってあります。この料理にも加えてありますので、合うかと」


 ゴクゴクっぷはーっとグリムは赤ワインを飲みほす。

 料理のレベルは地球より低いので、料理作法は期待はしてなかったが、やっぱりダメだったようだ。


「この赤ワインとやら美味しいわい」

「気に入ったようで何よりです。俺の故郷である地球は様々なお酒がありますよ」


 ジーーーっとフランとセツナがこちらを見つめている。


「妾にも赤ワインとやらを飲ませるのじゃ」

「私にも飲ませて」


 グリムがビクッと肩を震わせ、口にはださずに手で『フラン様にはお酒を飲ますな』と合図を送られ、何となく酒癖悪い程度にしか思っていなかった。まさか、あんなに酷いとは....この時はまだ思いも知らなかった。


「セツナにはまだ酒は早すぎる」

「ブーブー、おじいちゃんのケチんぼ。私はもう子供じゃないもん」


 セツナが頬を膨らませ、グリムに抗議するがダメの一点張りで平行線だ。


「グリムよ。セツナも大人じゃ。酒の味を嗜む程度にならないとの。それに、子供と一緒にお酒を飲むのは親の願望の一つじゃないのかの」


 いつのまにかワイングラスに赤ワインを注ぎ、フランは飲んでいた。

 グリムと違い優雅に飲み、魔王ではなく女神と見間違う様にワタルはフランに見惚れていた。


「ん、なんだ?ワタル、妾を見て」

「あ、いや、何でもない」


 見惚れて見ていたなんて、恥ずかしくて言えない。

 一方、赤ワインを飲んでいるフランを見てグリムはワタルの肩をポンポンと叩き、『後は頼んだ』と親指を立てると、颯爽と自分の部屋へと消えていった。

 目を離した隙にセツナがフランの見よう見真似でワイングラスに赤ワインを注いで飲んでしまった。


「ゴクゴク、ぷはー。おじいちゃん、こんなに美味しいのを私に飲ませてくれないなんて、意地悪だよ」


 あ、飲んじゃったよ。グリムさんごめん。


「ワハハハハッ、セツナよ。良い飲みっぷりだな」


 い、いつの間にかフランの足下には数本の空のビンが転がっている。

 さらに、セツナのグラスに次から次へと注いでいき、セツナはそれを早食いならぬ早飲みするかの様に飲んでいく。


「ワタル~、酒全然飲んでいないじやないか。妾の酒を飲め」


 ワタルの肩に腕を回し、酒を注いでいる。う、フランの息が酒臭い。それに、フランが用意した酒ではないのだけれど。


「いや、俺は酒はあまり....」

「なんだ、妾の酒は飲めないと申すのか」

「そうですよ。姫様の酒を飲まないと罰が当たりますよ....ウィックっ」


 セツナはもう酔ってる様で変な理屈を並べると、ワタルの左脇を逃がさない様にガッチリとホールドしている。

 端から見たら両手に花だが、二人とも酔っぱらいなのだ。

 経験ある者はいると思うが、酔っぱらいを相手をする事は大変なのだ。何を仕出かすか、行動や言動の理屈が意味不明になるので、この二人も何を仕出かすか今から考えるとワタルは恐怖しかない。


「ほらほら、飲め飲め。凄いぞ。ワタル飲めるではないか。ワハハハハッ」


 フランに無理矢理に飲まされると噎むせてしまった。


「ゴホッゴホ、ちょっとタンマ。俺は酒は苦手なんだって」


 苦手と言っても酔っぱらい相手には通じない。一様ワタルは酒は大好きで飲めるが全員が酔っぱらったら収集つかなく成りそうで我慢しているのだ。


「むぅー、妾の事嫌いなのか....シクシク」


 笑い上戸から泣き上戸になったフラン。酔っぱらいの筈なのに呂律はきちんとしてるの何故?


「姫様を泣かす輩は私が成敗しますのよ」


 セツナは何故か赤ワインとは別の酒ビンを持ってその中身を口に含んだ。

 ちょっ、それは俺が後で飲もうと内緒で通販ネット・ショッピングで買った特別な焼酎の一本は奥に置いていたのに、何故持っている!

 ワタルが隠していた焼酎を口に含んだセツナはワタルの顔を掴み、口移しをしたのだ。


「むぐっ!」

「ブチュー..レロレロっチュポン」


 こ、こいつ口移しの他に舌を入れやがった。


「お、おいセツナ....おい何黙ってる?」


 何か嫌な予感が....


「....気持ち悪い....」


 おい、吐くなよ。絶対吐くなよ。


「もう....ダメ...ぐおぇぇーー」

「ギャーーーっ!」


 本当に吐きやがった!


 ワタルはセツナが吐いた異物を片付けるためにキッチンからモップとバケツを持ってきて綺麗にする。


「スゥスゥ、ムニャムニャ」


 先程盛大に吐いた人、いや獣人とは思えない程に熟睡している。

 ハァーとため息を吐いたがセツナを姫様抱っこで持ち上げ、部屋に運んでベッドに寝かせる。


「ゴクゴク、ぷはー」


 フランは相変わらず飲んでいる。酒癖は多少あるが、そこまで酷いとは思えない。グリムが何をそこまで危惧していたのか分からない。


「戻ってきたか。ワタル、あははははっ」


 もう上機嫌になっている。


「そういえば....」


 フランの顔がワタルの顔に唇が触れる寸前まで近くに寄る。


「セツナと濃厚なチューしてだけどさー。どうだったの?妾としたのとどっちがよかったのよ」


 バンとグラスをテーブルに置く。

 見てたのかよ。しかも、近いって....


「むぐっ!」

「はむっ、レロっチロリ....プハッ」


 フランまでキスしてきて、まぁ、フランならいつもの事だし良いけど、セツナとキスした時の方初めてだからたろうかドキドキした。

 口を離した瞬間にフランがユラユラと揺れ始め後ろに傾きバタンと倒れた。


「おい、大丈夫?....」

「スゥスゥ....ムニャムニャ」


 おい、寝てるよ。ビックリさせんなよ。

 セツナと同じく姫様抱っこで部屋まで運びベッドに寝かせる。

 ワタルも疲れたので片付けは明日に自分の部屋で寝ることにする。



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