10話グリムと決闘
「本当に良いんだな。人間よ、死んでも怨み無しぞ」
「えぇ、良いですよ。俺も本気でやりますから」
ワタルは
「ふん、フランシスカ様を誑かした罪を償ってもらう。行くぞ」
さすがは、一般の人間の数十倍高い身体能力を持つ獣人である。
一気にワタルとの距離を詰めたが、ワタル自身が同じ獣人であるセツナに勝ったのだ。
ただ、グリムはその事実は知らないのだ。弱い人間と見下して、これで勝負がついたと油断してしまったのが勝負の分かれ目であった。
もし、油断せずに戦っていたのなら、もっと良い勝負が出来たであろう。
グリムがワタルに渾身に一撃をあたえようとしたら、ワタルに紙一重で避けられた事にグリムが動揺して隙を作ってしまった。
ワタルはその隙を見逃すほどお人好しではない。ワタルの反撃の開始だ。
「桜流一刀術・連の型一輪草、双葉葵、三色菫....」
さすがは獣人のグリムだ。ワタルの最初の一撃をゼロ距離で避ける。
だが、連の型の技は名前の数字と同じ数の斬撃が相手を襲う。
なので、技を繋げていくと連の型自体が奥義に昇華していくことになるが、技を繋げていくごとに斬撃数が増える分スピードが上がっていく事になり、その分体の負担が増えていく。
その代わりに相手には隙を見せずに徐々に追い詰めていけるのだ。
(くっ、このままでは防戦一方だ。人間風情のくせに、このままでは殺られてしまう。プライドはあるが一旦後退しよう)
「くらえっ、飛爪」
ガキンとワタルの斬撃を弾いた瞬間にグリムは後退しようとするが、ワタルはそれを許さない。さらに斬撃数がある技を繰り出す。
「うぉぉぉっ、四手、
圧倒的な獣人の動体視力でワタルの斬撃を弾くが、もうそろそろ限界が近い。
(くそっ!この儂が人間ごときに遅れを取るなんて)
「....兼六園菊桜....」
六連撃の斬撃に四つ目まではどうにか弾いたが、五つ目は目で追いきれずに一瞬自分が死ぬ幻想を見た。
ワタルもグリムが六連撃全部防ぐことは無理だろうと思い、途中でグリムの首筋に寸止めで止めた。
「そこまでっ!」
フランの大きな声が響き渡り、勝敗は決したと判断し止めた。
「フランシスカ様、儂はまだやれます」
「バカ者、あれ以上やっておったら、お主死んでおるぞ。それとも、妾の目が節穴と言いたいのか?」
キッとグリムを睨む。
「うぐっ」
自分自身もあのまま続けていたら死んでいたと感じた事とフランが睨んで何も言えなくなった。
「これで決まりじゃの」
「あははははっ、良かったね。私に勝ったワタル殿ならおじいちゃんに勝てると信じていたよ」
セツナの言葉にグリムが(えっ!聴いてないですぞ)と驚愕し、セツナとワタルの顔を往復しながら見る。
「あははははっ、おじいちゃん、私もワタル殿に負けちゃったよ。それも、素手のままで負けちゃった。あははははっ」
セツナからワタルに負けた事を告げられ、グリムは一瞬硬直するがギランとワタルを睨んだ。
「儂の....儂の可愛い孫に何しゃらしとんじゃい」
ゴーーーっとグリムから黒いオーラが見えワタルに掴もうとした。
「いい加減に....しなさい」
パーーンとフランがハリセンでツッコミの様にグリムの頭を思いきり叩く。
「痛いですぞ!フランシスカ様」
紙で出来たハリセンでもフランが使用すれば凶器に変化する。
獣人であるグリムだからこそ、ただ痛いと感じるだけと死なずにすんでる。
「セツナとワタルの戦いは双方が望んだことなのだ。それに....セツナは気持ち良さそうになってたの」
あぁ、まだかとグリムは顔を両手で覆い、孫の恥ずかしい性癖が知られセツナの代わりに羞恥な気分のようだ。
セツナ本人というとグリムが何故恥ずかしがってるのか訳が分からない風である。
「こほん、それにしてもセツナにも勝ったのだから認めて挙げましょう。ワタル殿でよろしいか?」
深々とお辞儀するグリム。
「顔を上げて下さい。これからもよろしくお願いします。グリムさん」
双方握手して、これでグリムも仲間に加わった。
「それでこれからどうしますか?フランシスカ様」
「フランでよい。他の人間に知られたら、要らぬ争いになるからな」
フランの提案に一瞬渋るが戦争に成りかねないので、渋々了承した。
「分かりました。では、フラン様で」
討伐依頼の完了手続きをするためにヴレロの
「これで今日の予定は終わった。少し俺の魔法で試したいことがあるから街の外に出よう」
ワタルの言葉を聞いてフランはワクワクと目をキラキラと輝く。
セツナとグリムは首を横に傾け?と訳が分からないまま、フランとワタルの後ろを着いていく。
「ここら辺でいいか。フラン、この周りを見えない様にしてくれ」
「はいよ。
目には見えないが、確かに透明な壁が張られた。これで外からは中の様子は分からない。
「よし、娯楽魔法・
ワタルが娯楽魔法を使用すると瞬時に丸太を組み立てたログハウスが建っていた。
建築等の物作りも人によっては娯楽になるので娯楽魔法によって出来たのは納得出来るが、さすが規模が大きいと魔法だなと感心する。
「さすが、ワタルだの。家を瞬時に建てるとはの」
「ふむ、見たことない建築様式のようですな。ワタル殿、これは何処の国の?」
あ~、どう答えたら良いか悩むワタルは正直に答えた。
「実は勇者として召喚されたんですが、勇者として不適合だったらしく追放された身ですね。元勇者候補です」
最初は驚愕するグリムだが、あの強さを実感した今では納得するが、何故あんなに強くて追放されたのが疑問に残る。
「ステータスを確認されて、娯楽魔法しか覚えていなかったからだと。使えないと判断されて今ここにいるわけですね」
「なるほど、人間は勿体無い事しよる」
「でも、こうしてワタル殿に会えたから良かったよ」
今はこうしてフラン達に会えて良かったと感じる。あのまま、勇者に選ばれていたと思うと背筋が凍る感じである。
「そろそろ入りませんか?せっかく建てたので」
ワタルの言葉に従い入ると、中は広く生活用具も一式揃っているようである。さらに、二階がありロフト付きと作製したワタル本人も驚愕した。
「ねぇ、この箱なーに?」
「あぁ、それは冷蔵庫だよ。その中に腐らない様に食材を入れて置くんだよ」
どうやら、この世界に存在しないワタルの故郷・地球の家電が多数あるようだ。
見たこと無い物にセツナは興味津々で次々とワタルに質問してくる。
フランも聞きたくてソワソワしているが、セツナの無邪気な様子を見て我慢している。
「さてと、夕飯の準備をするから、フラン、レッドブルのお肉出して」
「ふむ、どうやら契約したことで、妾の宝部屋アイテムルームがワタルにも使える様になってる様じゃ」
「本当?」
フランに言われ、ワタルは確かめたところ本当に出来た。他のフランの魔法は使えないようだが。
レッドブルを取り出したワタルは解体していき、必要な部位だけを切り取り残りは仕舞う。
大鍋にレッドブルの肉と
「煮込む間、時間があるから何かやろうか?」
「おぉー、新しいものが良いのじゃ」
皆で出来るものと考えこむとワタルも久々に麻雀をやることにした。
「
「マスター、分かりました」
テーブルに麻雀の卓と麻雀牌を並べる。そして、ルールを説明した。
麻雀は二人~四人でやるテーブルゲームである。山牌から引いては捨てる事を繰り返し、例外はあるが14個の牌で役を作り、それぞれの役の点数で競いあう。
山牌からツモルか誰かが捨てた牌が当たり牌だとあがれる。
役は複数あるのでプレイしながら説明しようと思う。
「ルールはこんなところかな。さて、始めようか」
仮親としてワタルは卓の真ん中にあるサイコロを回し、起家とツモル山牌を決める。
最初の起家はセツナに決まった。卓の席順はワタルから見て上家がセツナ、下家がフラン、対面がグリムである。
親のセツナが最初にツモリ、いらない牌を捨てる。そして、ワタルの順に回り、三巡目でセツナがリーチ宣言し、千点の点棒を出した。
セツナがリーチしてから10巡目でツモッたところ中々出ない役が出た。
「ツモ!えーと、これは緑一色リューイーソーで役満だね。点数は親だから一万六千オール....で合ってるよね」
「あぁ、合ってるけど....いきなり、出るとは!」
セツナはよっしゃー!と喜ぶがワタルの心中は穏やかでない。
ここはもう手加減はしないつもりだったが、他の人がワタルより先にあがってしまう。
「ふふふっ、セツナよ。それロンじゃ。」
フランがロンして牌を公開すると、何とまた役満の一つである大三元だ。最もあがりやすい役満の一つだ。
「ひどいよ。姫様!」
「ワハハハハッ、何を言う。やられたらやり返す。それが妾のやり方じゃ」
フランがあがったのでセツナの親は流れて二局目が開始する。
もうそろそろ、あがらないとヤバいとワタルは焦ると運が向いて来たのか四巡目にテンパる。
「うふふふっ、セツナ、それロンだ」
「えーーー、まだなの」
ワタルが嬉しそうに牌を公開すると、またもや役満の一つである
連続で役満に振りこんでしまい、セツナは飛んでしまった。
「マスター、煮込んでたお肉が柔らかくなりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます