3話精神と魂の狭間

 意識を手離した歩夢は光が届かない程の暗黒の世界に立っていた。

 方角や上下左右と分からない、何処まで行けば抜け出せるか分からない中歩き出した。

 ここはとても広大なのか自分の声も反響しないから聞こえない。

 そんな中、何かに躓き転んだ。手探りで確認してみると向こうから歩夢に触ってきた。

 どうやら歩夢の他に人がいたようで、その人は人差し指を掲げると蝋燭の火程の火を出した。どうやら魔法が使えるみたいだ。

 その火の魔法使った人を見た瞬間、歩夢は驚愕の表情になった。

 なぜなら、フランをそのまんま幼くしたような少女だったからである。


(君は一体!)


 声を発声しようとしたが上手く出ない。どうすべきかと考えこむと頭に直接、声が届いてきた。


『お兄ちゃんは誰?』


 声の正体はおそらく目の前のフラン似の幼い少女だろう。少女の見よう見まねで声を出してみた。


『俺の名前は歩夢だ。気付いたらここに迷いこんだみたいだ。』

『あゆむ?』


 可愛く首を横に傾ける少女


『あぁ、そうだ。歩夢だ』

『私は名前がないの。ずっとここで一人ぼっちで、あゆむが来てくれて嬉しいの』


 名前がないのかと少し驚き、名前をあげたら喜ぶのではと良い名前を考える。


『シズカはどうだろう』

『???』


 何を言ってるか理解出来ない少女


『君の名前だ。シズカだ』

『私の名前....シズカ』

『そうだ。シズカだ』


 少女シズカは自分の名前を嬉しそうに連呼した。


『名前をくれてありがとう。え~と、あゆむ』


 ニコと笑顔でお礼を言う。


『それでシズカここが何処かわかるかい?』

『ん~とね、ここは精神と魂の狭間と言うんだって。私には良くわかんない』


 なんかヤバそうな名前の場所に悪寒がはしった。


『ただ....』

『ただ、なんだい?』

『ここに来ることが出来るのは不老になった者だけだって。私良くわかんない』


 ふ、不老だとーーー!まさか、フランの血を舐めたからか。心当たりがそれしかない。


『あゆむ、ここから出たい?』


 急な申し出に驚きつつも歩夢は頷いた。


『そんなこと出来るのかい?』


 シズカはコクンと肯定した。


『私はここから出られないから。まだ、一人になっちゃうけど....』


 歩夢が話そうとした瞬間、シズカは首をフルフルと横に振る。


『大丈夫だよ。あゆむがここの事覚えてくれたら、いつでも会えるから』

『あぁ、覚えてるよ。約束だ。そうだ、指切りしよう』

『指切り?』

『あぁ、お互いに約束を忘れないおまじないさ』


 お互いに小指と小指を組んだ。


『『嘘ついたら針千本のーます。指切った』』

『これでお互いにまた会えるよ』


 コクンコクンと頷くシズカ


『それじゃ、いくよ....バイバイ、またね』


 シズカが右手を天に掲げると眩しくなり、俺は目覚めた。


「う、う~ん」


(なんか、夢を見ていたような……)


 目を開けると目の前にフランの顔があり戻ってきたと実感がわく。


「だ、大丈夫!歩夢っ」


 フランが涙目で歩夢に抱きつく。


「フ、フラン、大丈夫だから」


 フランの頭を優しく撫でる。


「ぐすっ、ごめん。歩夢、妾は契約初めてで、まさかあんなに歩夢が苦しむとは知らなかったのじゃ」


 フランが泣き止むまで胸を貸すことにした。


「ぐすっ、もう大丈夫なのじゃな」


 まだ心配しているフラン。歩夢は今まで女性と無縁な生活だったので、こんなに心配されると言葉では言わないが心の中で、コイツ可愛いなと思ってしまった。


「歩夢、ステータスに何か変化ないかの」


 やっと泣き止んだフランにそう言われて歩夢は自信のステータスを確認した。

 確認したところフランシスカと契約と追加されていた。


「うむ、契約に成功したようじゃの」


 ホッと安堵する。


「おい、この不老というのは何だ?」


 ギクッとフランの背中が震え、あっはははっと笑っている。


「わ、妾と契約したことで、おそらく妾と同じ不老になったかな~と」


 目を泳がせながらイジイジしている。


「そんな...大事なことは先に言え!」


 ゴツンと歩夢のゲンコツがフランの頭に見事に当たり回りに響いた。


「い、痛いではないか。妾は魔王なのであるぞ」

「魔王とこのことは関係ないね」


 手を握りはぁ~っと息をかけると……


「ご、ごめんなのじゃ」


 土下座して謝る自称魔王様。


「誰が自称じゃ!正真正銘の魔王だぞ!」


 誰かに言っている。歩夢はフランをスルーして再度自分のステータスを確認してみると他に増えていることに気付いた。


「ん、何か魔法の項目に追加されてる....『闇反ダーク・アンチ魔法』?」


 歩夢の言葉がフランにとって予想外だったのかガバッと歩夢を押し退けて、歩夢のステータスを確認する。


「な、ありえぬ!属性魔法である闇魔法ダークと相反する魔法である反魔法アンチが混合した魔法はありえぬ!」


 ありえぬ!と連呼しているフランは歩夢が退く程の狂気なオーラを纏っている。

 ギランとフランの目が光り、歩夢を見て近寄ってくる。


「歩夢、頼むのじゃ。この闇反ダーク・アンチ魔法を使ってくれぬか」


 ハァ、ハァとこちらが退く程、興奮している。


「わ、わかったから。離れて」


 ステータスの闇反ダーク・アンチ魔法の項目を触れると頭に『この魔法は現在封印されてご使用出来ません』とアナウンスみたいな声が響いた。


「あ~、フラン言いにくいけど、使えないみたいだ」

「な、なに~、どういうことだ。歩夢よ」


 フランが歩夢の肩を掴み、ガクガクと揺らす。


「ふ、封印されてるみたいなんだ」


 ガーンとよっぽどショックなのか魂が抜けたように白い脱け殻になった。

 そんなフランを見て、通販ネット・ショッピングで1/8にカットされたイチゴのショートケーキを買ってフランの近くに置いた。

 そうすると、フランの鼻がピクピクと動きバッとケーキが一瞬で無くなると、モグモグと口を動かしながらとても幸せそうな表情でホワホワしている。どうやら、機嫌は回復したようだ。


「フラン、封印ということは、いつかは解ける可能性があるってことだ。今は無理でもその時までの楽しみとして我慢したらどうだ。我慢した分だけ楽しくなるぞ。直ぐにやったら楽しさ激減だと思うぞ」

「そうかの」

「そういうもんだ」


 フランをどうにかして励ます。


「はふっ、安心したら眠くなってきたの」


 可愛いアクビをして眠たそうなフラン。


「もういい時間だからな。寝るか」


 小屋の隅に置いてある布を布団代わりとして床にひいて寝るこことにする。

 いざ、横になると歩夢は隣にフランが居ることことに意識してしまい、中々寝付けないでいる。目を瞑ってしばらくすると睡魔に負けていつの間にか眠ってしまった。

 すぅすぅと歩夢が寝息をたててると、ゴソゴソと物音が歩夢に近づき襲いかかろうとした瞬間、歩夢に両手を掴まれ目と目が見つめ合ってる状態で固まってる。


「な、なぜ気付いた。歩夢よ」


 その疑問に歩夢は鼻から笑った。


「ふん、俺は転移される前は武術やっていたからな。気配には敏感なんだよ」


 今はまだフランの手を歩夢が掴んでる状態だが、周りから見ればフランが歩夢に夜這いをしようと見える。


「で、何をしようとした?」


 歩夢が質問すると目を泳がせるフラン。


「お、怒らないか?」

「正直に言えば怒らないよ」


 手を離し床に座る二人。


「あ、歩夢の魔法がどうしても気になっての。調べようとしたのじゃ」


 シュンと落ち込む。


「はぁ~、そんなに珍しいのか。俺の魔法は」

「珍しいとも。娯楽魔法は魔法を極めた妾が見聞きないなどありえぬ。ただし、妾には娯楽はちんぷんかんぷんじゃ。娯楽に関しては歩夢の側で学ぶことにする。これは決定事項じゃ」


(おい、勝手に決めるな。はぁ~、契約結んでしまったし、はやまったかな)


「そして、もう一つの魔法、闇反ダーク・アンチ魔法は理論上あり得ない。この世に存在しないはずの物じゃ。

 普通は反魔法アンチがダーク魔法を打ち消してしまい無理なんじゃ。歩夢、お主何者なんじゃ。」


 そんな事聞かれても地球では魔法は存在しないし答えられない。


「わかんねーよ。俺のいた地球は魔法はなかったしな」

「ふむ、なら調べさせてくれ」


 ハァハァと息を荒くして手をワキワキと動かし迫ってくる。


「だ・め・だ」

「そんな殺生な」


 ガーンとショックを受ける。


「ただし……」

「ただし?」


 立ち直りが早い。そこは魔王といったところか。関係ないと思うけど。


「睡眠中に調べようとした件でお仕置きがまだだと思ってな。それで、娯楽の一つを教えようと思う」

「え、お仕置きで娯楽?」


 相反する言葉が両立するとは理解できないフラン。


「では、いくぞ!」


 歩夢は娯楽魔法を使ったが見た目は変化ない。


「な、ちょっと……待って……」


(こ、これが娯楽魔法じゃと。まるで精神魔法ではないか)


 体が敏感になっていくフランに歩夢が触った。


「にゃーー、ハァハァ……こ、これのどこが娯楽なのじゃ」

「娼館があるだろう?あれも娯楽の一種さ」


 歩夢の簡単な説明に納得できないが徐々に納得していく自分がいることにはフランはまだ気づかない。


「ふむ、もっと強めにいくか」


 それを聞いたフランは首を横に振り止めた。


「にゃーー、あっいや……やめて…こんなに……強くされると」


 予想外の娯楽魔法の使い方に、頬を紅く染めて体をよじっていくフラン。

 そんな敏感になっているフランを歩夢は優しく抱く。


「あ、歩夢、妾に何をする気じゃ」


 知識としてはあるのだろうが、初めてなので今の状況に気づかない。


「大丈夫。優しくするから」

「な、まさか!やめるのじゃ。そ、そんなことされたら……」


 何回か気絶しながらも、この快感にイヤイヤと言ってたフランも無我夢中になって歩夢の好きなようにされていた。

 この日がフランにとっても歩夢にとっても初夜の記念日になった。


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