4話冒険者ギルド

 無人小屋で歩夢の隣で夜の事がよっぽど快感だったのか気持ち良さそうに寝てるフランを見ながら髪を撫でて歩夢は微笑む。

 数分後にフランも起きると、今の自分の姿に気付き恥ずかしながらも、どこか嬉しく思い今までの人生はきっとこの人、歩夢に出会うためだと感じるフランである。


「さてと、朝食にするか。」


 服を着た歩夢とフランは通販ネット・ショッピングであんぱんやクリームパンを買った。


「モグモグ、歩夢の世界の食べ物は美味しいのじゃ。まさか、パンの中に具材が入ってるとは」


 余りの美味しさにフランは無我夢中で食べてあっという間になくなる。


「そうだろう。食事も人にとっちゃ娯楽の内さ。まぁ、この世界ミレイヌの人達にとっては食事は生きる糧だから普通は娯楽にはなりえない。不味い物食べても楽しくないだろう。本当はこんなに楽しいのにもったいないな」


 フランも歩夢の話に同意するように頷く。


「うむ、その通りよの。どうにかならないか?」

「こればかりはな。もし、やるとしても長い年月が掛かるな。俺達二人だけじゃ焼石に水だしな」


 食事問題は世界共通で貧困な場所だと食べれない日は日常茶飯事だし、逆に裕福だと食べ物は余り廃棄される。

 世界の奥深くに根が張ったような問題なので簡単には解決できない。

 歩夢の故郷地球でも寄付で食料を分配している地域はあるが根本的な解決にはいたっていない。

 このまま、この話をしても明解な回答を見つけられないので一旦保留にする。

 まぁ~、歩夢が居れば歩夢自身とフランの食事は困らなくてすむだろう。


「さて、この後どうするかな?」


 歩夢は考えるとフランが提案をしてきた。


「ギルドに入ってみたらどうじゃ」


 ギルドか、いいかもしれない。


「そのためには、歩夢の容姿と名前とステータスをいじる必要があると思うのじゃ。歩夢は追われてる身だからの」


 フランが何やら魔法を詠唱すると歩夢の容姿が歩夢ではない別の誰かに変わってしまった。相当な魔法の使い手ではないと見抜けないだろう。

 歩夢は何が起こったのか分からず、フランに手鏡を渡され自分の姿の変化に驚愕し、自分の手を動かしたり髪をいじったり等本当に自分なのだと確認した。


「ふっふふーん、凄いじゃろ。人間の魔法使いには見抜けまい。ただし、賢者と呼ばれる者が見れば、見抜けられるかもしれないがの。人数は少ないから確率は相当低いはずじゃ」


 胸を張って自慢する。胸を張った際に豊満な胸がボヨンと動き歩夢の視線が凝視される。


「な、何を見ているのじゃ」


 自分の胸を隠すが夜には散々見られたはずだが恥ずかしいようである。


「ご、ごめん。その~、フランに見惚れてた」


 フランにとって意外な言葉のようで、頬をボッと紅くなり無言で歩夢をポカポカと子供のように叩く。

 そのまま、歩夢はフランを抱きしめると抵抗もなく、歩夢の胸に顔を子猫や子犬等の小動物のようにスリスリと擦り合わせてきた。歩夢は歩夢でフランの体や胸の軟らかさを堪能していた。


「ムギュー……ぷっはー……(スリスリ)……ハッ、歩夢、離して話が進まないから」


 フランに言われ、勿体ない気がするが離す。


「それで何の話だっけ」


 フランはしょうがないなと、ため息をついた。


「だから、歩夢の名前を変える事とステータス改竄だよ」

「自分の名前か……ワタルはどうだろう」

「ワタルか……いいんじゃないかな」


 二人共に納得した。


「歩夢……じゃなかった。ワタル、ステータス出して」


 歩夢の名前とお別れと思うと寂しい気がする。


「二人きりのときは歩夢でいいんじゃないか」

「人の前で呼びそうになるからいいの!」


(本当は呼びたいけど……)


 呼んだら歩夢……いや、ワタルの命に危険が迫るから我慢する。フランがいれば大丈夫だとは思いますけどね。


「それでワタル、ステータス出して」


 言われた通りにステータスを出す。改竄する箇所は名前とフランとの契約と魔法の四ヶ所である。

 フランが魔法を唱えると、名前は歩夢からワタルに、魔法と契約は隠蔽され消えたわけではない。

 そして、魔力値を平均一般男性と見た目を同じにする。実際は落ちたわけではない。


「不老はどうする?」

「不老はいわば呪いよ。そんなに多くないけど持ってるヤツはいるわよ。時間が立つにつれて、年を取らない事が公になってしまう。それなら、最初から隠さない方が安全よ」


 なるほどと納得する。そして、最初から疑問だった質問をする。


「最初から疑問だったことがあるけどいいか?」

「なによ……」

「おそらく、フランの口調は魔王と素の二種類あるよな?素の方が可愛いと思って」


 少し照れくさそうに言う。


「な、今更だと思うのよ。魔王の口調は疲れるのよ。ワタルの前なら普段の口調でいいかなって」


 ワタルに吊られてかフランも照れくさそうにしてる。ワタルはそう言われて心から嬉しく感じた。


「あ、魔法がダメだとすると武器を探さないと」


 ダメ元で通販ネット・ショッピングで探してみると、意外な物が……本当はここにあるはずない物があった。

 思いがけずに触ってしまった。何故か無料と表記されていたので、購入……いや、元の持ち主に戻ったと言っていいだろう。

 何故なら転移された時に地球に置いてきてしまった桜井家家宝の刀だからだ。


「……間違いない……名刀・桜花ロウカだ」


 久しぶりに見る相棒に感激を隠せない。


「その武器はなんなの?」

「これはな。俺が転移されて置いてきてしまったはずの相棒さ。やっぱり手に馴染む」


 何故ここにあるのか理由はわからないが、大袈裟だけど相棒がある限り負ける気がしない。歩夢にとって剣術を含めた武術一般も娯楽である。


「む、その桜花ロウカと言ったか。刀から魔法の力を感じる。」


 フランが名刀・桜花ロウカに触れると魔力を感じた。


「おそらく仮説だが、魔法が存在する世界で作られてからワタルの世界に流れついたんじゃないかな」


 その話が本当ならワタルは最初から異世界と縁があり、この世界ミレイヌに偶然ではなく必然で来たのだろう。


「なるほど、桜花ロウカの秘密が分かった気がするよ」


 昔から桜井家に伝わる家宝の名刀だけではなく、実は魔法の刀という秘密があった。

 魔法の正体はフランでもわからないらしいが、きっと魔法のおかげで異次元を越えて歩夢(今はワタルだが)の所へ意思があるように来てくれた。


(もし、桜花ロウカと話せたら話してみたいな)


「フランは魔法使うから武器はいいのか?」


 そういえば、会った当初から武器持っていなかったな


「私か?私はな。これで充分よ」


 フランは両手に指の先が出せるグローブをはめると「さぁ、準備終了よ」とワタルの手を握りギルドに出発する。


「フランって、まさか近距離で戦うのか?」


 ワタルの疑問に当たり前のようにフランが答える。


「当たり前だよ。だって近くで戦った方が戦った感があるじゃん」


 魔法しか見ていないワタルにとってフランが近距離で戦うイメージがわかない。


「ふっふふーん、その顔は私が近距離で戦ってるイメージがうかばないんでしょ。私は万能型なの。このグローブは魔法布マホウフという布で織られているのよ。

 魔法布マホウフは魔力を通す特性を持ってるから近接と魔法が両立出来るんだよ」


 ワタルはいまいち理解出来ないが、後でフランの実力を知ることになる。

 ワタルにとってムライア王国王都に本当は訪れたくなかったが、ギルドに登録するためなので我慢する。

 冒険者ハンターギルドに到着し、チリンと扉を開けるとどうやら酒場と併設されてるみたいだ。

 入った途端にフランは美人なので注目され、一緒に入ったワタルに男性の冒険者ハンターに嫉妬の視線が見舞われた。

 逆に女性の冒険者ハンターにはフランの魔法によって外見が良くなってるので好意的な視線が見舞われた。

 受付は扉から正面で直ぐにわかり登録するために向かった。

 視線から何か難癖つけられると思ったが思い違いだったか?

 実はギルド内の戦闘行為は固く禁止されており、もし、破れば登録抹消で悪いと犯罪者になり王都や街に居場所が無くなる羽目になる。

 もし、やるならギルド施設外でやれってことで外なら施設近くでもギルドは認知しない。


「すみません。登録お願いします」


 すぐ近くにいた受付孃に話した。


「お二人ですね。では、こちらの紙に名前と年齢を書いて下さい。そして、ステータスを見せて下さい」


 渡された紙に名前と年齢を書く。


 ・名前:ワタル

 ・年齢:22歳


 ・名前:フラン

 ・年齢:21歳


 受付孃にステータスを見せると驚愕の顔になり、ワタルとフランを待たさせて奥に消えた。数分後、戻ってくると二階の部屋へ案内された。

 受付孃がコンコンと扉を叩くと「入れ」と中から声が聞こえた。

 ワタルとフランが中に入ると40代の鍛え抜かれた厳つい男が座ってた。


「ギルドマスター、お二人をお連れしました」

「うむ、もう戻ってよいぞ。分かってると思うが、この話は他言無用で頼むな」

「はい。では、失礼しました」


 受付孃は一階に戻った。


「さぁ、座ってくれ。ワシはムライア王国王都の冒険者ハンターギルドのギルドマスターのクライだ」

「俺はワタルで、彼女はフランだ」


 紹介されたフランはコクンとお辞儀をする。


「お呼びしたのは、ほかでもない。お二人のステータスの事だ」


 やはりと二人は思う。それしか心当たりがないというか、分かってやったのだから当たり前だ。


「お二人のステータスに、その~、未だに信じられないのだが『不老』がついていると」


 予想していた事なので、何の躊躇ためらいなくギルドマスターのクライにステータスを見せる。


「確かに二人に不老が付いてるな。どこで不老を取得したんだ?」


 最もな疑問をぶつけられる。


「俺とフランは幼なじみで、まだ幼い頃に魔族によってやられたんだ。場所は幼かったので覚えてないんだ」

「なに、幼い頃だと!『不老』は年を取らなくなるのでないか?」


 予想内の質問が来たので、フランにバトンタッチする。


「それは間違ってるわよ。正しくは個人差はあるけど、ある一定の年齢になると年をとらなくなるのよ。だから、幼い頃になってもおかしくないのよ」


 あまりにも詳しいのでクライは疑いを持った。


「何故そんなに詳しい。もしかして、魔族の手下ではないか?」

「それは私達に掛けられた物ですもの。どうにか解除出来ないか詳しく調べますわよ。

 それに魔族に手下って言うけど、私達のステータス見たでしょ。それが魔族の手下ではない証拠よ」


 正論を言われ納得するクライ


「疑って悪かった。もちろん不老の事は周りには話さない方がいいぞ」

「「それはもちろん」」

「そうだ。今日は登録に来たのだったな。これが二人の冒険者ハンターギルドのギルドカードだ。身分証明にもなるから無くさないようにな」


 ギルドカードを受けとったワタルとフラン。

 次に冒険者ハンターのルールを説明された。


 ランクはS~Fまであり、S~Eが各々のランクモンスター討伐や護衛任務等がある。Fはお手伝いレベルである。

 最初はFランクからだが、戦闘技術があると試験で認定されるとEかDに上がる事が可能である。

 ギルド関連施設で戦闘行為を起こすと登録抹消か悪いと犯罪者になってしまうので注意が必然だ。大雑把だが冒険者ハンターギルドのルールだ。


「戦闘技術の試験で認められると直ぐににランク上がるがやるか?」

「お願いします」


 ギルドの地下に案内され、広さは地球の日本の東京ドーム一個分だ。この世界の住人に言っても伝わらないが……

 試験官だろうか一人の剣と皮鎧を着ている男性が立っていた。


「君達か。ギルドマスターから聞いてる。直ぐに始めるか?」

「はい。お願いします」

「何処からでも来い!」


 ワタルは名刀・桜花ロウカを鞘から抜き構える。


「ふぅ、桜流一刀術・第三のしゅんの型・すみれ


 桜花ロウカを構えたと思った瞬間には試験官の距離を詰め首筋に桜花ロウカを寸止めしていた。

 反応出来なかった試験官は何が起こったか分からなかった。気付いたらもう自分の首筋に桜花ロウカが寸止めされたのだ。

 第三のしゅんの型は桜花ロウカを使用した技の中で最も最速であり、その中ですみれは最も遅い技だ。つまり、手加減して勝ってしまったのだ。


「参った。確かワタルだな。君はDランクに認定する」

「ありがとうございます」


 ワタルは桜花ロウカを鞘に仕舞い、後ろに下がった。


「次は彼女だな。何時でも来い!」

「はい。お願いします」


 フランは試験官に距離を詰めようと一歩踏み込んだ瞬間、試験官の顔にフランの拳が寸止めされてた。

 またもや、試験官は何をされたのか分からずに試験は終了した。

 フランも無事にワタルと同じDランクに上がったのであった。


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