第3話

「描いてくれた絵、見たいな」

「うん、もちろん。今もってくるね」


紅くんが自分の部屋からリビングへと戻ってきて、私に年季の入ったスケッチブックを手渡してくれる。

それを捲れば、いろんな顔の、姿の私が、ぺらぺらと過ぎていって、大事そうに挟まれた紙が一枚、途中でぺらッと出てくる。

その独立した紙には、私が座りながら静かに、でも楽しそうに、読書をしている姿が描かれていた。


「今日も、可愛く描いてくれてありがとう。……私、こんなに可愛くないけれど」

「何言っているの。紺ちゃんは世界一可愛いんだよ。他の奴らが、紺ちゃんのその可愛さとか、魅力に気が付いてないの!」

「……ありがとう」

「紺ちゃんは可愛いよ」


そうやってすぐに自嘲するのは昔からの癖で、慣れない言葉にすぐに耳が赤くなって熱を帯びるのは、最近見つけた癖。←←


紅くんの話言葉は、私と同じで標準語で、私と違って語尾が優しい。

でも、嫌いな人たちのこととか、嫌いな物とか事とか。その言葉だけ、雰囲気が変わるのは、嬉しいと感じる。私を脅かす敵だといっているみたいで


紙を紅くんに手渡すと、それはファイルの中へと納まっていく。


『本当は壁中に飾りたいんだけどな』


前に、君が言っていた言葉。それくらい沢山ある紅くんが描いてくれた私の絵。今なら上手く描けそう、だとか、これは壁に飾りたい、だという絵は、そうやって独立した紙に書くのだという。


でも、見返すことはあっても、その絵たちはほとんどをファイルか、スケッチブックの中で過ごす。

自分の部屋でさえ、そうやって好きなものを飾っていれば、怒られるのだという。

そもそも、私が紅くんの家に来ていることは、紅くんの両親は知らないのだ。

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