薊が再び家に戻ったのは部屋に西日が差す頃だった




「この家も明日までか」




部屋に寝転がり天井を見つめる


これといって特別な思い出もない、毎日の生活を送っていた部屋


天井のシミや壁の欠け、柱の傷部屋を隈なく見渡すのは初めてかもしれない




「なんでこんな感傷的になるんだ?」




そう言って今を逃れるように薊は目を瞑った


しばらくすると背中で西日を受けるように眠ってしまった




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「―おい!薊!」




呼ばれた方に顔を向けるが何の姿もない


周りを見ると何もない部屋、はるか頭上にいくつもの筋状の光が部屋に差し込んでいるだけの空間だった


そしてどこか遠くで人の笑い声やにぎやかな声も聞こえるがこれもどこから聞こえているのかわからない




「お前はなぁ!」




「よしなさい、薊は自分で自分に気づかなくてはいけないのだから」




(なんの話だ...?ここは家じゃない?)


どこからともなく聞こえる声は確かに薊を見て話しているように聞こえる




「あなたは私の象徴です、そして出会いあなたを取り巻く者たちを変えていく一助となるのです」




「...?!」


(声が出ない、いったい何の話をしているんだ)




「そしてあなたはもう出会っている、帰る場所はいつでもここにある」




その言葉を最後に自分へ話しかける声は聞こえなくなり、威勢のいい声がどんどん大きくなる




(おい!どういうことだよ、誰の話をしているんだ!)




声がいよいよすぐそこまでくると差していた光が消え、声の代わりにたたきつける音、葉がこすれるような音、水の音などいろいろな音がまじりあい聞こえ始める




「ちょっ...!」




急に不安が襲い助けを求めるように光が差していた場所へ手を伸ばした―




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薊は天井に手を伸ばした状態で目が覚めた




「夢...か」




夢の割には聞こえた言葉や喧噪は耳にしっかりと残り、鮮明に思い出せる


薊は両手で耳を塞いでみる、あのとき聞こえた声や音を大切にしまい込むように




外は暗く祭りのにぎやかだった声も無く、三崎大島の日常に戻りつつあった

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