『ドラゴンクエスト5にみる物語構成と魅力的な登場人物の作り方』
国民的RPGと呼ばれるドラゴンクエストにおいて、もっとも知名度のあるシリーズは、ドラゴンクエスト5でしょう。ドラゴンクエスト5は親子三大に渡る壮大な物語が描かれた冒険RPGです。ゲームではありますが、その上質なストーリーは、子供も大人も楽しめます。
今回はそんなドラゴンクエスト5を題材に、ストーリー構成や、登場人物の魅力的な描き方を語りたいと思います。
まず、ドラクエ5は小説ではありません。ゲームであり、映像での物語表現を求められる媒体です。
一般的にゲームという映像媒体において、登場人物の魅力を伝えるのは非常に難しいです。特に主人公の父親であるパパスの偉大さを、ゲームでどう表現するかというのは難問ですが、堀井雄二先生は、この問題を、パパスという父親の行動でプレイヤーに伝える事に徹しました。
冒頭、主人公は一人で外に出て、魔物に襲われます。初めての戦い。スライムとはいえそこそこ苦戦します。そこに颯爽とかけつけてきたのは父親のパパス。パパスは圧倒的な強さで雑魚敵を粉砕し、戦闘を終わらせてくれます。そして戦闘終了後、パパスは主人公に「大丈夫か?」と声をかけ、ホイミをかけて回復してくれるのです。このわずか正味2、3分の描写だけで、パパスの強さと優しさ、子を愛し守る父としての威厳が伝わってきます。そしてサンタローズの村に着けば、自分の父親は皆に愛されており、家には父を慕うサンチョという者までいる状態。プレイヤーに、パパスは凄い人なんだ、と思わせるには充分すぎるほどの描写です。
このように、ドラクエ5では、短い出番であるパパスという存在を、プレイヤーに大きく印象付けるために、その行動と村の英雄的存在という設定で表現し、植え付けることに成功させたのです。けしてパパス自らが「俺は強いんだぞ」とか、「村の者に慕われているんだ」などと言う事はなく、そういうことを第三者の台詞と行動で表現させたのです。
登場人物の魅力を表現する一つの方法として、人物の魅力を他の登場人物に言わせる、というのは非常に効果的です。ドラクエの勇者みずからが「俺は勇者だぞ、敬えよ」等と凄んでいては、ただのギャグになってしまいます。ギャグにしたいならそれも有りですが、ドラクエの場合は、村人やNPC達に「勇者様」と慕わせる事で、勇者の存在価値をより高めさせることに徹したのです。
登場人物の魅力を他の登場人物に言わせる、これが登場人物を魅力を際立たせる有用な技法の一つです。
パパスは物語の冒頭で退場してしまいますが、主人公はパパスの意思を継ぎ、天空の装備を集め、伝説の勇者を捜す、という新たなる大きな使命を背負う事になります。そしてこの使命が、ドラクエ5における花嫁選びで大きな物議をかもすことになります。
旅を進めた主人公は、サラボナで天空の盾を所有するルドマンと出会います。天空の盾を手に入れる方法は、ルドマンの娘であるフローラとの結婚です。父の意思を継ぐ為、主人公はどうしても天空の盾を手に入れたい。その為にはフローラと結婚しなくてはいけない。
主人公は悩みつつも、使命を果たすために、ルドマンが提示してきた条件を満たすため、炎と水のリングを手にいれる冒険を始めます。
しかし、その道中で、誤算が起こりました。
それが幼馴染であるビアンカとの、まさかの再会です。これは主人公にとっては嬉しい事であり、久々の再会に、二人は夜もろくに眠らずに喋り続けました。そして主人公とビアンカは、二人で昔のように水のリングを手に入れる冒険をします。
結婚に関して、ゲーム的に公平な条件を持たせるならば、水のリングを回収した時点で主人公はビアンカを山奥の村に送り帰すのが正しい道なのですが、堀井雄二先生はそのようにしませんでした。あろうことか、ビアンカはサラボナまで付いてきてしまったのです。
これはビアンカにとっては過ちです。彼女は主人公の使命のことを思うならば、山奥の村で別れ、サラボナまでやって来る必要はなかったのですから。ビアンカにも主人公に対する未練があったことが伺えます。この過ちをおかす、という行動こそが、ビアンカを物語のヒロイン足らしめる行動なのです。物語のヒロインというものは、完璧超人にはならず、欠点を持ち、時に過ちをおかすものなのです。
さて、そんなこんなで主人公は、まさかの花嫁選びを余儀なくされてしまいます。
正直これは物語的に非常に重要な問題です。主人公はビアンカのことが好き。でも、フローラと結婚しないと天空の盾がもらえず、父の意思を継げなくなってしまいます。主人公にとってビアンカを選ぶという事は、旅を諦めるに等しい選択だったのです。だからこそ、主人公は眠れなくなり、夜の街を彷徨います。更にここでプレイヤーの心を揺さぶる花嫁同士の行動があります。
自分が本来結婚するべき相手であるフローラはすやすやと眠っているのに対し、幼馴染のビアンカは、主人公と同じように夜も眠れず、夜風にあたっていたのです。そして主人公に会ったビアンカは、彼にプレッシャーをかけないよう、優しい言葉をかけます。それがまた、主人公をおおいに苦悩させる事になるのです。
結局この花嫁選びは、ゲーム的には単なる好みの女の子選びですが、物語的な話をするなら、恋慕を捨て父との使命を取るか? それとも使命を諦め、全てを捨てて自分の気持ちに正直に愛を取るか? の究極の二択になっていくのです。
これまでずっと不幸な人生を歩んできた主人公にとって、ビアンカは幼少期の楽しい思い出を共有した相手で、救いのような存在です。一方のフローラは、使命を果たすためにはどうしても結婚しなくてはならない相手。さあ、一体主人公はどういう決断を下すのか?
物語の正史的には、主人公は愛を選択し、ビアンカを嫁にすることを選びます。
ゲーム的な話をすればどちらを選んでも天空の盾はもらえるので、問題ないのですが、物語を生きる主人公は、そんなことは知る由もなく、苦悩した末の決断を下したのです。
ビアンカが物語の正ヒロインと言われているのは、この一連のビアンカとの幼少期の思い出と青年時の再会時の行動によるところが大きいです。フローラは可愛くて魅力的な女性ですが、人として欠点がなさすぎて、善人すぎるのです。それゆえに、逆にヒロインとしての魅力が弱いと言えるでしょう。これはヒロインではなく、いわゆる魅力的な脇役としての存在感なのです。やはり、人間、完璧すぎる存在には魅力を感じづらい物なのです。
このように、ドラゴンクエスト5は、ゲームでありながら、非常に作りこまれたストーリー展開とヒロイン、登場人物達を有しています。私自身、物語の構成方法において、ドラクエ5から受けた影響は大きいです。
ドラゴンクエスト5は、面白い物語の基本構成が、非常に高い水準で詰め込まれている作品です。もし小説を書いていて、創作活動に少し行き詰った、という人は、ドラゴンクエスト5を遊んで、ストーリーをじっくり考察しつつプレイしてみるのも良いでしょう。ひょっとしたら、何か行き詰まりを解消する手がかりが手に入るかもしれませんよ。
ということで、今回は筆を置かせていただきます。
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