第3話 夏休み

プリント事件からあいつとは少しずつ話すようになった。

とはいってもするのは他愛のない話。

めちゃくちゃ仲がいいわけでも悪いわけでもない。ただよく分からん奴から面白いよくわからん奴にはなった。


そうしていよいよ期末テストが終わり、うちの学校にもそろそろ夏休みがやってくる。

夏休みといっても、うちの学校は9月の頭に文化祭と体育祭がある関係で夏休みは主に部活とそれらの準備期間に当てられる。そのため、休みらしい休みはもっぱらお盆くらいのものである。

さて今年のうちのクラスの出し物はお化け屋敷になった。例年、三年生がお化け屋敷をやることが多いのだが今年は模擬店やステージ発表をやるクラスが多くて被らなかったらしい。

準備の班分けと文化祭当日の担当の割り当てが決まり、それぞれのチームで準備に取り掛かることになった。

そして何故か、私とあいつは準備も文化祭当日の割り当ても同じチームだった。



「なあ、これでもう全部?」

そうあいつが聞いたのは、地元の昔からある手芸屋でのこと。私たちは衣装班に割り当てられたので、今日は材料を買いに来たのだ。

本当は衣装班は6人である。では何故、2人だけで来ているのかというと、今日は部活の大会や遠征合宿でいない人が多く、しかしお盆前に材料だけでも買っておきたいということから私とあいつで買い出しに行くことになったのだ。

「メモに書いてた分は揃ったから大丈夫だと思うけど。」

「じゃあ、学校行く前にコンビニ寄ってかん?」

「やだ。今日中に少しでも作業進めたいんだから早く行くよ!」

「えー、でもこんな暑くて死んじゃうって〜」

「お茶飲みゃいいでしょ!」

「アイス奢るから、ね!はい決まり!これもーらい!」

そう言うと布が詰まってパンと大きくなった学生鞄を持ったあいつは、私が持っていた小さいビニール袋を奪い取りシャカシャカと音を立てながら店の前に止めた自転車に向かって走る。

「材料がなきゃ作業出来ないもんね〜!」

なんだか憎たらしいことを言っている。

「ほら早く!」

そう言うと、もう彼が自転車を漕ぎ始めていた。

「あ、ちょっと!」

その背中が、夏の太陽がアスファルトに照りついて揺らめく陽炎のようにぼんやりと見えて、私は慌てて追いかけた。


結局、材料を全部あいつが持ってるせいで先に帰ったところで作業ができないからコンビニについて行った。

コンビニの駐輪場でアイスを食べる。勿論、あいつの奢りだ。私はクーリッシュのバニラ、あいつはパピコのコーヒー。


「なんでパピコ?」

「二個あるっていいっしょ。」と、言ってたけどあの時本当はどういうつもりだったのか知ったのはもっと全然あとのこと。

暑すぎて、そんなに揉み込んでないのにクーリッシュが食べやすい固さになっている。

食べるとすぐその甘さとひんやりとした心地よさと共にキーンと頭に痛みが走る。でも夏のいいところはこういうとこなんだよとか思いながら、なぜだか2人とも以降、喋ることなく無言でアイスを食べていた。

そんな8月の蟬が五月蝿うるさいくらいのあの日が初めて2人で出かけた日だった。

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