第25話 罠に落ちた二人
両国王の会談が終り、夜には歓迎の宴いが催された。
バイキング形式で、踊りがメインのようだ。
モアはシャンリー三世が気にいるよう、イゾルデを連れてくるように明言したし。
事務次官レベルでイゾルデはシャンリーのハーレム行きが決定していた。
シャンリー三世はモアに何度も確認した、モアはその度「わが必勝の策に、ぬかりありません」と答えた。
「この薬を飲めば本当に今夜からOK」
例の「ホレ薬」を渡した。
「この紫色の液体を飲めば、体からフェロモンを発散させます。
こっちの赤い薬はすでにイゾルデに飲ませてあります。
国王陛下から発散される匂いを嗅げば、ああ、私の乙女の心臓が高鳴る」
モアは甲高い女の声色を作った。
さらにシナを作ってみせる。
モアも憑き物が落ちたように、テンションが高かった。
何かいい事があったようだ。
「イヤァァン。
なぜかしら?
シャンリー陛下って、噂どおり、りっぱな、お・ひ・げ。
そして、二人はラブラブに。
今夜にはベッド・イン」
シャンリーはネトつくような脂ぎった視線で一度イゾルデを確認した。
その視線受けてイゾルデは顔面蒼白になっていた。
オリアン国王ビリアンに頭を下げられてはイヤとはいえなかった。
小さく頭をさげた。
気分はドナドナ状態だった。
「モア~。
あのイチゴのような乳首が、今夜には俺の物になるのか」
「国王陛下、見えるのですか」
モアはハンカチで国王のヨダレをふいた。
透視能力などなかったはずだが。
「お前という男は、本当に何をやらせても天才だな~。
さすがは『約東の地』」
破顔万笑。今、シャンリー三世に怒れといったって不可能だろう。
「モアちゃん。アンタは凄い。
コレを飲めばいいのだな」
シャンリー三世は一気にゴクゴクゴクと飲み干した。
モアの鋭い洞察力が一人の人間の変装を見破った。
カロが白い給仕姿に化けている。
「何だ?」
辺りを見回した。
トルーダムが紫色のカクテルを持っていた。
イゾルデが紫色のカクテルを持っていた。
二人のカクテルには薄く赤い上ずみ液が乗っている。
二人とも同時に飲もうとしていた。
モアの頭が激しく固転した。
「飲むなー」モアが大声で叫んだ。
しかし、運命は進んだ。
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
シャンリー三世が壊れたスピーカーのようにハウリングをおこし、モアの大声をかきけした。
リリアの視線が、国王ビリアンの視線が、大きく口を開けて、紫色の煙を吐き出すシャンリー三世に集中した。
モアは煙を吐くシャンリーを見た。
シャンリーは煙ごしにモアを見た。
モアは黙って立ち去ろうとするがシャンリー三世は赦さない。
モアの襟首をつかんだ。
「このボケ野郎。国王に渡す前に毒味ぐらいしないのか」
「物が、物ですから。
ほかの人間からもフェロモンが出ているというのは好ましくないと判断して」
「あああああ」
シャンリーが気付いた。
トルーダムから濠々と紫色のフェロモンが上っている。
そしてイゾルデも紫色のフェロモンが発散した。
ダンス会場のどよめきはともかく、二人は見つめ会うことになった。
「モア、やばいぞ。解毒剤をだせ」
「はい」モアは白い液体の入った、コルクのフタのしてある試験管を取り出した。
モアは試験管を見た。
白い沈殿物があった。
「違う、俺の薬ではない」
モアの小さな声がもれた。カロがすり替えていたのだ。
「どうなるのだ」
シャンリー三世は聞いた。
モアは両肩を挙げてお手上げのジェスチャーをした。
「ああなる」
モアはトルーダムを見た。
トルーダムは紫色のフェロモンを発散させながらイゾルデに抱きついた。
イゾルデは紫色のフェロモンを発散させながらトルーダムに抱きついた。
二人はダンス会場の真ん中で熱い抱擁を交わし、オリアン国国王ビリアンはムンクの叫びをあげながら失神した。
トルーダムはイゾルデを抱きながら、ダンス会場を横切り、ステンドガラスで出来た窓を、派手に叩き割りながら飛び下りた。
会場の音楽が止まった。
人々は割れた窓を見た。
「派手な駆け落ち」リリアの認識が会場の認識だった。
「なぜ、奴の薬はいつも非常識な効き方をするのだ」
カーテンの影でカロが呆然とした。
「モアー」
エスカチオン国王の絶叫が響いた。
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