第24話 カロの謀略

「らん、ららん、らららららん、らん」

 モアは鼻歌をまぜながら料理を作っていた。

 ストレスの充満する外交社会において趣味を持つことが大切なのだ。

 料理の時だけは全ての悩みを忘れられた。

「ホレ薬」

「バイアグラ」

「毛生え薬」

「水虫薬」

「虫歯の特効薬と痛み止め」

「疲労回復・滋養強壮」

 モアが開発した薬は数知れないが、錬金術師アルケミストを目指した分けではない。

 だが、モアは作った。

 それほど、使われている食材に凄まじいものが人っていた。

 少しだけ証言を集めてみた。

 

 次女A  「何が、怖い。

 モア様が、料理した後に片付けないのが凄いのよ。

 動物の時はまだましよ、昆虫シリーズの時が怖いのよ。

 首のないカマキリって結構動くのね、人間ぐらいあって、食べられる事はないと分かっていても怖かった」

 次女B  「あの人、男だから片付けないのよ、

 体高80センチある芋虫の内臓だけ取っておいてある時、地獄のようだった。

 虫って、凄い生命力ね、動き出したときは阿鼻叫喚だった。

 軍隊に知り合いのいる娘がいたから、とどめをさしてもらったわ。

 新入りが次々とやめたわ」

 冒険者A 「ドラゴンを倒すことがあってな、どうさばいたらいいか分からなかった。

 ギルドで聞くとサルディーラの領主が好物だから、高く買ってくれるらしい。

 半信半偽で連絡をつけてみたら、息子を連れて来た。

 その後軍隊がやってきて、鯨を解体する要領で見る見るうちに小さくなったよ。

 驚いたことと言えば、自分の身長程ある肝臓の取り分を巡って、息子とつかみ合いのケンカを始めたことだ。

 払いは良かった。

 金貨を一袋もらったよ。

 生きたままサルディーラまで連れてくれば倍払うそうだ。

 ドラゴンも馬鹿じゃない、サルディーラを飛ぶ奴はいねえよ」

 娘A   「私は不思議だった。サルディーラに野良犬、野良猫がいないから。

 でもお父さんとエスカチオンに行くことがあったの。

 その時、すべてを知ったわ。

 お父さんは左手にハンマーを持って背中に隠した。

 右手に一切れの肉片を持った。

 野良犬に小さく口笛をふいた。

 当時、幼かったから「ワンチャン、ワンチャン」と呼んでいた。

 野良犬はシッポを振りながらお父さんのところにやってきた。

 一撃だった。

 たぶん? 苦しまなかったと思う、俗説のように三回まわって倒れた。

 お父さんが両耳を引っ張って引きずり出すときには、痙撃もおさまっていた。

 浴室で解体を始めたの。

 脳味噌を始めて見た、ピンクよりも白に近かった。

 薄い膜で覆われているの。

 お父さんはストローをさして「飲め、飲め」とうるさかった。

 カニ昧噌より、塩っぽくて、パサパサしていた。おいしくなかった。

 あの当時、私の家が特別だなんて思わなかった」

 カ○トーナのA  「彼が酒を持ってきたのですよ。いろいろな種類があるんですよ。

 聞きたいんですか。

 後悔しませんね。

 言いますよ。

 カエル、ヘビ、トカゲ、ムカデなどが入っているわけです。

 しかも見えるようにガラス瓶でした。

 飲んだ後はアルコール漬けを食べていましたよ、勧められるときが一番つらかった。

 それから彼は、ハーブ茶に蜂をいれて、噛み砕きながら飲むのが好きでした」

 君主S  「あの男、白いハトを食いやがった。

 カナンの昔にあったとされる、洪水伝説でノアの箱船に、四つ葉のクローバーをくわえて持って帰ってきた。

 伝説の聖なる白い鳥を平然と焼き鳥にして食いやがった。

 さすがのリリア婦人も、声を出さずに白目をむいて倒れたよ。

 起きたときには「何て、バカなことを」と言って涙ぐんでいた」

 妻R   「私は殺されるかと思いました。

 食中毒です。

 ただ、モアと、ジオンと、アルテシアには効きませんでした。

 いくら食べても大丈夫です。

 後で分かったことですがこの三人にはフグの毒も通用しません。

 味見した侍女達は全員倒れました。

 モアが『元気の出るオカユ』を作ってきました。

 抵抗ありました。

 変な形容詞がなければいいのに。

 私は、それを三日間食べませんでしたから、治りが一番遅かったです」

 息子Z  「お父さんの料理?

 上手だし。美味しいよ。

 ただ……。材料がね……」

 再び娘A 「私、子猫を拾ったの、お父さんに見つかれぱ食べられると思った。

 でもすぐに見つかったわ。

 神話のように壮大な話でした。

 その場で創作したデマカセだと思います。

 猫と人間は共存できないらしい。

 お父さんに取り上げられた。

 森に返しに行くそうです。

 こっそり、後をつけました。

 どうやら森は台所にあるみたいです。

 ネコチャンの最後の悲鳴、今でも覚えています」

 友人T  「あの男、サンショウオをツルリと踊り食いしやがった。

 胃の中で暴れているらしい。

「私の赤ちゃん」とジョークを飛ばしていたよ、他にもイカ、タコ、エビ、カイ、ウ二、何でも食べていたよ。

 生で。

 俺もにおいにつられて、白いハトを食ったことはあるがナマコとイソギンチャクだけは食べることができなかった」

 友人Sの妻G  「調味料が凄かった。

 本人は発酵させていると言う。

 腐っているのと科学的な違いは分かりません。

 あの匂いは凡人には耐えられなかった。

 カメとフタの隙間から、猫の右手が出ているのを見たとき、ショックで卒倒したのを覚えているわ

 ただモアが早死にしたのは、半分以上猫の崇りだと思う」

 ライバルK  「机を食べているのを見た」

 

 今の時代、真偽を確認する術はないが、かなり特殊な味覚の持ち主だった。

 何より、彼を偉大たらしめたのは副産物として精製された薬品群である。

 そのモアがオリアン国の厨房の一室を借りてシャンリー三世より依頼された「ホレ薬」を作っていた。

 もうもうと煙の出る紫色の怪しい液体が完成した時、女の子が一人人ってきた。

 モアも驚いて振り向いた。

 官僚クラスの会談が終了して王たちは書類にサインするだけ。

 暗殺者?

 モアも身構えたが見れば可愛い女の子ではないか。

「モア様。あなたのファンです」

 ひっしと抱きついてきた。

「私には、妻と子供と愛人がいます、だから早まってはいけません」

 据膳食わねば男の恥。

 口先では低抗したが、両手は女の子を抱き締めた。

「思い出が欲しいの・・。

 今だけは……、今だけは・・、私だけのモア様でいてください」

 モアも必死の抵抗を試みるが簡単に失敗してしまう。

 そのまま崩れ落ちニャンニャンニャンニャンと作業を開始する。

 

 十分後

 

 隠し扉がスルスルと静かに開いた。

 カロの登場である。

 狂った獣のようにお互いをむさぼりあうモアはカロの存在にすら気付かなかった。

『妖精の靴』カロの発明品の一つ。

 靴底に綿が敷いてあり足音を消す効果がある。

 カロは信じていたがあまり売れる商品にならなかった。

 採用していた盗賊組合シーフギルドも「カロ様個人の忍び足の技術が高いのであり、外的要因が強いため靴は関係ない」と結論をだした。

 カロは忍び足を使いモアに気付かれる事なく『ホレ薬』まで到達した。

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふふ。やはり開発に踏み切ったか。

 我が『連環の計』完成のためにどうしても必要だった。

 見ておれよ、モアめ。

 ぐわははははははは」

 薬品を持って悦惚としていた時だった。

「あああああああああXXXんん。そこをそんなとこまで丁寧にされたら」モアの悲鳴が部屋をかけめぐった。

 思わずカロは薬品を落としてしまった。

 後、3センチ左だったら歴史は変わっていた。

 生きるべきものが生き、死ぬべき運命を持つ者が死んだだろう。

 カロは足の甲で受け止めた。

 バランスを取り一滴も零さなかった。

 モアと女が目に入った。

「なんという凄い体位」

 どういう体位かは分からないが、カロに凄いと思わせるものはあった。

 モアが死んで何が惜しい。

 モアが開発したという伝説の十七体位が喪失してしまったことが措しい。

 彼は「聖・性典」という題名で人類初のHOW TO物の創作に取り掛かっていたのである。

 モアの死が人類の損失であるかのように語る人がいるが、その多くが「聖・性典」完成まで待てなかったのか、が論旨である。

 数多くの哲学があるが、これほど身近な話もなかった。

 カロは長い時間をかけている余裕はなかった。

 似た色の薬品を瓶の中に人れ替えて部屋を後にした。

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