第22話 娘アルテシアと母リリア

 これでもリリアはかなり頭良く描かれていただろう。

 この作品の内容は創作したのは娘のアルテシア・サルディーラだといわれている。

 彼女が母親を余りにも馬鹿にされているからであり、未来に対して少しでも印象を良くしようと創作したものだ。

 その彼女でも明らかに途中からテンションを下げた。

 リリア・サルディーラという女は感惰的で公正の概念がない。

 恐ろしい女であり、字が書けないだけでなく、先程の対話形式で進められる偽リリアのように言葉は持たなかった。

 もっと暴力で相手の言論を封じる人だ。

 独善的であり、当時の常識に照らし合わせても狂暴で凶悪な判断をしている。

 本来なら弁護士的役割を持つ有力貴族はモアによって骨抜きにされてしまった。

 現実唯一の弁護士と言えるモアはただ涙を流し、嵐が過ぎるのを待つだけだった。

 サルディーラ国民は『議会政治の母』とまで言われるアルテシア・サルディーラ女王の誕生を待たなければならなかった。

 ただリリアが無能と言うよりは次世代のアルテシアや、ジオンが優秀すぎたのもあった。

 リリアも平均的な優良君主の能力はあった。

 アルテシアも『議会政治の母』と呼ばれているが、いきなり自分の国に導人したわけではなく、他人の国エスカチオンで始めたことだった。

 アルテシアの時代ミリディアVSエスカチオンの戦いにおいて、エスカチオン国が勝利をおさめたが国力の疲弊は免れなかった。

 そこでシャンリー四世の取った政策は間接税の導入だった。

 今まで農業からだけ税を取っていたことを考えれば画期的な挑戦だった(人頭税、死亡税、不動産税、固定資産税はあった)。

 これはギルドや、銀行や、金持ちに直接一定額収めさせて、商売の許認可を与えていたモアでさえ考えなかったことだ。

 ところが各地の商工業組合ギルドや新興の有産階級ブルジョワが反発をして、各地で暴動が起きた。

 これを口先だけで鎮圧したのはアルテシアだった。

 彼女はシャンリー四世を説き伏せて、軍隊による鎮圧を止めさせた。

「我々はミリディアと違うのだ」「話せば分かる」などの後世に語り継がれる名言を残した。

 暴動のメンバーにも「安全に対するタダ乗りは良くない。

 税金は必要だが額が大きすぎた。

 我々王室はミリディアのような略奪者ではない。

 君達を奴隷にして売り飛ばしてその場凌ぎのお金を獲得しようとは思わない。

 インフラを整備して、市場を大きくし、安全を享受するには、ある程度代償が必要だろう。

 その辺は理解できますか」と

 当時の暴動の首謀者は市民革命の時と違いギルド長などが勤めていたため、理想に対する熱狂よりは、現実の計算の方を優先させたし、王室を倒そうとは思わなかった。

 彼等自身、無税国家など有り得ない事を理解していた。

 ミリディアは人の肉を焼いて食った、後顧の憂いを断つために十万都市を根絶やしにする行為があったため、目の前にいるアルテシア・サルディーラの方が遥かにましだった。

「理解できます」

「ならば、金額の大小をシャンリー四世陛下と話し合おうではないか、みなを連れていくわけにはいかないから、あなた方ギルドが納得のゆく代表者を出してほしい」

 その後は「暴動の矛をおさめるから、代表者をださせてくれ」と自ら言い出す者も現れ、代表者と言いながらも総勢2百人に上った。

 彼女はそれだけを引き連れてシャンリー四世と話し合った。

 以後は毎年、王室が決めた税金の金額を承認する議会を開くことに決定した。

 そして当時、調整役だったアルテシア・サルディーラは議会の議長に就任した。

 以後、サルディーラ王室は議会を背景に独特の力を発揮する。

 もちろん、彼女はギルドの人間の身勝手を知り抜いていたため、彼等ギルドの代表者によって構成される議会を「平民議会」と呼び。

 貴族や、坊主や、大地主など文化的背景を背負った人間を「貴族議会」と呼び、即座に「二院制」をひいた。

 これは平民議会が余りにも身勝手を行い、国の持つ軍隊が弱くなるのを防ぐための機関だった。

「平民議会」の決定に異議を唱えるシステムを当時は堂々と作った。

 民衆の側にも外交はプロに任せておけという空気があった。

 民衆の識字率は低く、自らの無知を理解していた。

 法律を審議する機関、あるいは予算が適切に使用されているか、監視する機関とまではいかないが、これが「議会政治の源流」となった。

 もちろん、彼女の孫の代にエスカチオン軍に議会を封鎖されるが、総理大臣である彼女の孫がサルディーラ軍を率いてエスカチオン王を討った。

 アルテシア・サルディーラはシャンリー四世の息子を殺さないでくれと願ったが、かの女の孫は首をはねた。

 多くの人間はサルディーラ王室にエスカチオン国の王になってくれと依頼したが彼はこれを死ぬまで断り続けた。

 アルテシアは王室と、議会の双方に中立な裁判所に力を持たせようと画策するが、それは彼女に悲劇的な最後を迎えさせた。

 当時の裁判官は白づくめの洋服を着て、目の部分をくりぬいた白い頭巾を着ていた。

 人間の誇りが最優先された時代だから復讐にあうことがあるため、裁判官には防御措置として施されていた。

 議会自体は予算の取り分がメインの時代、立法機能などない。

 行政が立法道理運営して民衆の権利を守っているかなど審査するはずもない。

 ワイロも慣例化していたし議会が行政に言う事を聞かせる軍事力を持っていない。

 当時は復讐が野蛮な行為ではなく極めて道徳的行為だった。

 裁判官に力を与えるなど、気持ちの上で抵抗があった。

 アルテシアの孫は総理大臣となり、エスカチオン王室は傀儡とはいえ、始めての女王を擁立することになる。

 だが、妖精の血を引く彼も病にかかり、自分の死期が迫り死を覚悟したとき、法律の運用の監視と、運用の是非を判断する権カを裁判所に持たせた。

 同時に裁判官の任命権を王室に拒否権を議会に持たせた。

 王室に裁判を受け入れる義務と守護する義務を課した。

 正統エスカチオン王室は亡命先から返り咲きをするが、かつて誇った、絶対王政のような力はなかった。

 アルテシア・サルディーラは議会政治の細い細い源流であった。

 有史以来、何番目かに入る知力を誇る彼女と比べられてはリリア・サルディーラが気の毒だと思う。

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