第21話 カストーナのアデューとリリアの会話
朝ダー。
モアは日が上る前に起床した。
不眠不休で仕事を続ける事ができた。
寝る間もなかった。
「あんなに毎日遊んでいて、一体いつ寝ているのだ?
力はないくせに体力は無限大だな?」カストーナのアデューが首をかしげた。
モアは自分の妻には毎日欠かさずに手紙を書いていた。
息切れさせる高級娼婦の隣で、時には抱き付かれて邪魔される時もあった。
決して彼女らを怒る事なく、返して下さいと頼み込んだ。
手紙の中で妻への愛を語った。
「毎週木曜日の晩、僕の事だけを考えてくれ。
その日だけは一糸纏わずに、僕の事だけを考えてからベッドに入ってくれ。
ベッドの中で「モア、愛している」一言だけつぶやいてくれ。
どんなに離れても、僕も木曜日の晩だけは耳をすまして眠るよ」
娘のアルテシアと息子のジオンは、母親がモアの言いつけを守り、木曜日の晩は裸で寝ているという事実をしり、椅子の上かひっくりかえった。
「(浮気)している(父親のモアは)絶対に(浮気)している」
床の上でピクピクしながらジオン・サルディーラが断言した。
その遊び方たるや未成年のジオン想像を絶していた。
毎晩三人ずつ、三回。一日合計9人と遊んでいた(アデューの日記によると昼間は真面目に働いていたらしい)大体は高級娼婦だった。
その選抜方法はここでは表記できないやり方だった。
想像するヒントとして『道具を使っていた』とだけ書いておこう。
「彼女とは同志であった。
彼女は魅力的な女を知っていた。
男が抱く欲望を知っていた。
彼女は賢明で、たくさんの自分を演出できた。
その中に女らしさもあった。
まるで男のように思考でき、必要ならば感情的にもなれた。
男ならば、誰でも、淡く恋をしたが。
心を奪われるほど激しく愛せなかった
彼女の人間としての深さに、誰も並び立つことが出来なかった」
シャンリー四世はアルテシア・サルディーラをそう評していた。
そのアルテシアが母親を評した。
「髪の先から、足の指の先まで、あんなに女で出来ている人はいない。
あれだけ男の幻想的な『女らしさ』を持たない人もこの世にいなかった。
父親のモラルの欠如に対して、深い嫌悪を持つ私が、夫としての男の幸福論を思考すれば父に深く同情した。
だから、父モアの『浮気論』に共感したわけではないが、私が母リリアの母親ならば叱りつける所行が多数あった」
苛烈なエロ狩りを実行し、風紀を引き締めたアルテシアらしい意見ではあった。
社交界の風紀の乱れに厳しかったが、男の動物としての射精本能にもある程度理解を示し、娼婦を取り繍まることはせずに、病気などの衛生対策にとどめた。
演劇観賞を趣味としていたが、政治家としての彼女はどこまでも
後世に創作されたとされるカストーナのアデューとリリアに会話がある。
リリアが少し賢いため不自然に感じるがおもしろい視点があるから載せさせてもらおう。
カストーナのアデューは画家でありリリアの肖像画を8枚か残している。
設定は画家とモデルの会話とされている。当時好まれた対話形式という技法である。
リリア 「私は殺されるかもな」
アデュー 「誰に?」
リリア 「分かっているだろう、モンダル山のモアだ」
アデュー 「モア様は賢い。私達の想像を越えている。
危険な賭はしないでしょう」
リリア 「私より、モアの方に才能がある。
将や兵の中にはサルディーラ王室よりモア個人の才能に惚れ込んだのもいる。
カストーナのアデュー。お前も後者だ」
アデュー 「女王陛下、カストーナにその人ありと言われた老将がいました。若い頃から才能があり。存命中はシャンリー三世を破った老将は、その男に後事を託すべく、娘と緒婚させて優秀な男を養子にもらいました」
リリア 「その老将はモアが対決を避けて、死ぬのを待った男だろう」
アデュー 「そうです。モア様はそこに目を付けました。政略緒婚が上手くいかなかった。
自らの才能をたのみに這いあがった男と、家柄の上に横たわる気位の高い女。
私は彼等の結婚式を見て「終わっている」と感じました。
説明は出来ませんが、二人は運命を肯定的にとらえてはいません。
運命にあらがい。
天命に生き。
使命に死す。
女の方の死生観が未熟で、覚悟が足りなかった。
恋愛も真剣勝負とあきらめ、平民出身の男など物狂いになるほど惚れさせらば良い物を、多少下品な所があるが、恋愛はほとんど素人で簡単な男だったのに」
リリア 「人は与えられた運命を生きる。
アデューは哲学者だな。
そして、お前が女でなくて良かったよ」
アデュー 「モア様はそこを突きました。妻の支持を得られなかった男は、親戚のコンセンサスが取れずに孤立しました。
最後に出来ることは老将との間に出来た「人間の絆」を大切にして、民衆国家カストーナのために忠節の誠をつくしました」
リリア 「殉じたか、いい話だ」
アデュー 「私も、目の前の出来事が信じられませんでした。彼の妻が遺骸にすがりつき泣き出しました」
リリァ 「結婚は運命だ、時は流れ、人の心は変わる。
時間はかかったが、自分の運命を、やっと赦せたのだろう」
アデュー 「モア様はその様子を黙って見ていました。
彼程の人が同じミステイクを犯すとは思えないのです。
潜在的な敵につけいるスキすら与えないように努力するはずです。
彼自身は料理が趣味という男でサルディーラ纂奪を目論むとは、とても思えません。
女王陛下がモア様に深く心を奪われているから、彼の心が逆に見えなくなっているのです。モア様が仮に奪ったにしても、国際関係や貴族の忠誠をどうやって取り戻すのですか
冷静にモア様を思考して下さい」
リリア 「モアがお前を部下にした理由が分かったよ、冷静で言葉をつくす。
今日だけは私の悩みを聞いてくれ、モアはこの緒婚に反対なのだ。無理やり事を進めたのは私だった」
アデュー 「結果から言えば、最良の選択でした」
リリア 「モアは私の乳母と出来ていた。
しかも乳母からは若い婚約者まで世話してもらう、念の入れようだ。
二人の関係は健全な関係であったかは、当事者しか知らぬこと。
乳母なりにモアに気を使ったのだろう。
あの当時は叔父の裏切りを受け、頼りになるのはモアの知謀のみだった。
彼女なりの私への忠誠だった。
モア個人は相手の思惑を見抜いていた。
「恋愛したがる女は良く見るが、束縛されたがる、いや、もっと酷かった。
男の奴隷になりたがる女は彼女が始めてだ。
王様のような気分になれたよ、十分に尽くされて幸せだった」あの男は平然と口にした。
それでも、私はモアを自分の男にした」
アデュー 「彼の才能に対して、侍女一人を捧げるだけでは足りないと感じた」
リリア 「やはり、お前は男だな。
今も、自分の中にはっきりとした答えが見つからないのだが、そんなに合理的な物ではなかった」
アデュー 「と、申しますと」
リリア 「不安だった」
アデユー 「…………」
リリア 「抱いてもいない男から、絶対の忠誠を受けることが不安だった。
モアと私は男と女。
モアは常に冷静だが、私の中で安定しない不目然な関係だった」
アデュー 「それは、サルディラ湖西部の戦いで、女王陛下が逃亡され、モア様があなたに変装して、カロに『空城の計』をかけた事に起因しているのではないですか」
リリア 「確かに、あの時、私はモアに『ありがとう』の一言もいえず、「卿の忠誠は良く覚えておく」などいって、自分の立場を取り繕っていた。
そんな単純な話ではないよ。
女の性に近い。
世界最古の商売は娼婦だと言うが、抱かせてもいない男から、スカートのすそを持たれ、服に忠誠のキスを受けても、心の中に平安は訪れなかった。
「冷静になって下さい」と涙まで流したモアを腹の下に組み敷いたとき
「この男は私の男なのだ」と確信がもてた時、モアの涙の国際情勢講座を聞きながら。
彼には悪いが落ち着いた気分になれたよ」
アデュー 「女王陛下は十分に冷静ですよ」アデューは少し笑った。
リリア 「真面目に相談しているのに、私より十も年上なのだから、大人の態度で頼む。豪快に笑われても不快だが、思春期相談を受けるカウンセラーのような笑顔を向けられても恥ずかしいのだ」
アデュー 「それだけ当時の陛下に権力がなかった。
あなたは冷静で下手な政略結婚は生まれてくる子のためにならないと判断した。
モア様はサルディーラ王室の家庭問題にまでアドバイスされる人ではなく、当時は生まれていませんが、ジオン王子に権力が継承されるか不安だった。
モア様は無責任にも、軍隊の頭数を揃えるために女王陛下を売り飛ばそうとした。
辺りを見渡せば、狩人の父親しか持たない巨大な知謀が未婚でウロウロしている。
妻になれば立場が弱くなるが、今回のように例外もある。
モア様の意思を確認せずに、事を及んだのは不道徳でありますが、結婚に対してあなたの意思を確認しなかった。
悪大臣モア様に対する防衛的行動だった」
リリア 「頭がいいな。アデュー。褒められると悪い気がしない。
そんなに立派な事は考えなかったが、あいつは「結婚が上手くいかなかったら、退屈しないように、愛人でも送って差し上げます」と平然と口にしていた。
あいつは心の中で、私の事を「女だと思ってないのでは…」と不安になった」
アデュー 「分かる気もしますが」
リリア 「何か、言ったか?」貴族が誇る鷹の目が男を射ぬく。
アデュー 「失礼。モア様の言い分は理解しかねますが。
このように思考されれば、心のモヤモヤはだいぶ取れたのではないですか」
リリア 「しかし、モアは私との初夜の次の日、私の目の前で乳母と口付けを交わしていた。
モアはキスの時、私の存在に気付いていた。
私を見ていたからな。
私はあの時だけは飛び出すことができなかった。
だまって背中を向けて逃げ出した。
乳母とモアは二十も違うぞ、あんなに不潔な男は見たことがない。
私の父にも、兄にも、祖父にも愛人はいたが、あそこまで手当たり次第ではなかった」
アデュー 「モア様も、自分の幸運に動揺したのでしょう。
褒め過ぎれば、いたずらをする。
三才の童子に似ています」
リリア 「しかし、女の方がはるかに年上なのだぞ。
私もモアより年上だが、2年ぐらい許容範囲だ。
「種が枯れれば、畑を新しく」ならば理解できるが、逆だぞ」
アデュー 「女王陛下、お言葉に品性が。
お気持ちは分かりますが、モア様は経験も豊富で、独特の公正感がある。
何か特殊な楽しみ方でも見いだしたのでしょう。
凡人は天才の奇行を真似したところで、精神が分裂するだけです」
リリア 「モアは私のことを恨んでいる。
私は抱き合う二人を強引に引き離して、乳母に休みをくれた。
信頼できる唯一の人だが、田舎に追いやってしまった」
アデュー 「お言葉ですが。
モア様が人を愛すると思いますか。
少しは愛したでしょう。
自分を見失うほど愛を貫かれますか」
リリア 「モアは愛せない。
そんなにも深くは愛さない。
人を愛せない。と思う」
アデュー 「私もそう思います。
その変わり公正ですよ。
自由と平等が両立しないことを知っています。
弱者の甘えも、強者の驕りも知っています。
モア様がリリア様を恨んでいるとは、とても思えません」
リリア 「モアは謙譲の精神を知っている。
何も望まない。
貴族にすら成りたくはなかったのだ。
私は彼をくだらない物に巻き込んだ」
アデュー 「仮に、立場が逆ならばどうでしょう。
モア様が王様だとしたら」
リリア 「不愉快だな。そんな例え」
アデュー 「決して女王陛下の魅力をウンヌンではなく。
モア様個人のもったインモラルな性格からして、国政を省みず、ハーレムの建設に邁進し、毒ガスのようなエログロ小説でも書いて、無為に日々を遇ごす」
リリア 「私はどうなる?」
アデュー 「(心の声=つまみ食いされて、捨てられる)女王陛下はモア様の運命ですから。
それはともかくとして、モア様の幸福の追及が公共の福祉と乖離しています。
モア様は女王陛下と結婚されて哲学者になった。
力は法律を守らせるものだ。
それは理解できますが絶対王政の中で司法権は最終的に女王陛下が握っておられる。
女王陛下は気紛れで、同じ罪状でも、その日の気分次第で罰が違う現実に直面しました。
まして、わが国は民主主義国家ヴァレンシアのように弁護士はいません。
ある程度証拠が固まれば、反論の機会なく死刑にできるシステムです。
女王陛下はサルディーラの法律をあまり勉強してなくて、中途半端な知識で裁いておられます」
リリア 「耳の痛い話だ」
アデュー 「モア様個人が官僚出身と言う事もありますが、わが国は分裂して権力の委譲が上手にいかなかった背景があり、旧来の貴族勢力と争った時代があります。
サルディーラ軍自体中央集権化が進み、モア様が設立された軍事大学の出身者で固めてあり、貴族の出身者が無試験で半数以上入学されますが、ただの命令系統であり、封建国のように土地や、私兵を持っているわけではありません。(効率良く働くシステムだが、人間の感情を吸い上げる事がなくなり、事務的に人の命を処理して戦争を遂行するという弊害も出た。
軍が個人の私有財産だった時が人命の損耗率は少なかった。
ただこの時代ではどれ程のイニシアチブだったか計り知れない)
サルディーラは現在モア様を中心とする官僚社会です。
もともと官僚は各地に行って税金を取って回るのが仕事でした。
モア様が大学を作り、ある程度国家に牽仕する集団を作り始めました。
法律を整備して国家資格の許認可権を官僚に与えました」
リリア 「昼間はあくせく働いていたが、モアはそんな複雑なことをしていたのか」
アデュー 「夜も眠っているのを、見たことはありませんが。
官僚まで女王陛下と同じように、資格を好き勝手に決めてはサルディーラ国が一定のレベルの人材を安定して獲得はできません。
そこで女王様も含めて守らなくてはならない法律を作ったのです。
それが憲法です。
国柄によって宗教が違いますから、麻薬を吸えば禁固刑になるところもあれば、死刑になるところもあります。
国際ルールを決める上で、各国が法律を持ち込んで、この国は蛮族でないと認定してから貿易を始めるのです」
リリア 「商売は商人がするものだろう」
アデュー 「供給と需要です。
モア様が、各地で産業を振興して教育を施したため、特化した技術集団が各地でできたのです。
彼等は家作りなどを専門に請負うため、ある程度、定価を決めた。もちろん材料の安定供給が前提ですが。
これまでは産業道路は治安が悪く、各地の村は離れ小島のようにポツン、ポツンと存在して貴族が治めていた。
モア様のような官僚がやってきて、税金を取っていく。
もちろんモア様は複数の国の言葉を話せましたから、国境のかなり難しい地区ばかりで、時には貴族が乱暴を働くなどの直訴を住民から受けていた。
貴族とは名ばかりで戦功をたてたやくざ者もいた。
税金さえ国に治めれば何をしてもいいと勘違いしていた。
モア様が道路の治安を回復する事によって、ヒト、カネ、モノ、ジョウホウが潤滑に回りだした。
そこで、次に必要になるのが私有財産の保証です。
働いても、働いても、貴族がタカリに来たのでは話しになりません」
リリア 「?」
アデュー 「暴力を使って国の分捕りあいをしている女王陛下には分かりにくいかも知れません。
システム上、王と名乗るの自体ノーマ皇帝の許可が必要なのです。
無知ゆえ誰もが勝手に名乗っていますが、皇帝に貢ぎ物をして許可を得るのが筋なのです。
彼等に潜王を倒す金も時間も力も無いため、シャンリー三世のような有力王に、王を統べる許可を与えるのです。
パワーバランスの駆け引きばかりしていれば、一般民衆の私有財産の保護まで頭が回らない。
リリア様など戦争するためのヒト、カネ、モノの供給先程度に理解している。
多少道徳的であるから、民衆をいじめることはないにしても。モア様はもともとある民主主義ヴァレンシアの理屈を導入したのです。
私有財産を保護して貴族からの必要以上の搾取を押さえたのです」
リリア 「?」
アデュー 「ヴァレンシアは島国で貿易立国です。
外の海には目然災害だけでなく、海賊も出ます。
そこで国家が護送船団を作って、定期便を運営しました。
安全上の理由で政府が運営する軍船は、国内の人間でないといけなかった。
5百年ほど前はノーマ帝国から追い出されたヴァレンシアの背景を考慮にいれて下さい。
政府の運営する船の乗組員が、この場合は官僚になるのでしょう。
異国で家族にお土産を買った。
始まりは善意にあふれる物ですが、船長の中に密輸をまがいな事を始める者が出てきた。
財閥、この財閥というのはわが国の貴族に近い存在で、国家は彼等の財産をメインに守っていたわけです。
財閥は政府が育てた人材をヘッド・ハンティングしていたわけですが、中古船や略奪した海賊船をながめて独立を思考するものが現れ始めた。
彼は古い仲間に話をつけて、自分の中古船をなんとか護送船団に混ぜてもらうことに成功した。
その時の内容は確か「遅れないように、勝手についてこい」というものだった。
王のいない財閥の互助組織だった。
護送船団方式に中古船ですが食い込めた。
彼は官僚出身ですから軍船の船長と知り合いでした。
どこまでも
が、集まった乗組員は素人ばかりだった。
そこで船長は知り合いの官僚に、「あなたの密輸の品を運びますから、私の商品を少し運んでくれませんか」と持ちかけるわけです。
これがリスクを最小限に押さえるシステムの走りなのです。
自分で全てを運んで捌くのは利益が大きい反面、全てを失う可能性がある。
そこで護送船団の中で他人の品物を専門に運ぶ船が出てくるわけです。
流通業の創業になる。
もちろん、彼は自分が昔の人間関係で成り立っているのを知っていましたから、海賊に襲われれば、雇った傭兵を率いて軍船に乗り込んで加勢をしました。
やがて、彼のような人間が官僚の中から多数出てきました。
ある者は仲間内で、ある者は人に雇われて、ある者は家族総出で中古船を購人して運営始めた。
積み荷の対象も船長ばかりではなく、乗組員全員に密輸をもちかけました。
やがて、市民の中にも「アレを買ってきてくれ」と依頼するケースが出てきて。
船の運営は船長にすべて任せて、積み荷の積載ボックスの大きさを契約して、船長が中古品を購入する場合のお金を融資する市民(買い付け商品を決定する)が出てきた。
(株式の初歩だった)
(カンパニーと呼ばれ1航海回毎に人間を解散していた、新しく航海する度再雇用していた)
リスクはあります。
船は沈みますから。
船長の技量と人間力を自分の目で厳しく審査しなければいけません。
モア様に言わせれば、「金が、金を産む。
銀行は金を売っていた。
物を作って売るのが主流のサルディーラからみれば、錬金術を見ている気分だ」
モア様は陸でそれをやろうとしている。
ソフィア新教(告発する
技術の向上によって産まれた商品は、一部の地域だけで売れば、供給過剰になって、その場に余るわけです。
国家主導であるが専業的な集団が出来たわけですが、彼等は農業をしないわけです。
治安を維持して流通の確保を行うのは、モア様にとって急務なわけです。
商品の販売圏(市場)を拡大しなければ、世界に誇る技術集団は農業を始めなくてはならないわけです。
その仮定で、私有財産の保証が出てくるわけです。
各地で貴族が治安維持を行っていましたが、これも実際に、ソフィアの聖書にあるような『徳目・
中には女王陛下のように不勉強なケースもございますから、貴族が民衆に対して行うことを書いた法律を作り、私有財産を保証したわけです。
それが、憲法です。
今まで、『殺すな、盗むな、目には目を』を中心とした刑法しかない社会でした。
その辺、ヴァレンシアは早くから法律の整備を行い、商人がまもるべき法律や罰則を決定したのです」
リリア 「お前の話を聞けば、王が古くから持っている人間性に絶望したように聞こえるが? 民主主義国家は決定が遅い。
君主国には敗北している。
ヴァレンシアは船長の力量で国を守っているのであり、かなり特殊なケースだ。
ヴァレンシアには、くじ引きと選挙で決められる
王は持たないが、常に政治体制を維持する集団がある。
共和制と呼んだ方がいい。
敗戦のときは外国に対して、彼等が責任を取っているぞ。
選んだ市民全員をくびり殺すわけにはいかないだろう。
外国との戦争に勝利しなくては、商売もないだろう、お前の理屈は軍隊に守られた上でなり立つ、幸せな寝言だ。
誇りをかけて戦う人間は、多少の優劣が会ったにせよ、大切にしなくては」
アデュー 「女王陛下の心配も当然だと恩います、強い経済カがあれば、農村からの徴収でまかなう兵隊ではなく、訓錬をした組織を作ることができます。
昔から傭兵は良く逃げますが、村単位で貴族に連れてこられた兵は、その後の人間関係もあるせいか、簡単には逃げません。
モア様が組織された軍隊も給料制の官僚のようなものですが、家族はサルディーラ国がタダで提供するアパートに住んでいるため、強いモラルも有ります。
訓練は一分間に八十歩しか移動できない集団を百二十歩まで引き上げました。
サルディーラ軍は単独でエスカチオン軍を凌いでいると言われるのは、この辺の官僚制度にあると私は考えます」
リリア 「カネが大事なのは分かった。
モアは最初にハープ茶の栽培を行った。
これがソフィァ正教圏で飛ぶように売れた。
モアがビタミン不足を解消させる効果があるといっていた。
正直。毎年春先に出来る吹き出物が直っていな、同じ重さの銀で取引されたほどだ。
だが、モアはドル箱を民間企業に売り払おうとした」
アデュー 「人間観の違いでしょう。
王室御用達と言えば聞こえがいいですが、逆に守られてばかりいると働かなくなりますから、流通の中で空気のように自然に税金を取れるシステムが理想ですから。
冬場は野菜が取れないため、どうしてもビタミン不足に成りますから、ハーブ茶のプランテーションは国営でなくて構わないと判断したのでしょう。
モア様は上手に税金を取るつもりでいたのでしょう」
リリア 「国営とは? リリア個人の物にしようと……までは言わないが、サルディーラ王室でいいのではないか?」
アデュー 「・・(俺たちは、サルディーラ家の使用人かよ?」
リリア 「どうした?」
アデュー 「いえ、ですから、政治にも自然科学を導入したのです」
リリア 「自然科学?」
アデュー 「(この女、本格的に頭が悪いな)
自然科学とは前提条件ですよ。
例えば点、点とは大きさがないもの、そこから始めて計算をするわけです。
現実に有り得ない仮説ですが、そこから計算を始めて、実際に使用するときは計算の幅を取るのです。
線とは太さのないものだ。
空気や摩擦が存在しなければ、物と物は引き合う性質があるとか」
リリア 「?」アデューにも疲れがきた。
アデュー 「そこでモア様は仮に、仮説として政府がなかったらと前提したのです。
まるでウソの話ですが。
取り敢えず、空想してみたのですよ」
リリア 「王がいなかったら、ライオンが草食動物を食うような、とんでもない野生社会だろう」
アデュー 「モア様も同じ様に考えました、「人間ハ人間二対シテ狼デアル」そういう文章を残しました。
そう考えない集団もいます。「人間ハ植物ヲ採集シテ仲良ク暮ラス」と天国と同じ状況を想像する人もいます」
リリア 「モアに坊主が逆らっているわけか」
アデュー 「その辺も複雑なのですよ。
ソフィア正教会内部にも、芸術や古典文学の保護者であるモア様の、啓蒙的で哲学的公正観の信者のような人達もいれぱ、サルディーラ内部にも聖書を振り回す人がいます。
しかし、対立する二つの意見にも共通する前提条件があります。
そこまで説明しますと、難しい理屈がありますから、簡単に、覚えて欲しい事だけを言いますと、国も王もいないならば、人は『人の間』に『契約』を用いて、小さな社会を運営されるだろう。
この場合、『契約』は女王陛下が文書にサインしている『アレ』ではなくて、もっと抽象的な『愛』や、『信頼関係』や、『親子の絆』なども、日頃から交わされている『契約』の特殊なバージョンと無理やりに定義したわけです。
「
この論議だけは人間観の違いですから永遠に埋まらないでしょう。
国際条約を作るのに、教会VSモア様の図式があるのは否定しませんが。
毎年毎年百人単位で生け賛を捧げる集団を国と認定して交渉は出来ないわけですよ。
その辺はお互いに妥協できたわけです。
女王陛下は、憲法は世界に法律を文章にして発表する物だと考えていますが、権力者が守る法律、将来はジオン様が守る法律であり、国民は守らなくてもいいのです」
リリア 「?」
アデュー 「要するにリリア様は、殺人を犯したものを死刑にできます。
モア様の浮気の相手を死刑にできます。
パンを盗んだ人を死刑にできます」
リリア 「…………?」
アデュー 「できるんです、女王陛下には軍隊があります。道徳を入れずに権力を考察すれば可能なわけです。
人間・リリア様は高い道徳の持ち主です、それは十分に理解できますが、権力についてだけ考察しましょう。
しかし、命も含めて私有財産なわけです。
経済活動の前提条件は私有財産の保護にあるわけです。
被告には弁護士がつくわけです。
公正な裁判を受ける権利がある。
弁護士は法律と照らしあわせて、権力者が与える懲罰は重すぎませんかと指摘し、証拠や、証言に偽証や矛盾がないか質問をするのです」
リリア 「弁護士は決闘でもして、神の意志を確認するのか?
証拠の真偽など、何人かがグルになれぱ簡単に作れるだろう」
アデュー 「権力者の官僚が全ての証拠を出して、「これだけの懲罰を与えてよろしいですか?」と弁護士に確認するわけです。
それと同時に裁判官にも捜査上に法律運営の間違いが無いか確認する訳です、『拷問による自白は冤罪を生む』とモア様はここを酷く気にしていましたから。
もちろん最高裁判官は、今まで通り女王陛下でありますが、土地を巡る国内の争いなら、いざ知らず、パン泥棒ぐらいで呼ばれることはなくなるわけですよ」
リリア 「いつから?」
アデユー 「…………」
リリア 「…………」
アデュー 「・・・・三年前から」
リリア 「…………」
アデユー 「…………」
リリア 「お前ら、私の国で、何を好き勝手にしているのだ」
アデュー 「憲法は、アンタが三年前の誕生日に自分の手で発表した。
バルコニーの下で国民は喜んでいたでしょう」
リリア 「アホウ!
アレは私の誕生日を心から祝ってくれたのだ」
アデュー 「各商工業のギルド長の中には涙を流している人がたくさんいたでしょう。
彼らは女王陛下の誕生日で涙を流す必要がないでしょう。
アレはモア様がかかげた政策で市場の拡大と、自分の権利が獲得できたから泣いたのですよ。
すぐにヴァレンシア程の権利を獲得できませんが、それでも女王陛下のヒステリーから逃れた。
少し目の前を覆う深海の中から開放された気分になったからです。
第一、女王陛下も憲法を守るとサインしたと聞いていますが」
リリア 「私は字が読めないのだ。
モアは、これにサインすれば裁判など、めんどくさいことはしなくてすむ、戦争と外交に専念できるとだけ説明を受けた」
アデュー 「モア様は女王陛下をどうにかして、国を乗っ取ろうなんて考えていませんから。
モア様なりに女王陛下やサルディーラ国の青写真を焼いて考えていますから。
女王陛下に疑われていると知ったら、悲しく思われますよ」
リリア 「そうではないのだよ。
信じると言う事はモアに殺されても、彼を笑って赦せるかどうかだ。
私は赦せるよ。
モアが私に手をかけるならば、それは余程の事情だろう。
お前もきっとつらいだろう。
私にとってモアは必要条件だが、モアに取って私は十分条件にすぎない。
だから寂しくなるときもあるのだ、つまらないことを聞いた、忘れてくれ」
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