第5話 民族と愛とゲームと
話を元に戻す。モアはどうか知らないが、シャンリーが気まずいと思っている時に。
魔法使いから報告が入った。
「カロが、城よりうってでました」
「モア」
きっかけの欲しいシャンリーは喜びの声をあげた。
「カロが籠城をやめたのは、援軍が無いからですよ、私達が勝利する事にはならない」
はしゃぐ王をため息つきながらたしなめた。
結局モアは根っこの部分でこの王様を憎むことはできなかった。
オリアン国軍務大臣カロ。
モア・サルディーラの最大のライバルにして、結局その命を奪った男。
モアとは違い貧相な小男で醜かった。
清廉潔癖な人柄の持ち主である。
身内からも彼を嫌う、又は煙たがる人間は多かった。
オリアン国が援軍を得ることができなかったのは、簡単にかけばモアの謀略である。
先程話の横道にそれないと書いながら、舌の根も乾かないうちに主流からそれます。
彼の謀略を説明するのにどうしても神話より始めねばならない。
難しいと感じる方は次の章まで飛ばし読みしても。
全体の流れを掴むのに不自由は致しません。
ただ、モアの謀略があった事を記憶にとどめて下さい。
神話の前段階として、『囚人のジレンマ』というゲームの話を少し。
もともとは共犯と見られる、AとBという犯人を別々の部屋にいれて尋問を行う。
「Bに対してAはお前が主犯と認めたぞ」
「Aに対してBが裏切って自供を始めたよ」と語り。
お互いに相手の不信感を募らせて行くやり方、相手が裏切らなければ二人とも無実で助かる。
でも、警察の言う通り、相棒が本当に裏切っていたならば。
俺だけが犯人にされて一人馬鹿を見ることになる。
全てか、無か《オール・オア・ナッシング》の世界では裏切り得となる。
では、なぜ人は協カしあうのか。
思考の中から愛そして類似するものを除こう。
ここは重要なことだからモア的に思考を進めていこう。
人間では運、不運がある上に、ごくまれにポーカーの強い男がいるから、純粋にコンピューターのプログラムだけで勝負しよう。
『協調』と『裏切り』の二択だけ。
自分『協調』相手『裏切り』
自分0点、相手5点
自分『裏切り』相手『協調』
自分5点、相手0点
自分『協調』相手『協調』
自分3点、相手3点
自分『裏切り』相手『裏切り』
自分0点、相手0点
24のプログラムと対戦する。
1試合に、20回行う。
そして勝ったプログラムは『しっぺ返し』と名づけられたものだ。
最もシンプルで、最初に『協調』を出す、『裏切り』を出されたら、次は『裏切り』を出す。『協調』をだされるならば、そのまま『協調』をだし続ける。
一度裏切られても相手が『協調』をだしてきたら、『協調』をだす。
『裏切り』をだされてから『裏切り』をだす。
二回に一回『裏切り』をだす複雑なプログラムや、常に『裏切り』をだす傍若無人なプログラムは直接対決でわずかに勝利を治めても、すべてのプログラムと対決した合計で敗北することになる。
相手が常に最初から最後まで『裏切り』の場合は、5点だけあたえて損をするように錯覚するが、他のプログラムとぶつかる時、例えば同じ『しっぺ返し』(或いは類似品)とぶつかる時、彼等はお互いに60点を得る事になる。
『裏切り』のみのプログラムは『協調』のみのプログラムと当ったとき100点を得るが、世の中そんなに馬鹿はたくさんいない。
23試合終り圧倒的に優位だったのは『しっぺ返し』だった。
故に人は協力しあうのだ。
愛は後から来たものなのだ。
プログラムを『文化・宗教・憤習』と置き換えることは出来ないだろうか。
文化によって『裏切り』の点数が5点とは限らないが、異文化に対しても『協調』して戦う手段は必要だろう。
それが、『民族』なのだろう。
確かに異世界との接触があり人々はたくさん啓蒙させられた。
異文化と接触をしているのは一部の人間であり、多くの人間は経済活動を独自の文化の中で行っている。
『大人になりなさい』というような言説で、出身地域の文化を捨てさせることが、正しいことではないと思う。
その民族固有の弱点を補強するとき、過去から学ぶしかない。
新しい発想のなかには文化の連続性を危うくするものが多いし。
たった一人の人間による独善になる。
多数派の自然な感情や従来の生活を無視した結果。
人間はどうなった。
単なるナルシストなエゴイストと言うよりは、精神分裂した自己破壊(生き物のプログラムに自殺はない)の新生物(ルールを尊重しない人間)を産んだ。
現在を生きている我々一人一人が未来に対して責任を果たすときも、何を残すべきか、過去から学ぶしかない。(政治体制・家族関係だけでなく風景、伝統文化)
歴史は人間のドラマであるが、モアのドラマもまた多くの教訓を残していた。
善かれ、悪しかれ。
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