第4話 同盟破棄と善悪の彼岸

エスカチオン国が、侵略しているオリアン国は三年前まで同盟国だった。

 エスカチオン国の一方的な破棄により、蜜月は終わった。

 シャンリー三世にとって、カストーナ国とエリンバラ国の侵略が終了すれば、この同盟は必要のないものだった。

 同一言語圏の統一。

 結果論から言えば、シャンリー三世の宿命だった。

 エスカチオンが吸収した、カストーナ国、エリンバラ国、サルディーラ国、オリアン国、自由貿易都市アランは、ブルグ語族に分類される。地方独特の方言はあるが、通訳を必要としなかった。

 そこに引き換え、ノーマ帝国はノーマ語族でありシャンリー三世は通訳を必要とした。

 ノーマの語族は、歯切れがよく。「見た、来た、勝った」という言葉が残るほど完結であり。微妙な言い回しになると、古典の言葉を引用して。その背景を知る教養人の間でしか、意思疎通が完全にできない。

『YES』『NO』はあるのだから生活に不自由はしない。

 多少は大雑把になる。

 ブルグ語族は『国』を『彼女』と読んで女性形があり、かなりエロティックな言葉に感じる。複数形や独特の決まり文句や前置詞があり、多少は神経質になっている。

 繊細な助詞が多く見られる。確かに語源を見れば、レア民族の使用した言葉ルーク語族がベースになっている。

 まだこの頃は、『自然に宿る妖精』と『四季折々の精霊』と『伝統ある魂』が主流である。

 女神ソフィアを中心とする神話世界に、人々の精神は頭まで潰かってはいなかった。

 オリアン国では神官より精霊使いが格上だ。

 WORD(言語)であり、その複数形がWORLD(世界)となる。

 今日、我々が使っている言葉と違い。

『言葉』は、ある程度宗教的な様式美を含んでいた。

 別の言い方をするなら、『〒』に似た記号であり、伝達手段は後付けだった。

 哲学的な逆説をいえば、人間は言葉を持った。

 勝手に名前をつけてしまった。

 他人に(状況や感情を含めた)自分を理解させるための道具として便利だった。

 同時に共通の物体を連想させる宗教でもあった。

 精霊崇拝のブルグ語族の中に、異文化のソフィア正教がかぶさってきていた。

 ソフィアの教義の中に『神は我と供にある』心にはっきりとした隔世感をもち。

 選民思想がある。

 絶対神などは砂漠で発生する宗教だろう。

 生活環境に人間中心主義に意識を変えた。

 生、老、病、死の苦しみや痛みは、動物のような全身全霊を使った共感ではない。

 シャーマニズムは絶たれ、言葉の説明と個々の感受性によって形成される知識となった。

 モアが当時から神官達に主張した『人だけが神権を持つのか』『我々は大きな物に生かされている』『自然システムとの調和』といった主張を理解できても、霊格により順番をつけたソフィアの教義ドグマと衝突する物だった。

 モアが強く主張すれば、異端者とされ、魔女狩りの対象となる。

 彼は少年時代を神官学校で過ごしている、彼等(僧侶)が許容できる限界を知っている。

 まだ、モアが生きた時代は子宮的ヒステリックな、魔女狩りは行われていなかったが、それでも世の中に受け入れられる哲理とそうでない物があった。

 モアは静かに主張した。

 極めて上手に、細心の注意を払いながら、自らが傷つかないように。

 静かなる常識サイレント・マイノリテイがうるさい人々ノイジー・ネイションに負けるのは、今だけの話しではない。

 まあ所詮、このような小説においては、キャラクター達が生きた時代の環境論にすぎない。

 これからは話の流れを、切らないように注意したい(ただ、個人的な見解ではあるが、時代背景、自然環境、宗教哲学、政治力学の説明は必要な事だと思っている。例え小さな説でも)

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