第30話 剣聖の奴隷

 前話のあらすじ。領主をやっちゃった。


◆◆◆◆◆


「ヴィルヘルミーネだ。私よりも強い男が居ると聞いた、このひょろっとした奴のがそうなのか?」


 部屋に入り俺を睨みながら金髪美人が声を出す。少しハスキーな感じの色っぽい声だ。だが言ってる内容は、完全に俺を見下したモノ。確かにマッチョではないが、ヒョロガリなつもりも無いんだがな。


「口が過ぎるぞ。客人に対する物言いではないな」

「奴隷契約は、私よりも強い者に従うとしていたはずだ。弱者の指示など聞く必要はない」


 ジーマが取りなそうとしたが、金髪美人は態度を改めるつもりは無いらしい。まあそう言う契約なら仕方ないと思うし、そんな契約を結んだジーマの手落ちだから俺から口を出すことはない。


「まあいい。お前よりも強いことが納得できれば、お前は彼のものとなる。どうせ口で言ってもわからんだろうから、さっさと庭に出るんだ」

「ふっ、私がそんな男に負けるだと? 馬鹿にするにしてももっとまともな奴を連れてくるべきだったな。男、命が惜しければさっさと泣きつくんだな。最初は手加減してやるが、面倒になれば殺すぞ」


 金髪美人にはどうやらひどく嫌われたようだ。それでも手加減してくれるとは、悪い奴では無いのかもな。念のためと、しれっと金髪美人を鑑定する。


-+-+-+-+-+-+-+-

ヴィルヘルミーネ


職業:奴隷

LV:83

種族:人間


HP:21,200/21,150

MP:345/370


物理戦闘力:A

魔法戦闘力:E


スキル:

 剣聖(LV4)

 火魔法(LV2)

 物理耐性

-+-+-+-+-+-+-+-


 ほう、なかなかのステータスだ。以前魔の森で見た冒険者よりもはるかに高い。だがこの程度では俺の敵ではないな。あの時の冒険者の100倍以上のステータスのままでも十分だ。あれから確認はしていないが、こんな時でもないと確認はしないだろうし久しぶりに確認してみるか。


「ステータス」


 俺は誰にも聞こえないほどの小声でステータスを開いた。



-+-+-+-+-+-+-+-

ジン イズモ


職業:なし

LV:55

種族:人間


HP: 9,435,334/9,435,334

MP:9,435,334/9,435,334


物理戦闘力:SS

魔法戦闘力:SS


スキル:

 言語理解

 鑑定(LV MAX)

 収納(LV MAX)


 全魔法

 武神

 全耐性

 無詠唱

 回復量増加(LV MAX)

 獲得経験増加(LV MAX)

 複写

 絶倫 New!


称号:異世界からの召喚者

-+-+-+-+-+-+-+-



「はぁっ?!」


 こっそりステータスを開いたにもかかわらず、思わず声が漏れた。魔の森で大量に恐竜人間を狩ったのだからLVアップはまあ仕方が無いとしよう。だがHPとMP、お前ら前以上に頭がおかしいだろ。金髪美人の400倍……、かなりの腕と言われている奴の400倍って意味が分からん。戦闘力のランクの差で成長率に影響するのだろうか? たとえそうだとしても酷すぎはしないか?


 なんかスキルが増えているのはこの際無視し、唯一確認していなかった項目に気が付いた俺はそこに触れる。



 異世界からの召喚者:LVアップ時の成長率に大きく補正がかかる(これで簡単には死なないよ!)



 これだ! ただでさえSSなんてランクなのに、こいつのせいで頭のおかしな値になったんだ。確かに死ににくいが、間違っても人に見せられるステータスではないよな……。



「おい、怖気づいたのか? ヤルならさっさと来い!」


 頭を抱え込みそうになった俺に金髪美人が鬱陶しそうに声をかけてきた。金髪美人から見れば、戦いに怯えて動けないように見えたのかもしれないな。だがもはや戦いなどどうでもいい。このステータスなら、やる前から結果は見えているのだから。とはいえ、話の流れ的には断れないんだろうな……。


 とりあえずから煙草を取り出して一服する。金髪美人はそんな俺の様子を驚いた顔で見てるが、今はどうでもいい。2,3口吸うと少し落ち着いてきたようだ。


「ああ、さっさと終わらせよう」


 面倒なことはとっとと終わらせようと、咥え煙草でやる気なく返事をする。金髪美人はそんな俺の態度に思いきり睨みつけてきたが、その程度のことはどうでも良いと思えてしまう。



「では準備はいいか? ヴィルヘルミーネの主人をかけた勝負だ」


 庭と言うには広すぎる場所に着くとジーマが俺達に声をかける。そう言えば武器が無かった気がするが、まあどうでもいいか。


「こいつは何の装備もしていないが、私を舐めているのか? なんなら最初の攻撃ぐらいは譲ってやってもいいぞ」


 金髪美人は俺の姿を見て煽ってくるが、あのステータスを見た後では滑稽でしかない。俺としてはやり過ぎないようにどうするかで頭がいっぱいなのだ。



「なあ、治療薬とかはあるのか……?」

「ふっ、今から怪我の心配か? 怖いなら負けを認めろ!」


 やり過ぎた時の保険としてジーマに確認しようとするが、金髪美人は俺の言葉を遮るようにさらに煽ってきた。本人がいらなさそうだし、もうどうでもいいや。



「準備は良いぞ、さっさと始めよう」

「貴様! 私を愚弄するのもいい加減にしろ! 素手なら負けた時の言い訳が出来るとでも思ってるのか」


 俺の態度を見て金髪美人がキレた。だが俺が軽く首を振るのを見て、ジーマが開始の合図を送る。



「始めっ!」


 ジーマの声に金髪美人は反応し、俺に向かって駆け寄ってくる。きっと剣聖様の目にも止まらぬ速さってやつなんだろうが、俺から見れば欠伸の出そうなスピードでしかない。長引かせる気もないのでさっさと終わらせよう。


つぶて


 だが金髪美人は、突然目の前に現れた複数の礫にも反応した。側転の要領で横に転がるように回避した上に、追撃した礫も剣で叩き落したのだ。さすがに剣聖ともなれば、ただの礫程度では対応できるらしい。


「ふっ、この程度で私に勝てると思うな……」


 何か調子に乗って喋り出したがどうでもいい。これで終わってくれれば大怪我をさせることもなかったのにと思いつつ、次の攻撃を放つ。


つぶて穿せん


 高速回転を加えた礫が4つ。先ほどとは比較にならないほどの凶悪な貫通力を持つ。そして先ほどと同じように剣で叩き落そうとした金髪美人は、叩き落そうとした剣ごと貫かれ崩れ落ちた。



「勝負あり!」


 ジーマの声が響くが、金髪美人はピクリとも動かない。急所は避けるようにしたし、狙い違わず命中した四肢も千切れ飛んだりもしていない。ただ奇麗な孔が両の上腕と、両太ももに開いているだけである。激痛によるショックで気絶でもしたのかもしれないな。




「さっさと治療してやってくれ。大分手加減したから、治療薬だけで治るんじゃないか?」


 俺は未だ火の消えそうにない煙草の灰を落としながら、ジーマに声をかける。


「ああ治療はもう声をかけた、すぐに対応するはずだ。それにしてもこれほどあっさり片がつくとはな、予想以上の結果だ」

「剣聖と言ったところで、近寄らせなければ大した相手じゃなかったな」


 勝負も終わり金髪美人の治療の手配も済んだからか、俺とジーマは世間話程度で軽く会話を交わす。その間に駆け付けたメイド達が金髪美人に治療薬を振りかけていた。以前馬車に跳ねられた少女に使ったものよりも良いものなのだろう、軽くかけただけで孔がみるみる塞がっていく。



「くっ……、私は負けたのか……」


 治療中に気が付いたのか、金髪美人が俺の方に向かって話しかけてきた。


「ああ、近付くことすらできずに倒されたよ」


 俺に代わってジーマが答えると、金髪美人も今の自分の状態を見て納得したのか俯いて黙り込む。騒ぎ立てることもなく、納得してくれたようなのはありがたいな。



「先ほどまでの無礼な言動については、本当に申し訳ございませんでした。自分の力を過信していたのでしょう、これほどまでに力の差があることもわからなかった自分の愚かさが情けないです……」


 治療を終えた金髪美人は、俺のもとに来ると深く頭を下げてきた。先ほどまでの刺々しさは影を潜め、しおらしい姿は別人のように見える。


「それではお前の負けを認め、彼の奴隷となることを受け入れるんだな」


 そう言えばそんな話だったな、ジーマの言葉にさっきの話を思い出す。女には不自由していないし、強さも微妙。見た目もヒルダのところの女と比べても遜色は無いだろうが抜きん出ていると言うほどでもない。はっきり言えば今後面倒を見なければならない分、マイナスと思えてしまうな。


 そんな気持ちが俺の表情に出ていたのだろうか、金髪美人は縋るような目で俺を見ていた。


「是非にもご主人様と呼ばせてください! 私をここまで完膚なきまで叩きのめしてくれた方です、この命が尽きるまでおそばにいたいと思います」


 なんかとてつもなく重いことを言い出した気がするが、奴隷契約ってそういうものなのだろうか? そんな俺の思いは気にされることもなく、ジーマの手によって金髪美人は俺の奴隷となった。奴隷になったというのに嬉しそうな顔をしているこいつの頭が心配になったが、面倒なら放置しておけばいいと考えるのをやめる。



 その後もジーマと今後の事を軽く話し合ったが、後の貴族がらみの面倒ごとはジーマに丸投げで良いと言ってもらえたので、金髪美人を連れてとっとと伯爵邸を後にした。もともともの用件である俺の捕縛云々は解消された以上、長居をして余計なことに巻き込まれたくもないからな。




 まあ色々あったがとりあえず俺を捕まえるってのも何とかなったようだし、一件落着ってとこか? 大量の魔物の死体がにはいってるが、腐ることもないから急ぎじゃない。ギルドもこれ以上何かあれば関係を切ればいいだけ……。



 うん、何も問題ないな。また娼館でのんびりするか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

酒と女と異世界で 乙三 @Z_3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ