第25話 ギルドぐるみの犯罪?
前話のあらすじ。仁、感謝される。
◆◆◆◆◆
さすがに3度目ともなれば俺に絡んでくる馬鹿もいないようだ。というわけで俺は無事にギルドの受付に到着することが出来た。だが目の前の女はこの間の奴だ、買取を踏み倒して俺を追い返した女。相変わらず俺を親の敵とでもいうような目で睨みつけている。
残念ながら他の受付は大行列、なぜかこの女のところだけ空いているのだ。冒険者にも嫌がられる無能か、他に何か理由でもあるのだろうか? まあ俺には関係ないな、とっとと報酬をもらってこんな臭い場所からは逃げ出すに限る。
「依頼を達成した。報酬を渡せ」
俺は魔物の討伐記録が残るとされる冒険者証を女に突き出して、依頼の清算を要求する。この女は気に入らないが、単なる仕事と割り切って我慢する。
「ふん、どうせインチキかイカサマでもしたんでしょ。あんたに払う報酬なんてないわよ」
だが女は俺の予想の遥か上を行く対応を取った。ギルドのトップが頭を下げてきて頼んだ依頼を、まさかただの受付が支払いを拒否するとはさすがに思ってもいなかった。
これ以上こいつと会話を続けたら、間違いなく殺してしまう。俺は女の手から登録証を奪い取ると、受付を離れて以前魔物の買取りを担当したおっさんのところに足を向ける。
「おっさん。ここのギルドに言葉の通じる受付は存在しないのか?」
相変わらず暇そうにしているおっさんは俺の言葉に驚いた顔をする。
「何言ってるんだ? うちの受付は優秀な奴ばかりだ、言葉なんぞ通じて当然だぞ」
まあ普通ならそう返すよな。しかし実際まともに会話のできない女がが存在するのだ。おっさんにさっきのやり取りをそのまま伝えると、おっさんは女のところに慌てて駆け寄る。
間に入るつもりもないし、女がどうなろうと俺の知ったことでは無い。様子を見る限りでは女はおっさんに怒鳴りつけられているようだが、自業自得以外の何もでもないからな。結局女は受付を離れ奥に行かされたようだ。そしておっさんは俺と目が合うと受付で俺を手招きする。
「なんだ? おっさんが担当でもしてくれるのか?」
「すまなかった。まさかあそこまで馬鹿な奴とは思わなかったんだ。あいつはギルマスの姪でな、いわゆるコネでギルドに潜り込んできた奴なんだ。これまでも散々怒鳴られていたんだが、またやらかすとはな……」
どうやらあの女はいわくつきの奴だったようだ。どおりであの女のところだけ列がすいているわけだ。
「それで依頼の報酬はもらえると思っていいんだよな?」
女のことなどどうでもいいと、俺は再び登録証を取り出す。
「もちろんだ、ちょっと確認するから預かるぞ」
おっさんは俺の登録証を持って奥にすすんでいく。しかししばらくして戻ってきた時、俺に依頼をするために土下座した男も一緒だった。
「おい、この討伐数はホントなんだろうな!?」
ギルドの登録証に魔物の討伐数を記録する仕組みのはずなのだが、なんで俺が不正をしたことになってるんだ? 誤魔化しの効く仕組みとしたら、ギルドのミスだろうと思うんだが。
「俺を疑ってるってことであってるか? 嫌がる俺に無理やり頼み込んできたのはお前というのは忘れてないだろうな。それで依頼を受けてやって達成したら疑うって、俺を舐めてるのか? そもそも以前の買取りも期限切れとか言う、何の説明もない理由で受け取っていないんだ。これ以上ふざけたこと言うつもりなら考えがあるぞ」
「ちょっと待て!、以前の買取りって大量の魔物を持ち込んでくれた時のことか? あれなら既に支払い手続きも終わって、支払うだけの状態になっているはずだぞ」
俺が土下座男に文句を言う横からおっさんが口を挟む。だがその内容は見逃せるものでは無かった。
「つまり、俺に支払う金をギルドが着服したって事か? ギルドってのは冒険者を騙す詐欺組織てことか?」
「そんなわけあるか! だが今回の件は色々と不審な点がある。副ギルドマスターとしてこの件は責任を持って調査する。もちろん今回の報酬は支払うし、以前の買取り分も色を付けて支払うことをここに約束する」
おっさんは詐欺組織という言葉にえらく反応したようだ。真っ赤な顔で怒りつつも、俺に頭を下げてくるところを見るとこのおっさんは悪い奴では無さそうだ。だがその横で俺を睨みつけている土下座男ことギルドマスターは納得いかない顔をしている。
「おい、こんな奴の話を信用するつもりか? そもそも今回の依頼の討伐数がおかし過ぎるだろう? 誤魔化した以外にどう納得いく理由があるんだ。それに先の買取りはこいつの勘違いの可能性もある。わざわざ調査の必要はない!」
こいつの頭の中はどうなってるんだ? 俺なら魔の森で間引きが出来ると思って依頼したんじゃないのか? それで間引いてやればごまかしなんて言いがかりをつけてくるとは、よほど俺を敵に回したいのかもしれないな。
「で、どっちなんだ? 支払うのか支払わないのか。支払わないなら今回の件はあちこちに触れて回ってやるよ、依頼を達成しても誤魔化したと難癖をつけて報酬を払わないギルドだってな」
「貴様! 誤魔化した上に脅迫とは、誰に口をきいているのかわかってるんだろうな!」
「ああ、こないだ俺に依頼を頼むために街中で土下座して来たあんたにだよ」
「くっ、貴様……」
どうやらようやく先日の一件を思い出したのだろうか? まだ数日しか経っていないのに、どれだけ鳥頭なんだこの男は。
「アルマンド、いったいどうしたんだ。いつものお前らしくないぞ。登録証の記録の仕組みをごまかすのは不可能、これはギルドに勤めるものなら常識のはずだ。しかも頭を下げてまで頼んだ依頼の報酬を踏み倒すなんて、ギルドとしてどころか人として許される行為じゃないだろう」
ド正論でギルマスに詰め寄るおっさん。副マスターの方がよほど常識があるみたいだな。
「ひょっとしてさっきの女、こいつの姪だっけか? それが絡んでるんじゃないか? 俺の買取金を着服したのもそいつの可能性が高いし、今回の件ももめたのが記録に残ればあの女の責が問われるって事は無いのか?」
俺の言葉に顔色を変えるギルマス。大正解を引き当てたようだな。
「つまりアルマンド、お前は自分の姪のやらかしたことを隠蔽するために、こいつに不利益を全て押しつけてやり過ごそうとしているって事か? 馬鹿野郎っ! それがギルドマスターのする事かっ! あの女は衛兵に突き出すぞ、ギルド内での不正と詐欺行為に、冒険者の受け取る金の横領。この期に及んで、これだけの罪をかばうつもりじゃないだろうな!」
さらにギルマスに追い打ちをかけるおっさん。言っていることは相変わらずド正論、これはちょっとかっこいいよな。そしてそれと対照的に小さくなるギルマス、その姿がすべて真実であると物語っているようだ。
「なあ、そっちのごたごたは後にしてくれるか? 俺はいつまで待たされるんだ」
「ああ、色々すまない。報酬は…1体あたり大銀貨5枚、ということは1000体の上限まで討伐しているってことでと、金貨500枚か…とんでもない金額だな。まさかアルマンド、この額を支払いたくないから、言いがかりをつけてたって事は無いよな。どちらにしても今回の件は本部に報告する、一応覚悟はしておくんだな」
そう言うとおっさんは、また奥に入っていく。金庫にでも向かっているのだろうか? そして残されたのは俺とギルマス。ギルマスはひどく気まずい様子で俺をチラチラとみてくる。こんなおっさんのチラ見なんて誰得なんだ?
「うっとしい。言いたいことがあるならはっきり言え」
「すまなかった、マノン可愛さに目が曇っていたようだ。ライアンの言う通りだが、全ての責は俺にある。マノンが増長したのは俺が甘やかしたせいだから、マノンの罪は見逃してやってくれないか」
ようやくギルマスは少しはまともな状態に戻ったようだ。だが姪が可愛いとかは俺にしたらどうでもいい理由だ。それよりも言いがかりをつけてきたことと、金を着服したことが問題なのだから。それに姪を見逃すとか俺にはどうでもいい、二度と俺の前に顔を出さなければだがな。
「それで? まさかそれで俺が全て水に流すなんて思ってないよな? 謝れば許されるのは神様相手だけだぞ」
「あ、ああ。もちろん買取の金は支払う…」
「待たせたな!」
ギルマスが俺に対する誠意について語ろうとしていた時におっさんが戻ってきて声を掛けてきた。ギルマスの誠意よりもはるかに高額だろう報酬の方が俺にとっても重要だし、先にこっちの話を済ませるとしようか。
「ああ……金貨500枚、確かに受け取った」
おっさんがカウンターに置いた金貨の入った5つの革袋を【収納】に放り込む。そうすれば金貨を数える必要なく枚数は確認できるからな。そして500枚あることを確認しておっさんに返事をする。おっさんは突然消えた金貨の袋に驚いていたが、俺がその手のアイテムかスキルかを持っていたことを思い出したのか何も言わなかった。
「ああ、あとはこないだの買取金なんだがな…。もうしわけないがその報酬で金庫が空になっちまってな。少し時間を貰えないか?」
こないだのクスリの件の影響でギルドが金欠とは聞いていたが、それにとどめを刺してしまったようだな。まあ急ぎで必要というわけでもないし、このおっさんなら信用してもいいだろう。
「ああ、期限切れとか言い出さないなら待つのは構わない。これだけあればしばらく金に困ることもないだろうしな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。討伐した魔物はどうした? ギルドですべて買い取るぞ」
ギルマスが終わりかけた会話に割り込んでくる。さっきの詫びの件も有耶無耶なままな上に、再び俺から買い取る話を振るとはどういう神経をしてるんだこいつは。
「なあ、今の話を聞いてたろ? 買取金を支払えないっていってるのに、どうやって買い取るつもりだ?」
「そ、それは少し待ってもらえれば必ず支払う。だから魔物を買い取らせてくれ!」
やはりジスラン達と話していた通り、ギルマスは俺の狩ってきた魔物の素材を当てにしていたようだな。高価な魔物の素材があればそれの転売だけでも相当額を稼ぐことが出来るはず、その額から俺の報酬を支払うつもりだったのはこれで確定とみていいだろう。
「断る。まだ前回の金を受け取ってもいないのに次の話が出来るはずがないだろ。そもそもお前が姪を甘やかしていたのが全ての原因だろうが。俺にものを頼むならこれまでの全てを清算してからにしてくれ。まあ俺が受けるかどうかは当然別の話だがな」
俺の言葉に対してギルマスは何も言い返せなかった。さすがに今の状況を考える頭はあるのだろう。姪のあの女さえ絡まなければひょっとするとまともなのかもしれないな。
「まあ、これまでの経緯もあるしギルドはお願いする立場なのは間違いない。気が向いたらでいい、今回の魔物をいくらかでも買い取らせてもらえると助かる。支払いは大分先になるだろうし、よそで売れ残ったものだけでも構わないから頭の隅でいいから覚えておいてもらえると助かる」
黙り込んだギルマスの代わりに、おっさんが最後を締めてくれた。最初からこのおっさんが対応してくれていたらギルドとの関係もまた違ったものになったのかもしれないが、タラレバを語っても意味は無い。
だがそんなことを考えていると、このおっさんの顔を立てていくらか売ってやろうかという気にもなる。なんせ1000体を超える魔物が【収納】に入っているのだからな。
「おっさんには今回色々世話になったし少しなら売ってやってもいいぞ。奥で見つけた恐竜人間とかもあるしな」
何の気なしに言った俺の言葉に、目の前のふたりのおっさん達が食いつく。
「「恐竜人間だと! まさか、竜種を狩ってきたのか!」」
見事にハモったのを見て、ギルマスと副マスターってのは仲がいいのかもしれないと思ったのは内緒だ。
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