第13話 騎士団との揉め事

 前話のあらすじ。煙草でばれる。


◆◆◆◆◆


「そこの男! そこを動くな!」


 衛兵らしき男たちが明らかに俺に向かって声を掛けてくる。それは明らかに犯罪者に向けた声色だった。


 煙草を咥えて紫煙をたゆらせる俺の姿は、遠目からでも酷く目立ったようだ。何とも言えない表情でジスランたちは俺を見つめてくる。まあ自業自得なんだが、こんな形で足が付くとは全く気が付いていなかったのは俺のミスだろうな。



「ジン、どうする? 逃げるなら足止めぐらいはするぞ」


 グスタフは俺の味方になってくれるようで、そんな言葉をかけてくれる。だが3人を巻き込めば話はさらにややこしくなるのは間違いない。



「なあ、衛兵って倒したらまずいか?」


 とりあえず一番簡単な選択肢の確認だな、もちろんこちらの世界で言う警察官に手を上げて無事とは思ってはいないが念のためだ。



「それはだめよ。衛兵に手を出せば領主に歯向かったものとして扱われちゃうんだから。最悪国を挙げて追いかけられることになるわよ」


 想像通り最悪の選択だったようで、セリアは眉を顰めて俺に教えてくれる。と、なるとだ。逃げるか国を相手にする覚悟を決めるかの二択。捕まってやったとしても、無事に解放されることなど無いだろうからな。


 逃げるのは性に合わないし、ビクビクして暮らすなどせっかく異世界に来た意味がない。相手の手の内を調べるのなら懐に入ったほうが簡単だろうし、ここはおとなしく捕まってみるか。もちろんやられたらやり返すがな。



「ちょっと衛兵さんと話し合ってくるかな。逃げるのも面倒だし」


 俺がそう告げると3人は複雑な顔で頷く。やはり逃げるという選択は罪を認めたものとみなされることになるだろうからお勧めでは無かったのだろう。それでも罪状もわからないまま俺が衛兵に連れていかれるのは気に入らないというところだろうか。



「何か俺たちにできることはあるか? ジンには命を救われているからな、出来る限り協力するぞ」


 どうやら最初の出会いを恩に来てくれているらしいが、この状況で頼めることなどほとんどない。ヒルダのところに伝言を頼むぐらいか? そうそう、魔物の買取りの受け取りが遅れるかもしれないってのもいるか。


 思いついたことだけ3人に頼むと、俺は衛兵に向かって歩き出した。





「騎士団団長の命令だ! 貴様を捕縛する!」


 どうやら俺を捕まえようとしていたのは騎士団だったようだ。確か騎士団の入れ替わりがあったと聞いた気がするが新しい騎士団の団長は仕事熱心なようだな。



「命令は捕縛なのか? 俺が何をしたって言うんだ?」


 まずは下っ端にどれだけの情報が行き届いているかの確認だな。俺が抵抗する様子を見せなかったことで安心したのか衛兵たちの口は軽かった。こいつらの話から、受けた指示は俺を連れて来いというものだったようで捕縛ではないらしい。それって招待じゃないのかと俺が尋ねた時に目を逸らしたので、大きくは間違っていないだろう。


 どうやらアデーレの件の罪を問おうとするのではないように感じる。それでも俺に何の用があるのかまでは今のところ不明だ。



 素直について行くことを伝えると衛兵たちは捕縛するようなこともなく、仲良く詰め所らしいところに連れていかれるようだ。俺のことを心配そうに見ていたジスラン達3人に軽く手を振って俺はギルドを後にした。





◆◆◆◆◆




 詰め所に着いても腰を落ち着ける間もなく、そのまま馬車に連れ込まれる。どうやら騎士団の馬車のようで派手な紋章が飾られたものだった。乗り心地はまあ一言で言えば最悪だ、そもそも人を乗せるようなものではなく糧食用の荷馬車に乗せられているのだから。


 幌はあるから丸見えではないが、招待客を乗せるのには明らかに向いていないと思う。そして、こんな扱いなら俺も相手に対する敬意など全く不要だと割り切る。おそらく俺が平民だと舐めているんだろうな、まあそのあたりの考えはおいおい矯正してやるとするか。



 そんな嫌な気分のまま到着したのは、街の北部の貴族街の奥。途中から豪華な屋敷が見え始めたので想定はしていたが、騎士団の宿舎があると聞いていたあたりなのだろう。




「降りろ!」


 馬車が止まるなり頭ごなしに怒鳴りつけられる。はっきり言って気分は最悪だ、ただでさえ乗り心地の悪い荷馬車であった上に到着するなりこの扱いなのだから。素直に応じたことを少し失敗したかと反省しつつ無言で声をかけた騎士らしい男について行く。


 連れていかれる先はどうやらかなりの役職のところらしい。明らかに装飾の異なる立派な建物に連れていかれる。だがここでも俺の扱いには変わりはないようだ、奥の部屋の扉が開かれると背中を突き飛ばされて中に放り込まれた。




 部屋は派手ではないが高価なものであろうと思われる装飾に彩られている。この部屋の持ち主であろう目の前の女の趣味なのだろうか? 大きな執務机に腰かけたままの女が俺を値踏みするような目で眺めてくる。こいつらは人を何だと思ってるんだろうな、強引に呼びつけてこの扱い、そして明らかに見下すような目つき。平民などは人とすら思っていないのではないかと思える。



「お前が例の煙の出る男か? カスパール商会から盗みを働いたということで間違いないな」


 自己紹介もなく不躾な質問を投げる女、こちらを人扱いしないのなら俺もそれ相応の対応を取っても仕方がないよな。俺もそろそろ我慢の限界だしな。



「お前こそ誰だ? 人を荷物扱いして呼びつけて詫びのひとつもないし、挨拶もできないのか?」


 女を睨みつけると、まるで反論されるなど想定していなかったのだろう驚いた顔を浮かべる。こいつらにとって平民などその程度の扱い何だろうと確信が深まる。



「無礼な! 誰が話しかけて良いと許可を出した! この平民が」


 俺の背後に居た騎士がそう言って怒鳴りながら俺を殴りつけようと動く。もちろん大人しく殴られるなどあり得ない。軽く躱して足を引っかけてやると、見事に転がって執務机にぶつかる無様な騎士に思わず笑ってしまう。



「貴様! 歯向かうつもりか!」


 どうやら俺の行動が気に食わなかったのだろう。他にも3人いた騎士が剣を抜いて俺に向けてくる。たかが平民に向けて騎士が剣を向けるなど、恥ずかしくないのだろうか? まあもちろん俺に敵対した以上は殺すがな。



つぶて


 殺意の有無などどうでもいい、剣を向けたという以上は殺すつもりと捉えられても仕方がないのだから。そして殺す気である以上殺される覚悟を持つのも当然だろう。騎士たちは覚悟を決める間もなく額に穴を開けて崩れ落ちたんだがな。


 部下が全員いきなり殺されたのを見て目の前の女が顔色を変えた。まあこうなるのを予想しろというのも酷だろうし、仕方がないのかな。


 これで部屋の中には目も前の女と俺だけ。4人が一瞬で死んだのを見た以上、俺に対する対応も変わることを祈る。



「それで、俺の質問に答える気はないのか? 用がないなら帰らせてもらうぞ」


 目の前の女に向けてもう一度問いかけてやる。そしてようやく今の状況に理解が追い付いたのか俺に詰め寄ってきた。



「貴様、私の大切な部下に何てことを。たかが平民風情が許さぬぞ!」


「俺に剣を向けておいて反撃されたら怒るのか? そもそも平民風情に殺された程度の部下が情けないんじゃないのか?」


 俺が言い返してくるとは思わなかったのだろうが、女は顔を真っ赤にして俺に怒鳴りつけてくる。だが平民を馬鹿にするなら、その平民にやられたお前の部下はどうなんだという事だ。そもそも俺のは正当防衛だろ?



「くっ! 騎士団に歯向かって生きて帰れると思っているのか。ここは騎士団の宿舎、数千の騎士がいるのだぞ」


「それが何か問題でもあるのか? それに何で大人しく殺されると思うんだ。やられたらやり返すし、殺す気なら殺される覚悟を持つのは当たり前だろうが」


 未だに自分が優位だと思い込む女に、暗に攻撃するなら皆殺しにすることを伝えてやる。だがこれまでの態度を考えると、ひょっとしたら騎士団とは無抵抗な平民を切り殺すだけの無能集団なのか? そういう事なら女の態度も説明はつく、納得はいかないがな。



「愚かな。いくら魔法が使えようとも勝負は数だ、たかがひとりで何ができるというのだ」


「そう思うならやってみればいい。こいつらを見た感じ、無抵抗の相手にしか戦った事が無いんじゃないか?」


 女は引くつもりもないし、頭を下げることなど想像すらしていないようだ。あくまでも俺を力でねじ伏せようと考えている。だがこの程度の相手なら、まだ東の森の魔物の方がましだろう。つまりどれだけ数をそろえても俺の相手になるわけがないということだ。



「その生意気な口がいつまで聞いていられるかな? 我が騎士団の力思い知るがいい! 相手をしてやるからついてこい!」


「はあ、お前馬鹿だろ? ここでお前を殺せば話は終わるだろうが」


 こいつは馬鹿か? 何で自分がここで殺されないと思ってるんだ? それに何で敵の有利な場所に俺が行くと思えるんだろうか? 突っ込みどころが多すぎて思わずため息が漏れる。



「なんだ、えらそうな口をきいておいて結局我が騎士団が怖いのか? それならそこにひざまずけ! 私の駒となって必死に働くと言うなら命は助けてやらんでもないぞ」


「もういい。お前とは話がかみ合わないし、これ以上は時間の無駄だ。つぶて


 こいつの思考回路は俺のものとは完全に別ものなんだろうな。全くこいつの言っていることが理解できない。これ以上の会話は無駄と思いつぶてで女の四肢をぶち抜く。騎士団のトップらしいし殺すと後々面倒だと思ったのと、殺すのならいつでもできるからな。



「きゃぁっ!」


 ようやく女らしい声で悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる女。四肢に穴が穿たれたのだから仕方がないだろう。これで己の立場を理解してくれたらいいんだがな。



「き、貴様! 私にこのようなことをしてタダで済むと思ってはいまいな!」


 ダメだ…、ここまでしても理解できないらしい。これ以上会話するのも苦痛になってきた。俺はさっきの騎士が持っていた剣を拾うと、床に転がる女の首に切っ先を添える。



「お前の相手にも飽きたしこれで帰らせてもらう。最後に言い残すことはあるか?」


 女の首から一筋の血が流れ落ちる。そしてそれが床に広がっていくのを見てようやく女は自分の状況が理解できたようだ。完全に下に見ていた平民に殺されるという状況にだ。



「ま、待って! 私を殺すつもりなの? ただの平民が貴族の私を殺すというの?」


 だが女の口から出たのは命乞いではなく、平民が逆らうはずもないという思い込みでしかなかった。



「なんで殺されないと思える? 平民だろうと貴族だろうと首を刎ねれば死ぬのは一緒だろ?」


「ば、馬鹿な、平民が貴族を殺すなどあってはならない」


 どうもこいつの頭はカチカチに凝り固まっているらしい。この状況ですら自分が殺されるのは間違いだと思っているのだろうか?



「そうだな、二度と俺を探そうとするな、そして俺に関わろうともするな。そしたら今回だけは見逃してやる」


「平民が貴族の私に命令だと?」


 俺の言葉が伝わっているのだろうか? 女は俺の言葉が理解できないようで固まっている。




「これが最後だ、俺の言うことを聞くなら頷け。いやなら首を振ればすぐに叩き落としてやるよ」


 女の首に添えた剣に力を込めてやる。後はこいつの態度しだいだ。




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 読んでいただきありがとうございます。続きも読んでいただけるよう神頼みしておきます。

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