第6話 ビールは冷えている方が美味い
前話のあらすじ。仁、LVが上がる。
◆◆◆◆◆
ひとまずLVの話は置いておこう。人外とか化け物とかって言葉が浮かぶが、きっと気のせい気のせい…。
なんかテンションが下がってきたので、森から出ることに決めた。これ以上LVを上げたくないとかじゃないんだからねっ! って俺は誰に言ってるんだ?
目の前で繰り広げられる戦いは、終わる様子もないので気にせず引き返す。然程奥までは進んでいないこともあり、特に迷うようなこともなく森を抜けることが出来た。途中魔物にあったのは仕方がないので瞬殺したが、ステータスは確認していない。確認するのが面倒なだけだからな、それ以外に深い意味は無いぞ。
東の森を出たときはすでに陽が傾きだしていた。
特にすることも思いつかないので、とりあえずアデーレの商会に戻ることにする。無事であることは伝えておく必要もあるしな。それにこの街のことを知らないのでどこに行けばいいかもわからない。
街の門をくぐり、うろ覚えだが馬車で通った道を逆にたどっていく。馬車に乗っていた時は気にならなかったが、所々屋台が出ており良い匂いがする。礼金はそのまま残っているが、さすがに屋台で金貨は不味いというぐらいは分かる。少し金をくずしておかないと何かと不便だと、適当に店をぶらぶらと眺めてまわることにした。
アデーレの店の辺りは商店が立ち並ぶ商店街的なものだったが、この辺りは飯屋や酒場の並ぶ飲食店街とでも言えばいいのだろうか。少し道を外れるといかにもといった怪しげな店もあったり、歓楽街的なものがあったりと見ているだけで楽しくなってくる。
そういえば転生のきっかけも飲み屋だったよな。まさかあの時はこんなことになるなんて想像すらしてなかった。俺にスマホを見せてくれた店の子はどうしてるだろうか? それに俺は金も払わず消えている、次に行く機会があれば払っとかないとな。などと今更な事を考えながら歩いていると、かなり立派なつくりの店が目に留まった。
この世界でのキャバクラ的な飲み屋だろうか? 俺は煙草に火をつけて、ぼんやりとその外観を眺める。
店の前の大きな窓から着飾った女たちの姿が見える。外には黒服っぽい男たち、看板には酒のようなマークが書いてある。
腹もそれなりには減ってるが、異世界初飲み屋としゃれこもうか。俺は思い立つと表に立っている黒服に話しかける。
「ここは酒が飲めるのか?」
声をかけた俺をいぶかし気に眺める男。俺も見られて自分の格好に気が付いた。装備を身にまとっているのを忘れていたのだ、さすがにこの格好で入るのは憚られる。
「悪いな、自分の格好のことを忘れてた。この辺に服屋はあるか? 着替えてから出直すよ」
俺の言葉に男は安心したようで、丁寧に服屋の場所を教えてくれた。ついでに酒は飲めるとのことだった。まあ、この格好では美人もドン引きするだろうし、服の替えは必要だから俺は教えられた通りに服屋に向かう。
まあ男の服の買いもんなんて即決だ。服屋について適当に見繕ってもらうと奥で着替えさせてもらって終了だ。ついでに替えの服や、すっぽり隠れそうなローブも買っておく。何があるかわからないので買えるときに買っておくのだ。着ていた装備類はすべて収納に収めた。しかし思ったよりも服が高かった全身揃えたら大銀貨2枚ほど消えてしまった、つまり20万程度ってとこか。まあ、元々があぶく銭だしアデーレの件を解決すればたっぷり報酬が入る予定だから気にはしない。
咥え煙草で、改めてさっきの店に戻ると、表に居た男は俺のことを覚えていたようで俺の所に近づいてくる。
「見違えましたね。さすがにさっきの格好では女の子たちが怯えるので、申し訳ありませんでした」
どうやら教育も行き届いていそうな感じだ。さすがにこれだけ立派な造りでぼったくりな店という事は無いだろうが、適当な扱いをされると楽しく飲めないからな。
俺は男に案内されながら、大体の予算感やおすすめの酒やあてなどを聞いていた。店に入ると10人ほどの美人が整列して出迎えてくれた。これは気分が良いな。俺が初めてだと告げると、中でもひときわ奇麗な長い黒髪の女が俺の手を取り入り口横の別室に連れて行ってくれる。そこでシステム説明でもあるのだろう。
別室は4畳半ほどの広さの小部屋でソファとテーブルでほぼいっぱいだった。俺がソファに座るとその真横に黒髪の女も座る。そしてすぐに小ぶりなグラスに入った酒が運ばれてくる。
「本日はようこそおいでくださいましたわ。私はこの店のオーナーのヒルデガルド、ヒルダとお呼びくださいね」
軽く乾杯した後、黒髪の美女ヒルダが挨拶してくる。俺も名を告げ説明を受けた。
「つまりここは飲み屋もやってるが基本は娼館という事か。まあ俺は飲めればどちらでもいい」
「それではジン様こちらに、気にいった娘が居れば声をかけていただければ別室にご案内いたしますから」
そうして俺はヒルダに腕を取られ、店内のテーブルに案内された。
「それではいかがいたしましょうか? 本日はお酒を召し上がるということであれば、適当に女の子を付けさせていただきますが」
「ああ、それでいい」
「気に入った娘が居れば、そのままご指名いただければお付けする事も可能です。あと、女の子にも飲ませて頂ければ喜びますわ」
「ああ、わかった。じゃあ最初はヒルダに付き合ってもらえるかな?」
そうして俺は真横に密着するように座るヒルダに注文を頼む。やはり最初はビールが良い、後はつまみが適当にとヒルダに任せることにした。
ヒルダは流石オーナーと言うべきなのだろうか、そつのない接客で退屈させない。
そして注文の品が届くと、ヒルダとふたりビールで乾杯する。
「ん? ちょっとぬるいな」
「あら、ジン様はエールを冷やしてお飲みになるの?」
どうも文化の違いか、ビールは常温で飲むものらしい…。だが俺はキンキンに冷えたのが好みであるし、そこは譲れない。
「
物は試しと、ビールに向かい強烈に冷たいイメージで魔法を発動してみる。すると俺とヒルダのグラスに一瞬で霜が降りる。
「きゃっ!」
その様子を見たヒルダが可愛らしい悲鳴を上げるが、その様を俺が楽しそうに見ているのに気付くと頬を膨らませる。うん、美人はどんな顔でもよいもんだな。
「悪い驚かせたな。ちょっと冷やしてみただけだから心配ない」
とりあえず俺がやった事を伝え安心させると、俺は冷えたグラスを取り試しに飲んでみる。
「ぷっはぁ~、やっぱりビールはこうじゃないとなぁ」
理想の冷え具合、俺の好みの凍る直前程度まで冷えたビールに満足する。その様子を見ていたヒルダもグラスを手に取り口を付ける。
「えっ、なんでこんなに冷えてるの? でもちょっといいかも、これ」
いきなり冷えたビールに驚き、少し素が見えるが気に入ってくれたようだ。
「だろ? やっぱビールは冷やした方が美味いと思うな」
「でも、一体どうして? ジン様がやったのよね?」
「まあ、ちょっと魔法でな」
「えっ、ジン様は魔法使いなの?」
「まあ、たしなむ程度かな? そのあたりはおいおいだな。」
「ふふ、そうね楽しみにしてるわ」
俺の使った魔法に驚いたことで少し素の表情が見えたヒルダは、さっきよりも少し砕けてきたようだ。話しやすくなったのはこっちとしても大歓迎だ。
そしてヒルダに一言断って煙草に火をつける。この世界には煙草がないらしいので当然灰皿は無い。収納を使って目立ちたくはないので適当な小皿を用意してもらい灰皿代わりにする。ヒルダは見たことのない煙草に驚くが詮索はしてこなかった。この辺りの機微がわかる相手だと非常に居心地が良いな。そうやってしばらくヒルダとまったり過ごしていた。
ふと、近づく足音がしたのでそちらに顔を向ける。
「あのぉオーナー? 私たちもお呼ばれさせて頂けないか聞いていただけませんか?」
そう言って2人の女の子がこちらにやってきた。
「ああ、この子達を紹介しますね。
右がイルザ、この店のナンバーワンですのよ。
左がエルマ、一番お喋りな子かしら」
やってきた女の子をヒルダが軽く紹介すると、挨拶するように促す。
「イルザと申します、よろしければご一緒させていただけませんか?」
見事なブロンドに抜群のスタイルの美女、イルザと呼ばれた子が妖艶な笑みを浮かべている。
「エルマです、オーナーったら一番お喋りだなんてひどい紹介ですよね、私も一緒にお話しさせてもらえませんか」
エルマと呼ばれた子はヒルダの言う通り話好きな雰囲気の明るい子だ。
少し小柄だが出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる、印象は元気な女の子という感じだな。
「ああ構わんよ、奇麗どころがそろった方が華やかで楽しいからな」
「まあ、長い間おばちゃんが相手で申し訳ないですわ」
と笑いながらヒルダが茶々を入れるので、ヒルダの肩を抱き寄せてやる。
新たに来た3人はきゃぁきゃぁ言いながら俺たちを囲むように座り、少し赤くなったヒルダをひやかしていた。
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読んでいただきありがとうございます。続きも読んでいただけるよう神頼みしておきます。
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