第2話
『川崎』という表札のかかった家は、開発が進むニュータウンの郊外にひっそりと建っていた。
「お邪魔します」
頭を下げてから敷地をぐるっと一周してみる。
裏手のところに家庭菜園があり、蛇口から水が垂れていたので、きちんと閉めておいた。
2階のカーテンが揺れている。
その奥には微弱だが生命エネルギーも感じられた。
数は1つ。
両親は外出中らしい。
大きくジャンプした俺は、2階の窓枠に片足をかけて、中の様子をうかがってみる。
ベッドのところに少女を見つけた。
枕元には薬の袋とスポーツドリンク、そしてキャラクター物のタオルが折りたたまれており、右手のスマホが点滅していた。
間違いない。
川崎アイミだ。
生命エネルギーは弱々しく、いつ消えてもおかしくない
17歳の部屋にしては物が少ない。
いつ死んでもいいよう、本人が片付けたのだろう。
壁の時計は10時8分。
もっとも美しい針の位置だ。
どういうわけか、俺には時間に対して異様なまでの執着があり、死ぬ前は駅員だったのでは? と疑っている。
やるか。
アイミが目を覚ます前に。
右手で空気をかき回した。
光の粒が集まってきて、
鎌を使えるようになって一人前といわれる、俺たちのシンボルだ。
魂をはがす。
アイミの体から。
ささやかな祈りを込めた俺の一撃は、どういうわけか、アイミの心臓を大きく外してしまった。
こいつ⁉︎
寝返りを打ちやがった⁉︎
タヌキ寝入りか。
いや、死神は目視できないはず。
それよりも時間だ。
もうすぐ10時8分が終わってしまう。
ダメだ! 10時9分は! 美しくないから!
より正確を期したはずの一撃が、ふたたび寝返りにより避けられた瞬間、俺のうろたえはピークに達した。
明らかにおかしい。
神の意志のようなものが働いているとしか思えない。
俺は肩で息をする。
死神鎌を出していると、霊子エネルギーの消耗が激しいのだ。
振れるのは、おそらく残り1回。
ミッション失敗の文字が頭をよぎり、悔しさのあまり歯ぎしりする。
落ち着け。
当てよう、当てよう、とするから外すのだ。
お
アイミの生命エネルギーは残りわずか。
勢いよく振り下ろす必要なんて
確実性を重んじたはずの俺の攻撃は、うわっ! 変な夢見た! というアイミの叫びにより、見事に空振りしてしまった。
「くそっ!……バカな!」
問題なのはアイミが目覚めたことじゃない。
2つの瞳が俺を認識してロックオンしていること。
映っている。
彼女の目には。
この世ならざるものが、はっきりと。
アイミは口をパクパクさせた。
震える指先を俺に突きつけながら、もう一方の手で乱れたパジャマの胸元を直す。
てっきり、泥棒〜! とか、変態〜! という言葉が出てくると思いきや、そうじゃなかった。
赤ちゃんのように目をキラキラさせて、
「メッチャタイプです! 私とお付き合いしてください!」
と迫ってきたのだ。
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