第6話 怪盗レティア2
「お帰りなさいませ、マスター」
「ただいま。ヒカリ。あれ、ミコトは?」
「ミコトさんでしたら……」
少し浮かない顔しながらも、ある場所へ視線を移すヒカリ。その先には。
「今飲んでるのってお酒じゃないよな?」
「はい、百パーセントジュースです。しかし」
見る限り、ミコトはまるでお酒を飲んで酔っているかのようだった。
「えっと、ミコト?」
「ちょっと遅かったじゃないのよ〜」
「だ、大事な話をしてたからね」
「大事な話。……それって私たちと一緒にいる時間より大事なわけ?」
「そ、それは」
「やっぱり胸が大きい女の方がいいの?」
そう言って自分の胸に視線を移すミコト。
「いや、そういう事じゃないんだけど」
「なら、私たちの事を見てなさいよ」
ミコトはそっと俺の胸元に向かってきた。
「すう、すう」
「この後に発表会があるってのに」
俺は眠ったミコトを抱え、ヒカリの元へ向かった。
「ミコトさんは大丈夫でしたか?」
「ああ。ただ見ての通り眠っちゃって」
「そうですか。では私が見ておきます。マスターは峰垣様の発表をご覧になっててください」
「いいのか?」
「はい、それとしっかりご依頼をこなしてくださいね」
「ああ」
それから15分後に舞台の準備が整いフロアは一気に暗くなった。
暗くなったフロアをライトが前に立っている峰垣さんを照らし始めた。
「皆様、今日は我が社の新製品発表会にお集まり頂きありがとうございます。早速ではございますが新商品を紹介致します。こちらをどうぞ」
床からケースが出てきて、徐々に新商品が見えてくる。
「こちらが今回開発に成功した新商品です!この後、完成形を皆様に使用して頂きます」
皆、新商品に興味を拍手や喝采などを送っている。
「もう始まってるじゃないの」
「おっ、ミコト。起きたんだ」
「あんなに声がしたら起きるわよ」
「それもそうか。それでヒカリは?」
「向こうで見てるって」
「そうか」
するとフロア峰垣さんを照らしていた光が突如消えた。
まさか、本当に来るとは。
「ミコト。俺の側から離れるなよ」
「ええ」
そして数十秒後。再び光が付く。するとケースの中の商品が消えていた。
囮の商品にしておいて正解だったな。
そう感心していると足元に何か通る感覚があった。
ん? 今のは。
近くを見るとミコトの姿がなくなっていた。
あれ、ミコトはどこに行ったんだ?
俺は一度ヒカリのもとに向かい、ミコトがいるか確かめる事に。
「ヒカリ、ミコトは……」
そこには眠った二人の姿が。
一体、どういう事だ。
「おい、二人とも起きるんだ」
体を揺らし、起きるように催促をする。
「んー、どうしたのよ。安堂」
「なあミコト。さっきまで俺と商品の発表を見てたよな?」
「何言ってんのよ寝ぼけてるんじゃないの?私は今さっき起きたばっかりよ」
じゃあ俺が見たミコトは……。
まさか!
俺は峰垣さんから預かっていた商品を確認する。
すると手元にから無くなっていた。
くそ、やれれた。
「ミコト、ヒカリを頼むぞ」
「えっ、うん」
俺は急いでフロアを出た。
俺たちは勘違いをしていた。怪盗レティアを。勝手な想像で大人だと。
だが彼女の正体は。
警備員がいない場所へ向かう、彼女。そして俺が来ている事を知り立ち止まった。
「お前が怪盗レティアか」
「違うって言ったら見逃してくれる?」
「そんな事する訳ないだろ。それにその格好やめてくれないか。俺のミコトはもっと可愛いからな」
「それはごめんなさい。でも完成度は高いでしょ?なんせお兄さんが騙されるくらいなんだから」
変装を解くと、先程峰垣さんに見せてもらった怪盗の姿に変わっていた。
「立派なレディーになるためにそのお宝頂きます!」
「あ、えっと」
「もしかして私の決めポーズ知らない訳?」
「ああ。今日知ったから」
「はあ、私が言うのもなんだけど色々知っておいた方がいいよ」
「は、はい」
何で俺は捕まえようとしてる怪盗に説教されてるんだ。
「さてとお喋りはやめてそろそろ逃げるね」
「ま、待て!」
だが身長が小さく、中々捕まらない。
くそっ。
予想以上に動きが早く、目の前を見ると怪盗の姿を見失ってしまった。
どこに行った!?
周りを見ると怪盗は俺の後ろにいて、逃げて行った。
「なっ!待て」
急いで体を反転し、手を伸ばした。
伸ばした手は怪盗の仮面の端を掴む事に成功した。
そして彼女の瞳が……。
■■■
「マスター、大丈夫ですか!」
急いでフロアを抜けてきた為、心配した二人が追いかけてきてくれた。
「ああ。でも……」
「何があったか知らないけど、とにかく戻るわよ」
「ミコト……」
「な、何よ」
「いや、たまには冷静なんだなって」
「たまにはって何よ!はあ、心配して損したわ」
その後俺たちは峰垣さんの下に戻り、二人に今までの出来事を説明した。
「そんな怪盗がいらしたんですね」
「それで守れって言われてた商品を取られちゃったって訳ね」
「そういう事になる。はあ、峰垣さんに何て言ったらいんだ〜」
すると商品の確認のためか峰垣さんがこちらに向かってきた。
「安堂さん!」
「峰垣さん。……すみません、商品を取られてしまいました」
「安堂さん……。こちらこそすみません。実はお渡しした商品は偽物なんです」
「えっ?」
「騙すような真似をしてしまってすみません。ですが騙すならまずは味方からと言いますので」
「そ、そうですか。……良かった〜」
まあ峰垣さんのいう通り俺が偽物を持っていると知っていればあの怪盗も近ついてこなかった可能性がある訳だし。峰垣さんの作戦は正解だったって事か。
でもマジでどうやって許してもらおうって必死で考えてたレベルの出来事だったから正直今の状況では心臓に悪い。
まあ元はといえば俺が盗まれたのが原因だし。
盗まれてなければ問題はなかったんだな。
それにしてもあの怪盗の瞳。
いやそんなはずが無い。だって彼女……。
それから無事、新商品はきた人たちに使用された。女性陣はとてもその化粧品を気に入り、発売を心待ちにすると言う声を沢山出していた。勿論、ヒカリとミコトもだ。
屋敷にて。
まさかこの資料をもう一度開ける事になるとは。
フレデリカ・ユーティア。
彼女は2年前のクリスマスに亡くなっている。
だがその彼女は今日生きているかのようだった。
あの澄んだ赤色の瞳。間違いなく彼女だ。けれどそんな事は無い。
あの日、あの場所で彼女は間違いなく俺の目の前で死んでいるのだから。
■■■
「ご苦労様、怪盗レティア」
「あなたもお疲れ様」
「それにしても面倒臭い事させるわね」
「ふん、新商品を取らないだけ有難いと思いなさい。こんな安い芝居で守れるんだから」
「それはそうだけど」
「それじゃあ私はもう行くわ」
「待って。最後に一つ聞きたい事があるの」
「……何?」
「彼とは、安堂さんとはどういう関係なの?」
「……あいつは私の人生を壊した。だからあいつとの関係は復讐対象かしらね」
「復讐……」
「あなたも気をつけなさい。いつの間にか死んでるかもしれないからね」
そう言って怪盗は私の目の前から消えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます