第2話 証拠品探し
「それで安堂。証拠品探しって何するのよ。凶器は首を吊ったロープだけじゃないの?」
「凶器はそれだけだな。でも容疑者全員が見た人影が証拠になるとしたら探す必要があるだろ?」
「どういうことよ」
「まあ見つかったらわかるよ。さあ、探すぞ」
「だから何を探すのよ!」
ミコトを連れて周辺の草むらへ入った。
坂柳さんから受け取ったリストの情報によれば俺の探しているものは必ずこの敷地内にある。ただ犯人がそれを回収していなければの話だが。
後はヒカリの情報にかかっている。頼むぞヒカリ。
■■■
「それでヒカリお嬢ちゃん何を調べてるんだ?」
「容疑者の全ての情報です」
「す、全て?」
「はい。生まれや住所。友人関係など全ての情報です」
「そ、そうか。それは大変だな」
「とっても大変なんです。でもマスターの為と考えるとそんな苦労どうって事ありません」
なんだかんだでこのお嬢ちゃんたちはあいつの事が好きなんだな。
「私も手伝おう」
「ありがとうございます。ではこの資料をまとめてもらえますか?」
まったくよくできたメイドだ。こんな可愛いメイドなら家にも欲しいぐらいだ。
「あっ、これは……」
「どうしたんだいお嬢ちゃん」
「これを見てください」
ヒカリは調べていた情報を坂柳さんに見せた。
「この情報がどうしたんだ?」
「ここに記載されている情報が事実なら、犯行が限りなく可能という事なんです」
「しかしそんな事で本当に可能なのか?」
「勿論完全にという訳ではありません。ですが今マスターが探している証拠が発見されれば話は変わってきます」
「つまりあいつの頑張り次第って事か」
しかしあいつはこの情報が出てくると見越して証拠探しに行ったのだろうか。それとも最初から全て知っていて……。
その頃、証拠探しをしている二人というと。
「ちょ、ちょっと安堂!これ本当に必要な訳!?」
「ああ、必要だ。何せその上に証拠品があるかもしれないんだからな」
「しょうがないわね。しっかり支えときなさいよ!」
俺たちは今何故か肩車をして木の上の物を取ろうとしていた。
こうなったのは十分ほど前の事だった。
「安堂、歩くのが早いわよ」
「ご、ごめん。でもいつもなら普通についてきてるのに。どうした?」
「き、気のせいよ。それよりあてもないのにどうやって探す訳?」
「んー適当」
「ふざけてるの?」
いやいやふざけてる気持ちは微塵もない。ただこんな木々が生い茂っている中、ましてや情報が少ない中明確に探せるなんて事は難しい。そう難しいからこそ考えず探せばいい。もっと言うならこの森を探検する気持ちでいる方がいいと俺は考える。
だけど。
「も、もう限界!」
急に大きな声を出したミコトは走って俺に抱きついてきた。
「ミコト!?」
「さっきから草が当たったり虫がいたりでもう嫌!なんとかしなさいよ安堂〜」
そ、そういえばミコトは虫とか自然系が嫌いだったな。
はあ、まったく現代っ子は。外なんだから虫ぐらいいるだろう。と言いたい所だが俺の頼みで来てもらっている以上そんな酷い事は出来ない。
「ごめんごめん。無理させて」
少しでも気持ちを落ち着かせる為頭を優しく撫でた。
「何、勝手に撫でてるのよ」
「ご、ごめん」
「何かムカつくわ。子供扱いされてるみたいで」
「じゃあ止めるよ」
「なっ!何で止めるのよ」
「えっ?だって撫でられるの嫌なんじゃ」
「別に撫でられるのは嫌とは言ってないでしょ。だから……もっと、撫でなさい」
「はいはい」
多分もう落ち着いていると思うけど手を止めず、ミコトの言う通りに撫で続けた。
「なあ、ミコト?そろそろ証拠探しに」
「なら私を持ち上げなさい」
「持ち上げる?」
「そうよ。下だとまたさっきみたいな事になるし」
仕方ない。俺にこれを断る権利はないな。
「はい、どーぞ」
俺はしゃがみ両手を広げた。
「……お姫様抱っこがいい」
「我儘なメイドだ」
俺は不意をつくようにしてミコトを抱え上げた。
「ほら、これで満足か?」
「ふ、ふん。まあまあね。でも、ありがと」
「それじゃあこれで証拠探しに。ん?」
「どうしたのよ」
「いやあの木の上におかしなものがぶら下がってないか?」
「本当だわ。何かの部品っぽいけど」
部品、じゃあこの辺りで。
「ミコト悪いけどあの部品取るの手伝ってもらうぞ」
「いいけど、どうやって取るのよ」
「簡単だ。ミコトが上に乗ればいいだけだ」
「はあ?それって。ちょっと!」
俺は抱えていたミコトを持ち上げ、肩に座らせた。
「よしこれで取れるな」
「よ、よしじゃないわよ!急に動いたらびっくりするでしょ」
い、痛い。痛い痛い。頭を叩くなよ。
確かに急に動いたのは悪かったけど、証拠を見つけたらすぐ動きたくなるのが探偵じゃないのか?
まあそんな事は置いといて。
「ミコト、それ取れるか?」
「もう少し高かったら行けるわ。安堂もっと高くしなさい」
「了解」
肩の上で立ち上がっているミコトの脚をそっと持ち上げた。
「どうだ?行けそうか」
「なんとかね。……安堂絶対上向くんじゃないわよ?」
「なんだよ急に」
「いいから!絶対に向くんじゃないわよ」
「はいはい。それより証拠品を早く取ってくれ。俺の腕がやられそうだ」
「わ、分かってるわよ。もうちょい、ん〜しょ。と、取れたわよ」
「本当か!でかしたぞミコト」
俺は気分が舞い上がりうっかりミコトの方を見てしまった。
一瞬の出来事だったが、俺が垣間見たのは少女の純白の花園であり……。
「やっ、えっと。み、み、見るなって言ったでしょ!」
見られた事に気がついたミコトはみるみると顔を赤くしていった。
「ばかばか〜。な、何で見ちゃうのよ。本当に」
ん?ミコト?
見られた事で動揺したミコトは俺の上で暴れ出すように動き、同時にこちらもフラつきだした。
「さっきから何やっても上手くいかなし、安堂には見られちゃうしもうやだ〜」
一体どうなってるんだ?突然口調が変わって。
とそんな事を考えていたが答えがでる状況でも無く、体勢を保つ事は難しく肩車は崩壊してしまった。
ヤバい。このままじゃミコトが。
そして数秒後土に当たる鈍い音がし、砂埃が起こった。
目を開けると目の前には空、ではなく白い何かだった。
起き上がる為顔を上げようとしたが。
「ひゃん!」
すると目の前の景色は先ほどの森に変わり、ミコトがこちらを睨んでいた。
「ミコト無事だったんだな!」
いや〜本当によかった。あれで怪我をさせたら大変な事になっていた。
「……何が無事でよかったよ」
あっ、いつもの口調に戻ってる。
「えっ?」
「安堂見たわよね。私の」
その言葉を聞いて先ほどの光景が目に浮かんできた。
「いや、あれは事故っていうか」
「私、上を向くなって言ったわよね」
「あ、えっと」
「上から見るじゃ飽き足らず服の中にまで入ってみるなんて」
「それはミコトを助ける為に」
「変態ロリコン野郎の話なんて聞きたくないわ!」
酷い言われようだ。でもそう受け取られてもおかしくはない。現にミコトが嫌がる事をしてしまった訳だし。
「分かった、じゃあ先に戻っててくれ。俺はもう少し証拠品を探して見るから」
「……ふん。勝手にしなさい」
そう言い残しミコトはそそくさと森を抜けていった。
「さてと早く探さないとな」
■■■
「お帰りなさいミコトさん。早かったんですね」
「……」
「どうしたんだミコトお嬢ちゃん」
「別に」
「そうですか。そういえばマスターはどこですか?完成した資料を渡したいんですが」
「あいつはまだ証拠品を探しているわ」
何かを察した私たちはあまり深く聞かない様にした。
それから静かな時間が続き、ついにミコトが話し出した。
「……な、なんで何も聞かないのよ!」
「あれ?ミコトさんは話を聞いて欲しかったんですか?」
「はあ!?べ、別にそんなんじゃないけど」
「まあ、大体の事は分かっているので聞かなくてもいいっていうのが本音なんですけどね」
「何よそれ」
「簡単に言うと私はミコトさんの事が大切で大好きだって言うことです。勿論それはマスターも一緒です」
「あいつも……」
「なのでマスターが帰ってきたら一緒に仲直りしましょうね」
「うん」
本当にヒカリお嬢ちゃんはミコトお嬢ちゃんの扱いがうまいな。いやと言うより信頼しているの方が正しいか。
まあ初めてこの光景を見た時はガチであのロリコン野郎をぶっ飛ばしにいきそうになったがな。今となっては見慣れた光景だな。
それから一時間ほど経過した後、やつが帰ってきた。
「お帰りなさいませ、マスター」
「ただいま、ヒカリ。それで頼んでた情報は?」
「バッチリです!必要な所だけをまとめて起きましたのでより分かり安いかと」
綺麗にまとまった資料をヒカリから受け取った。
山田健太(21)薬学部所属。サークルは外部活動研究家というサークルに所属。
最近の悩みのとして薬学の成績が伸び悩み、自分の目標が見えなくなってきているという事。だが比較的他の人よりは器用で実際は成績上位。本人は無意識の可能性があるがよく成績が良くなかったと呟いているらしい。
島崎ヒロト(21)学部は教育学部の所属。趣味でサイクリングと精密機械の製作を行なっている。その趣味を他の人に伝えると意外に思われる事がある。被害者とは仲の良い友達だった。
氷川楓(20)学部は山田と同じく医学部の所属。四ヶ月前から被害者と交際していた。学校中でもその姿を見かける生徒が多く、とてもお似合いと多くの生徒が言っていたそうな。山田とは学部が一緒だがそれほど仲が良いわけではない。毎回授業の度山田の呟きにイライラしている。
佐藤佳奈(21)経済学部に所属。被害者とはサークルでしか共通点が無かったがいつの間にか目で追うようになっていた。しかし氷川と交際している事を知り、嫉妬していた。今回のコテージの申請をしたのは佐藤。
やっぱりそうか。この情報で確信した。あいつが犯人だと。
「ありがと、ヒカリ。やっぱり情報に関してはピカイチだな」
「ありがとうございます!ご褒美に頭を撫でて下さってもいいんですよ」
「そんな事でいいならお安い御用だ」
俺はヒカリの頭に手を乗せ優しく撫でた。
よし、後は彼らを集めて推理をするだけ。
「あのマスター。少しお話が」
「どうしたの?」
「ほら、ミコトさん。言うなら今ですよ」
ミコトがヒカリの後ろからそっと出てきた。
「あ、安堂。さっきは酷い事言ってごめん。あと助けてくれてありがと」
気恥ずかしそうに謝るミコトを見て少し親心が芽生えそうになった。
こんなにも急に成長するもんなんだな。子供って。
「俺こそごめん」
「ふふっこれで一件落着ですね。それよりマスターミコトさんに何をしたんですか?」
「いや、それはだな」
「私のパンツを見たのよ」
「「え?」」
「よし、安堂。今ここでお前を埋めて行ってやる」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。坂柳さん。あれは事故で。なっ、ミコト」
「知らなーい」
う、裏切りやがったな。ミコト。
「……マスター。さっきの話本当なんですか?」
「いや、だからそれは」
「本当、なんですか?」
「は、はい。本当です」
これってもしかしなくても怒ってるよね。
「マスター、事件が解決した後、覚悟しておいてくださいね」
「……はい」
俺マジで自分のメイドにお掃除されちゃうかも。
「なあ、ミコト。もしもの時は骨拾ってくれよな」
「はあ?ヒカリがそんな事する訳ないじゃない、でもそうね。これからあの人にやられるなら骨の一本は拾ってあげるわ」
「えっ?」
後ろを振り向くと待っていたかのように坂柳さんが仁王立ちしていた。
「さてと安堂。覚悟しておけよ」
「ちょ、あの坂柳さん。冗談ですよね」
「さあ安堂。踏ん張れよ」
その後森全体に俺の雄叫びが響き渡ったのだった。
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