振られた上に言いふらした彼女と再会したら惚れられているような気がするが二度と騙されない

第52話三者三様のババ抜き

「行動力と結果って訳か、なるほど」

　片桐と香月、それと俺たちを眺めたと思うと、現実的にも心理的にも一歩離れた所から、まるで他人事のように神宮寺は呟く。

「あのぉ……雪宮さんの肌って本当、白くて綺麗ですよね」

　直後、香月がとんちんかんな事を言い出したと思うと、俺を握ってる雪宮の腕をさらに掴んだ。

「ん……？　ありがと？」

　そして腕を撫でてくる香月に向かって不思議そうに首を傾げる雪宮。

　当然だ。媚びを売るにしても何故今、それも話の流れに全く関係ないことを言い出す。

　大丈夫か？　なんか、可笑しいというか今日は全体的に……。

　————その時、記憶を司る海馬に電流が走り、俺は彼女が貸し出し作業をしていた時の事を思い出した。

　そう、香月はあの日、つまり女の子の日だと言っていた。

　あれが口からのデマではなく、後々バレてもいいように本当だとすれば、人によってぎこちなさや思考能力低下が有っても不思議ではない。

　なるほど……なるほど……そういう事だったんだな。

「ねぇ……香月ちゃん？」

　ホームズばりの閃きに感傷していると片桐も怪しんだのか、香月の腕を掴む。

　そして俺や唐沢という男がいるからか、何も言わずに彼女の目を、じっと黒い瞳で見つめていた。

　結果的には俺、雪宮、香月、片桐がそれぞれの腕を掴む意味不明な状態と化す。

「…………なー、何してんだ？　あいつら」

　雪宮からとっくに腕を離された唐沢が困惑し、神宮寺の隣へ立つと静かに質問する。

「さぁ、僕には察しが悪い人がいることしか分からないですよ」

　神宮寺が俺の目の前にいる雪宮の背中を眺め、揶揄いが混ざった言い方をする。

　人数を言わない辺り、遠回しに唐沢の事も含んでいるんだろう。

　次から次に状況が変わり、取り敢えず俺は一つ重要なことを忘れてそうな雪宮の手の甲を指でつつく。

「どしたん？」

　すると、まるで何もしていないかのように純粋無垢な目で雪宮は俺へ視線を向けてきた。

　——嘘だろ、比喩表現で忘れてそうと言ったが、こいつ本当に俺の腕を掴んでることを忘れてるのか？

　普通、指でつつかれたら嫌でも意識が行くだろ。

「あー、唐沢もどっかに行ったし……手を出すつもりも最初から無かったし……」

　嫌ではない、不機嫌にならないよう言葉を選択を選び。

　察してくれるまでは話すか、そう思ったが手の話まで言ったのにも関わらず雪宮の暖かい手は俺を握りしめたまま。

「その……離してくれないか？」

「ん？　あー、ごめっ！　忘れてた」

　結局、雪宮は直接的な言葉である最後まで、本当に分からない様子で申し訳なさに加えて照れたように笑う。

　久しぶりに外気へ晒された腕は、まるで静かな夜の海で風に当てられたかのように冷たく感じた。

　しかし、これでようやく腕が自由になったと手のひらを回し、開閉していると、

「その、二人ともごめん……私が余計な事をしたせいで」

　片桐が俺と香月に謝ってきたと思うと、寸分の狂いもなく全く同じ位置を握ってくる。

「——ッ」

　それも謝罪の意からか、雪宮と違って余計な思考ができないほどに力を込めて。