第48話だから彼は嫌われる
「……っ」
「なんだよ、その目。早く謝れよ」
皆に迫られる九条は、憎しみの目を香月へと向け始める。
それを見ていた雪宮はこの流れで本当に良いのか、そう言いたげに確認してくるので小さく首を振る。
「まぁー……謝るにしても今すぐ皆の前じゃ言い難くいっしょ。後で当事者同士謝れば?」
すると意外にも的確に舵を切り、雪宮は流れを変えようとし始めてくれる。
前から彼女は人前で謝ることの難しさに理解を示していた。
だから、今回も出来る限り鎮火させようとしたんだろう。
「悪い事して謝るのに、誰が見てるとか人数は重要じゃないと思う」
しかし、人は共感してあげようと思える人物にだけ人の扱いをする。
一致団結し、揺るぎない正義を手に入れた人々とって九条は既に徹底的に傷付けるべき怪物だ。
だから当然、歩み寄るなどという選択肢は存在しない。
当初、責めようとする人たちを香月が軽く止め、なぁなぁに終わらせる程度の計画だった。
しかし、もはやその程度で止まらないことは彼女も分かりきっている。
「いやぁ……あの、割と本気で辞めてほしいんですけど」
香月がボソリと呟くが誰も聞いていない最悪な状況。
それでも、打開しようなら……有難迷惑な彼らに対し、悪態をつき、やる気を損なわせるしか方法はない。
だけど、それは同時に今まで培ってきた好感度を捨て去る選択でもある。
こんなことなら頼むんじゃなかった、そう言いたげな香月。
協力すると言っておきながら、結局俺がやった事と言えば悪化させるだけか。
「ごめ、ごめん……私が余計なことしたせいだよね」
いつのまにか近づいてきていた片桐が申し訳なさそうに隣へ来て謝ってくる。
これじゃ……香月から貰えるのは良くて嫌味、最悪だと慰め程度の感謝か。
「まぁー、急に頼んだ割には良くやった方だと思うよ」
このまま終わらせたら間違いなく無力感と罪悪感で、何で出しゃばって関わったんだと真夜中壁頭突き一人反省会コース。
しかも感謝してほしいなどと、心の内を異性に明かした上での失敗なんで羞恥心で数回死ねる。
「それに片桐さんのせいじゃない。小学校の時から身の丈に合わない考えとかするし、俺の計画にそもそも無理があったんだ」
責任を感じさせないための気休め。
それなのに逆効果だったみたいで、更に片桐は項垂れて落ち込み始める。
「んー……何とかするし、気にするな」
再び髪を弄り始めた片桐。
しつこいとか思っているのだろうか、もしかしたらストレスを感じた時の癖かもしれない。
「……なんとかって?」
片桐は更に聞いてきたが俺は何も答えず、
「やめろってッ——うむッ?!」
息を吸って大声で叫ぼうとする香月の口を塞いぐ。
文句を言いたげな香月を眺め、俺はため息を吐いて覚悟を決める。
虐めた九条らが責められる事なく、香月の好感度も下がらず、謝らせたい皆の気持ちも解消させ……この場を穏便に済ます方法。
「いやー、九条。別に謝る必要なんてねぇよ」
そんなの——嫌われ者で、これ以上落ちぶれることのない俺が肩代わりすれば全部解決じゃないか。
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