第47話第三者が好む手っ取り早い解決法
「そういえば……こいつらが主導して彼女を物陰へ連れて行くのを見た事あるな」
責める視線が集まる最中。
更に燃え上がらせることも考えていたが直接投下する必要など無かった。
都合よく誰かがいつかの出来事を見ていたようで、点と点がある場所に誰が考えても線と推測できる新たな点が遠回しに置かれる。
「えっ?! それって……」
過ちだった場合を警戒してか、片桐が連れてきた内の一人は直接的な言葉は言わなかった。
だが、それだけで皆の責める視線と偽りの団結力を強めるには十分。
改めて周囲が一丸となっている状況を神のように第三者目線で眺め、俺は後の事を考えようとした。
「ちょっと話しただけなのにね。やっぱり王子様みたいな人が良いよね」
しかし、ふと昔のことと重なり、机に座りながら髪をいじっていた片桐が言っていたことを思い出してしまう。
甘味のある酸さどころか、鼻を刺すほどの異臭を放つ思い出。
片桐に再会して半ばトラウマレベルで自然と必死に仕舞い込んだ記憶が鮮明に脳内へ広がる。
「髪……?」
思い返したくもない、クソな記憶。
だがそこで何故だか、片桐が髪の毛をいじっていたという行為が無性に俺は引っかかった。
思えば、廊下で二人きり出会った時もずっと彼女は髪をいじっていた。
「昔からの……癖?」
誰にも聞こえないように呟き、片桐の方を見ると今もまた同じ事をしていた。
「何か意味があるのか……? いや」
きっと偶然でたまたまで、気のせいだろう。
そもそも大して仲良くもない俺如きで、片桐の癖とか言うこと自体がおこがましい。
もし、今誰かに思考を覗かれてたら笑われるレベル。
だけど……そう分かっていても気になった以上、笑われようが考えてしまう。
どのみち、教室で片桐が想像と違う行動を取った時点で俺のミスは確定している。
今更一つや二つ間違えた所で違いはない。
そう心を決め、深く引き出しを開いて考察しようとしたまでは良かった。
しかし、いざ思い出そうとすると恥ずかしさや羞恥心が再び引き出しを抑えて閉じさせてしまう。
「やっぱりごめん、この雰囲気はもう嫌なの」
余計な事に意識が向けた直後、これまで静かにしていた片桐が謝ったと思えば二人を庇うように割って入った。
「あの……謝ろ? そうすれば香月ちゃんもきっと許してくれるよ」
俺を含む事情を知っている連中はその行動に露骨ではないが、目を丸くする。
「……ミスったな」
正義感から勝手な行動をしないよう、誰にも香月が水を掛けられた写真もイジメの詳細も見せてない。
まさか、それが今ここで仇になるとは思わなかった。
可哀想か卑怯だと思っての行動か分からないが、教えていたならきっと片桐も謝って済ませようなどと言う最悪な行動には出なかった。
「ね?」
片桐の同意に、それまでボーとしていた香月だったが、ハッとしたように一瞬俺へ目を向けると状況を理解して反射的に頷いた。
もちろん、許さないなどと首を横に振る選択肢など香月にはない。
だが、それでもこれで言う通りに彼女たちが謝罪をした所で、数の暴力で辱めたと香月は裏で反感を食らう。
その後、皆が香月に優しくし、表面上はめでたく解決ルートなんて行ってしまった日には裏ではもっと激しくなるだろう。
「いやっ、でもそんな大したことじゃないですからッ! 謝らなくてもいいですよ」
このまま進んで辿り着く先なんて地獄しかない。なので当然、香月は方向を変えようとした。
「はぁ、なんで? 大丈夫だって。悪いのは向こうなんだから遠慮するな」
しかし、悪い奴が謝って相手が許すという単純明快なハッピーエンド。
一度そのゴールが見えて仕舞えば、坂道を転がる球のように人は簡単に止まれない。
それが例え、そうするしかない状況下で無理矢理謝罪させ、相手もまた答えを求められるから許す他ない。
そんな第三者の自己満足のゴールでも。
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