第32話何かを俺は見誤っている
考えられる可能性は二つ。
本当にスマホを取りに来たけどお前なんかに手を貸すわけねぇだろと適当な嘘で断られたか、そもそもの犯人が片桐かだ。
前者だと机の乱れ方に納得する理由が無い、だから後者と考えるのが妥当で彼女の異様な穏やかさも仕返し中ということで説明もつく。
そして犯人だと仮定した場合、スマホを貸してくれれば不自然も無く疑われずに済んだはずだがそうしなかった……そうできない理由があるのだ。
つまるところ今、俺のスマホは出会った時から彼女が不自然に後ろに回している手の中にあると考えて間違いない。
取り返して生存確認したいが落ち着け。
ここで『返せ』と言った場合、スマホを取り返せたとしても『こいつ持ってたのに私を犯人扱いした!』と泣き喚く強硬手段にでたら不味い。
教室の時計を見ても電話するような時間は残されてない。
「それじゃ、もう行くよ」
「っあ……うん」
そう言って何も気づかないフリをしてそのまま教室を出た。
間違いなく片桐は『馬鹿め』とか思いながら作戦を続行し、教室のどこかへ隠す。
俺はただその後に何食わぬ顔で見つけて回収すればいいのだ。
「じゃ、今日のテニスはここまでだな。片付けた者から帰って良いぞ」
授業の終わる15分前、終了を告げる笛が聞こえると皆がラリーや試合を止めて片付けを始める。
「……どうゆうつもりだよ」
俺はというと一人組めずに残っていた所、声かけて組んでくれた柄山をジト目で眺めながら真意を聞いていた。
こんなことをしてしまえばお前も同列の扱いをされるぞ、という意味も込めた質問だ。
「何で嘘をついたのかは僕には全く分からない。でも嫌われる事実がない保知よりも事実がある僕の方が嫌われることに納得できるから別にいいんだ」
周りからジロジロ見られながら「なにあいつ」と陰口が聞こえているにも関わらず柄山は笑顔で答えてくる。
「いや、お前――」
悪口の一つや二つ言い『ほら、優しくしてくれたのにあいつ最低たな』的なので柄山へ同情が行くように言い放って突き放そうとした。
「だからってわざわざ嫌われに来なくても良いだろ……俺のことは気にせず他の奴らと仲よくしろって」
しかし、寸前のところで相手にこちらが気遣っていると理解できる言葉に変えた。
「あの時躊躇し、そして今も皆の前で白状する勇気がない僕が僕に課した罰でもあるんだ」
力強く拳を握りながら罪とか言ってて想像以上に重いな……言うだけ損だし、白状する奴の方が少ないから気にすることじゃないと思うんだけどな。
なんであれ柄山が自白するつもりがないと知れてよかった、もしそうなっていたら少し俺も困る状況になっていただろうし。
「俺、この甘い根性変えるために卒業したら自衛官になるんだ」
どうだ、と少年のように目を輝かせながら柄山が意見を求めてくる。
一体あの出来事の何がそこまで原動力を生むことになったのか全く理解出来なかったが……とりあえず適当に「いいんじゃないか」と賛同してあげた。
「じゃ罰ついでに悪いけど……ちょっと教室にスマホを取りに行きたいから先に戻ってもいいか?」
言い終えると互いに互いを見つめ合う気まずい沈黙が数秒流れる。
流石に……あんまり仲良くないし、ちょっと図々しいかったかもしれない。
何か報酬をあげた方が良いか? と考えていると意外にも「あぁ、別にいいよ」と柄山は快諾して俺の手からテニスのラケットを奪った。
「っ……いいのか?」
「これぐらい大したことじゃないさ」
と笑いながら柄山が「さっさと行きな」と手を振る。
あの椅子に頬を擦り付けていた柄山がここまでカッコよく感じるなんて……これが悪口言い、突き放した善の道では到底得られなかった友情という物か――偽善最高だな。
そう心を躍らせながら教室に戻る途中、どうせなら探すためにもスマホを借りれば良かったことに気づいて後悔した。
しかし、その必要は全くの無用だった。
「——なんだよ、本当に……訳わかんないな」
なにせ俺のスマホは堂々と隠されもせず、傷も付いていない状態で机の上に置かれていたから。
困らせる為に取ったのなら絶対にこんなことはしない、本当にスマホを忘れて協力してくれなかっただけ?
——いや、だとしても最後にいたのが片桐で最初に来たのが俺なのだから持っていたのは彼女で間違いない。
「……前者も後者も考えられるすべての道が矛盾している」
素早く制服へ着替えながら、一応タスクやアプリを確認してみるが変なものはない。
所持しているピースがどのゴールを大まかに目指そうとも噛み合わない状態、それも見落としていた大きなピースを見つけて綺麗に収まる程度ではない。
信じられないが、この結果が示すことは……片桐という人間を構築する上で何か認識している物が誤っているってことだ。
「……本当に頭の中でバグって名前の蛾が飛びまわっているみたいだ」
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