第12話犯人捜しでの再会

 翌日、俺は朝早く起きて学校へと向かう。理由はもちろん、俺の机を拭いていた犯人を捜すためだ。

 机をわざわざ拭く行為をクラスメイトがいる中でやって誰も見ていないはずが無い、ならばあり得るのは一番最初に登校した人間。それも3か月毎日やっていたという事ならば登校時間が習慣化されていても可笑しくはない。


「さて、じゃ鞄を教室に置いてっと。俺は廊下の奥で待って教室に最初に入る人間が誰か見てればいいな」


 まだ授業が始まる1時間前、普段なら絶対に廊下の先から生徒の話し声が聞こえるのに不気味なほどに静かだ。

 試しに靴を鳴らすとこだまのように返って来る。これで教室に入る誰かを見逃すなんてあり得ない。


 壁に隠れながら例え後ろから誰か来ても靴ひもを結んでいたと言い訳が出来るように外しておく、完璧だ。


「そんなところで何してるんですか?」


 万全の体勢だ。そう前方を注意していたところ、背後の声に思わず身体が固まる。片桐でも雪宮でもない声だが、確かに聞き覚えのある声。

 

「ちょっと靴ひもを結んでたんだよ」

 

 振り返るとそこには不審者でも見るかのような目をしてくるショートヘアの学生服の女の子がいた。

 あぁ、こいつ信号の時の愛想が悪い子。失敗した、玄関に近い方は警戒していたがグランドの出入り口に近いこっちの階段を使っている朝練の生徒たちは全然頭に入れてなかった。言い訳を作っておいてよかった。


「へぇ、その割にはさっきまで全然結ぼうとしなかったみたいですけど」


 ……一体いつから俺を見ていたんだ。話しかけるなら話しかければいいと言うのに黙ってしばらく後ろで観察していたと言うのか、存在感も消して。 


「とりあえずぅ、先生呼んできますねっ」


 ほっぺに指を当てて少し考えた後で彼女が微笑浮かべながら言うと、そのままくるりと回り登ってきた階段を再び下ろうとし始める。


「待て待て待て、前に助けただろ。見ないふりをしてくれ」

「はぁ、別に助けて欲しいって言った覚えなんてないと思うんですけど」


 一応止まってくれた彼女は自分の方が正しいでしょとばかりに言い返してくる。

 タダより高いものはないって言うけど、それは恩を返すつもりがある人間に限った話だなと俺は今つくづく思った。


「勝手に助けて、その上お礼を本人に直接要求するとは随分と恩着せがましい人ですね。いたんですね、そんな人」


 っく、こ、こいつ憎たらしい。


「奇遇だな、俺もちょうど今そんな人間が実在するんだって驚いているところだ」

「自己紹介ですか?」


 人は第一印象で8割決まるということに疑問を持っていたけど、割と正しいのかもしれない。

 

 彼女を見ながら次の言葉を探していると廊下の先から足音が聞こえ始める。『来た』こいつのことは放っておいて最初に教室へ入る人物は誰か確認してから処理しようと、角からその人物を覗く。


「……柄山さんをそんなに熱心に覗いて、もしかしてあっちですか?」


 いつの間にか少し離れた距離から一緒に覗き込んでくる彼女を無視。

 しかし、まさか兄弟が一番とは驚きだな。テニスの時は嫌そうな目をしていたが実は仲良くなりたかったのかもしれない。

 ん……? 柄山さん? 名前覚えているのか?


「なぁ、じゃあの子は?」


 兄弟より奥の方にいる女の子を指さしながら俺は後ろの奴に聞く。


「佐藤さんですけど」


 次にその指を自分に向ける。


「恩着せがましい奴」


 もっと奥の男に向けて指さす。


「藤宮さん」


 俺に戻す。


「恩着せがましい奴」


 本人である彼女に指を向ける。


「香月様」


 一瞬何言ってんだと固まってしまう俺に彼女は続けるように、


「特別にさん付けしなくてもいいですよ?」


 とはにかんだ。

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