第3話二人一組のテニス
「じゃ準備体操終わった奴から二人一組でテニスコートでラリーしろー」
一限の体育のために体操着に着替えた俺は準備体操しながら走っている奴らを眺めていた。
時々羨ましそうな目線をこちらに向けてくる者もいたが致し方がない、走れば左足が痛くなってしまうのだから。
「かたぎりぃ、またいっしょにやろ」
「んー、それもいいけど、たまには見知った顔だけじゃなくて気分転換に他の人にしない?」
「えぇ……気分転換?」
片桐が少しウェーブが掛かった長髪黒髪ギャルである口悪友と組まないと分かると仲良くなりたいのか一目でカースト上位と分かる男たちが近づく。
「じゃ、じゃ一緒に組む? たまには男女ってのもありじゃ」
「うーん、それも冒険っていうか、ワクワクが足りなくない?」
上位は気分でバディを取っ替えれるからいいよな、こっちは恐らく最後に余った人と教師によって強制連結されてしまうのだから。
そんなことを思っていると直ぐに片桐以外のクラスメイトたちは余りたくないのか、いつもの奴らと組み始めて如何にもソロプレイヤーの人生を歩んでいる者たちが残り始める。
呑気に余ってる人が少なくなるなと、観察していると俺は片桐と、ではなく口悪友と目が合う。
「……しゃーない、隠キャくん一緒にやろっか」
口悪友は俺と余ってる他の奴らと見比べて本当に嫌々消去法で仕方ない様子で近づいてくる。
そう、本当に嫌で嫌で仕方がないのだ、そこに表や裏など有りはしない。
「……お、おう、よろしく」
俺のことなど微塵も興味ない様子で素通りし、空いてたコートに向かった口悪友はボールをポンポンと上に上げる。
片桐を脅せるネタを入れる絶好のタイミング、そう思うかもしれないが聞けばすぐに伝書鳩のように伝わって有る事無い事噂されて仲間を呼ばれて集中砲火され、最悪いじめられるだけだ。だから無関心、あくまで無関心を演じなければいけない。
「そういえば今朝はナーナーになっちゃったけど隠キャくんって片桐となんかあったん?」
「いや、何もなかった。本当に何も、何もなかったよ」
本当? って聞きそうな顔をしていたから厳重に何度も繰り返す。
「ふーん、ま、いっか」
すると信じてくれたのか、これ以上俺と長く話すのも嫌だったのか分からないがこちらに口悪友がサーブを打ってくるので難なく打ち返す。
「隣使うよー」
数回打ち合っていると聞き覚えのある声と共に隣のコートに片桐とずっと俯いて恥ずかしそうにしているふくよかな体型の男子生徒が来る。
「うぁ、まじむり、冒険って言ってたけどマジ冒険しすぎっしょ」
相手を思う気持ちってのがないんですかね、オブラートに包むとか他の言い方があるでしょうに……普通にその男子生徒にも聞こえる音量で引き気味に口悪友は片桐に話しかけ、
「まぁ、たまにはこういうのも良いかなって。っね?」
「は……はい、よろしくお願いします」
同意を求められた男子生徒は恥ずかしそう俯きながら肯定する。
単純だな兄弟、まるで昔の自分を見ているようだ。でも忠告するならその笑顔は特別なものなんかじゃないから夢見ることはやめた方が良いぞ。
「ふーん、まぁ、ウチ関係ないしどうでもいっか」
そう言うと再びこちらに向きながら口悪友はサーブを打ち込んでくる。
「そういや、陰キャくんはやっぱりシャンプーとか薬局で買ってんの?」
「薬局以外どこで買うんだ? スーパーか?」
「っはは、ウケる」
何もウケないんですけど、っていうかスーパーと薬局以外で売ってる所なんかあるのか? まぁ、あの言い方だとあるんだろうな。
「ごめーん、球拾ってくれる?」
恐らく化粧品ブランドを売っている所に行けば一緒にあるのだろう、そう考えながら片桐の方から飛んできた球を投げ返す。
「ありがとー」
並の男ならすぐ勘違いしそうなサキュバスフェイスを適当にあしらいながら俺も球を口悪友にサーブをする。
「コスメとか男もつけたほうが良いよ、それだけで印象変わるし」
「そういうのは興味ないな」
遠回しに臭いとか醜いとか言いたいのか、俺が断固たる意志で切り捨てると口悪友は眉を少し不機嫌そうに曲げた。
「へぇ、じゃ陰キャくんが好きそうな話しよっか。やっぱアニメとかっしょ、ワンピースとかハイキュウならウチも見たことあるよ」
「王道なジャンプ系だな」
夕飯はお米を食べた、ぐらいに個性の無い会話に適当に返事を返す。それになんだハイチュウみたいな言い方しちゃってちょっと可愛いな。
「……っち」
すると、良い感じの場所に球を打ったはずなのに、口悪友は撃ち返さずただイライラした様子で舌打ちしながらこちら睨みつけてた。
不味いな、非常に何か分からないけど地雷を踏んだようだ。
「どした――」
「あんさー、だから陰キャって嫌いなんだけどぉ」
ラケットを芝生にトントンっと叩きながら口悪友は話し続け、
「こっちは分からなくても少しでもそっちに歩み寄ろうとしてんの。なのに興味がないとか、王道とか、全然そっちは歩み寄ってこないよね。ッチ、見下したような目までしてきてマジ最悪なんだけど」
小声で言う訳でもなくクラスメイト全員が聞こえる程の罵倒を俺に浴びせ、もうやる気がない様子で口悪友はラケットを地面に力強く叩きつけた。
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