第3話

「よお!ゆーき」

樹くんがすれ違い様に僕の肩を抱き、呑気に声をかけてきた。

「もう、樹くん」

僕は必死に、アイコンタクトを送るが樹くんには届いてない。

「駅まで一緒に帰ろうか」

呑気な樹くんに少し腹が立った。慌てて風花の顔色を伺う。

「いいよ」

と風花が返事をした。どこから絞り出したのだろう。笑顔も返事も威勢がよかった。


「樹から聞いてるわ。幼馴染の優希くん」

澄んだ笑顔に思わず戸惑った。まさか雲の上の綺麗な人と話すことがあるなんて。

「あっ。あ」

「この馬鹿、綺麗な人見るとこうなっちゃうんです。」

風花は肘で僕の脇腹を小突いた。

「あなたは綾瀬さん?」

「私のことも聞いてるんですか?」

「それは、、、、、、」

樹くんはバツの悪そうに俯いた。

「優希くんたちはデートとかってどこにいくの?」

藤堂さんは僕に聞いた。僕に聞いたって、わかるわけないだろうと突っ込みたくなる。

「私たち、実はあまりデートしたことなくって」

風花が助け舟を出し割って入ってくれた。

「なら、一緒に行かない?いいよね。樹」

「ああ。うん」

締まらない返事。樹くんの狼狽える姿は見たくなかった。だって僕のヒーローだから。

「決まり。嬉しいな」

藤堂さんはとても嬉しそうだった。こんな無垢な笑顔に罪悪感を覚えた。

樹くん達の二股に僕も加担していること、この人を悲しませちゃいけないんだ。


僕にはそんな難しいミッションをクリアできる自信は毛頭ない。

だってデートもしたことないんだから。初めて手を繋いだのもついこの前。

「どうするんだよ、風花」

「情けない。うじうじしちゃって。だったら最初から引き受けないでよ」

「うーん。もお、いいよ。分かった。分かったやればいいんだろ」

半ば、やけくそ。どうせ拒んだって、無駄な抵抗になることぐらいもう学習済みだった。

そうだ僕のことより、風花、君は大丈夫なの?そう聞こうとした時、小さな手のひらが僕の頭に触れた。

「よしよし。いい子。いい子」

仔犬をあやすように優しく、優しく撫でた。私は大丈夫と強がっているように見えた。

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