第3話
「よお!ゆーき」
樹くんがすれ違い様に僕の肩を抱き、呑気に声をかけてきた。
「もう、樹くん」
僕は必死に、アイコンタクトを送るが樹くんには届いてない。
「駅まで一緒に帰ろうか」
呑気な樹くんに少し腹が立った。慌てて風花の顔色を伺う。
「いいよ」
と風花が返事をした。どこから絞り出したのだろう。笑顔も返事も威勢がよかった。
「樹から聞いてるわ。幼馴染の優希くん」
澄んだ笑顔に思わず戸惑った。まさか雲の上の綺麗な人と話すことがあるなんて。
「あっ。あ」
「この馬鹿、綺麗な人見るとこうなっちゃうんです。」
風花は肘で僕の脇腹を小突いた。
「あなたは綾瀬さん?」
「私のことも聞いてるんですか?」
「それは、、、、、、」
樹くんはバツの悪そうに俯いた。
「優希くんたちはデートとかってどこにいくの?」
藤堂さんは僕に聞いた。僕に聞いたって、わかるわけないだろうと突っ込みたくなる。
「私たち、実はあまりデートしたことなくって」
風花が助け舟を出し割って入ってくれた。
「なら、一緒に行かない?いいよね。樹」
「ああ。うん」
締まらない返事。樹くんの狼狽える姿は見たくなかった。だって僕のヒーローだから。
「決まり。嬉しいな」
藤堂さんはとても嬉しそうだった。こんな無垢な笑顔に罪悪感を覚えた。
樹くん達の二股に僕も加担していること、この人を悲しませちゃいけないんだ。
*
僕にはそんな難しいミッションをクリアできる自信は毛頭ない。
だってデートもしたことないんだから。初めて手を繋いだのもついこの前。
「どうするんだよ、風花」
「情けない。うじうじしちゃって。だったら最初から引き受けないでよ」
「うーん。もお、いいよ。分かった。分かったやればいいんだろ」
半ば、やけくそ。どうせ拒んだって、無駄な抵抗になることぐらいもう学習済みだった。
そうだ僕のことより、風花、君は大丈夫なの?そう聞こうとした時、小さな手のひらが僕の頭に触れた。
「よしよし。いい子。いい子」
仔犬をあやすように優しく、優しく撫でた。私は大丈夫と強がっているように見えた。
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