Op.1-6 突撃、我が家へようこそ!

Op.1-6第1節


(ど……どうして、こう……なったの!?)


 灯莉あかりは内心焦っていた。


「少し時間かかるから、先にお風呂入っていいですよっ! 先輩」


 リズミカルに包丁の音を鳴らし、料理をしている花蓮かれん


「う……うん」


 灯莉あかりは返事をすると、脱衣所へ向かう。


「へっ?」

「あ、灯莉あかりっ!?」


 なんということでしょう。扉を開けると、そこには今、まさにパンツを身に着けただけのみやびがいるではありませんか。


「きゃああ!?」

「ご……ごめんね!」


 みやびは悲鳴を上げ、灯莉あかりは謝りながら扉を閉めた。普通は逆だろう。


(どどどど、どう……いうこと……!?)


 灯莉あかりは、心を落ち着かせるために深呼吸をする。

 少しの時間が経つと、脱衣所の扉が空き、みやびが出てくる。


「さっきはごめん。というか、風呂入るって言わなかった僕が悪い」

「わ……わたしの方こそ、声をか、かければ……よかった……ね」


 お互いが苦笑いになる。みやびはその表情のまま、リビングへ向かった。


花蓮かれん、僕が入ってるってことを伝えてほしかったんだが……」


 なんて、声も灯莉あかりの耳に入る。

 少し、頬が緩むと、灯莉あかりは脱衣所に入り、一人でお風呂を楽しむのであった。


 ♪


「あ……あがった……よ」


 と、灯莉あかりみやび達に声をかけ、匂いに釣られるように、テーブルへ座る。みやびに、女の子特有のほのかに甘いバラのような匂いが襲い掛かり、少し堪能していた。


「お……おいし、そう……」

「でしょっ」


 花蓮かれんは自慢げだ。

 今日は焼き魚、銀鮭をメインとした、和風の料理が並ぶ。


花蓮かれんは僕とは違って、料理できるからな。本当に自慢の妹だ」

「そう言ってくれると嬉しいよ? にぃは私がいないと餓死するもんねっ」

「コンビニ弁当でなんとかなる」

「そこは『する』って言ってよ!?」

「痛え! 蹴るなよ!?」


 もはやいつもの風景だ。


「あ……、食べて……いいかな……?」

「いいよ」


 と、みやび

 お行儀よく箸を持ち、銀鮭を口へ運ぶ。


「んん……!」


 ホロホロと崩れる食感。一口噛むと、しつこくない脂が乗った身の味が口一杯広がる。

 灯莉あかりは悟る。毎日食べれるみやびがなんて羨ましいんだと。


「と……溶けちゃい、そう」

「当然ですっ! 私が大好きなにぃの為に、いっぱい修行したんです。美味しいのは当たり前です!」

「お、おなかが……ずきゅんずきゅんしちゃう……」

「あ、灯莉あかり?」


 少し光悦トリップ感があるのか、頬を赤らめる灯莉あかり

 みやびは危機を察した。


「はぅ……」


 と、灯莉あかりは別の料理に伸ばす。ヒジキの佃煮だ。

 それを食べる。


「あぅ……んっ! 黒いのが、私の中に……。は──」

灯莉あかり、ストップストーーップ!」

「……!! ……〜〜っ!!」


 みやび灯莉あかりを止める。

 我に返った灯莉あかりは、恥ずかしさに給湯器よろしく、顔面がカァッと熱くなった。

 そして、そのまま両手を頬に当て、みやび達に顔を向けまいと、明後日の方へ顔を向ける。


「先輩はえっちですね?」

「ち……違うのっ! え、えっちぃ……くないの!」

「いえいえ、絶対えっちです。確信しました」

「か……かくしんしないで……!」

「核心を確信したな」

「ま、紛らわ……しいよ!?」

「にぃ、わかってるねっ」

「むぅ……ぅぅ……」


 灯莉あかりは恥ずかしさに悶える。と、いうか「恥ずかしさで死ねる」とまで言える状態である。


灯莉あかり、ほら顔あげな」

「は……恥ずか、しい……」

「先輩、本当にえっちなんですから」

「えっちぃ……じゃ、ないよぅ」


 と、灯莉あかりは言いつつも、強く否定したいからか顔を上げ、灯莉あかりの方へ見る。


「ほら、とりあえず食べようぜ?」

「う……うん」


 すかさずみやびは言うと、灯莉あかりは少し、自分の気持ちを落ち着かせる。


(こういう……食事は初めて……)


 灯莉あかりは心が躍る。


(た、たのしい……ね)


「ふふっ」


 みやびたちに聞こえないくらいの小さな声。

 灯莉あかりは、心の底から楽しそうに、箸をすすめていき、この食事が一生続いて欲しいと願った。


 ♪

 

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