Op.1-5第7節

 廃病院へ行き、そこにあった『記憶の欠片』を回収したため、花蓮かれんの今までの記憶が戻った。


 ただ、最後の一つの欠片である、『魔法の欠片』は学園にある。それを回収するまでは、花蓮かれんは魔法が使えない。

 今日はもう夕方になってしまい、校舎が開かないので、それを取りに行くのは明日になる。


 家へ着いたみやびたちは、ソファーへ座る。


「魔女が僕と花蓮かれんの先祖っていうのは知ってるよね」

「う……うん」

「実は、先祖代々の言い伝えがあって」


 みやびは一呼吸置いた。


「『魔女の血を引き継ぐ者は、近くにいる人にも影響を及ぼす』」


 近くにいる人とは、灯莉あかりのことだ。


「もしかしたらと思ってたんだけど、多分灯莉あかりにはすでに、というか、最初から影響は出ていた可能性がある」

「そ……それが、夢……なの……?」

「多分そうだと思う」

「そ、そっかー……」


 灯莉あかりは少し遠くを見つめる。

 そのタイミングで、花蓮かれんが口を開いた。


「魔女の名前が『あかり』っていうのは初めて聞いたねっ。にぃ?」

「うん。僕達もわからなかったよ」

「魔女については言い伝えでしか教えてもらってないし、世間一般的にはいいイメージないしねっ」


 魔女は、数多の戦争が行われてた際、何を思ったか、おびただしい数の味方を殺したため、最終的には国に捕まり、処刑をされてしまったのだ。


「ま……魔女……」


 灯莉あかりはポツリと、小さい声で呟く。


「わ……わたしは、み……みやびくんが、やさしいから……、ま……魔女もやさしい……!」


 灯莉あかりは普段とは違う、少しだけ力強く言い切ると、自身の目をみやびへ向ける。そして、そのまま少しだけ顔を赤らめて俯いた。


「まあ、魔女のことは気にするな。何かあったら守る」

「と、にぃは言いながら守れてないけど? どう言うことかな? えいっ! えいっ!」

「って言いながら蹴るな!」


 テーブルの下でみやびのことを蹴っていた。

 花蓮かれんにとって、みやびに打撃を与えるのは一種の愛情表現と思っているのだが、みやびにとってはたまったもんじゃない。花蓮かれんは手加減をしていないからだ。


「私も今、こんな魔法が使えない状態だし、頑張って貰わないといけないけどねっ」

「明日には魔法使えるようになってるだろ」

「魔法使ったらまた二十四時間制限にーよん掛かるけどいいの? 先輩も頑張ってくださいね?」

「使えるようになるっていうだけだ」

「わ……わたしも、がんばら……な、いと……」

灯莉あかり花蓮かれんの冗談だから、間に受けないでくれ!!」


 なぜか灯莉あかりがやる気を出していた。


「それはともかく、話を結構巻き戻すとけど、魔女についての言い伝えが殆ど無いのも事実だよな」

「謎に包まれているよね?」

「うん」


 事実、みやび花蓮かれんが知っている魔女は、世間一般的に出回っている事と、両親から自分達が魔女の子孫であるということを教えてもらったことくらいだった。


灯莉あかり。これからなんだけど、夢で見たことをなるべく僕に言ってもらえないかな?」

「う……うん」

「もしかしたら、夢が夢じゃないのかもしれない。確かなことは言えないけど、なんとなく、そんな感じがする」

「わ……分かっ……たよ」


 と、みやびはガタンと椅子を引き、身を乗り出しながら言ったため、灯莉あかりが困惑してしまった。

 そのことに、花蓮かれんみやびのことを蹴って伝えた。


「あ、ごめん」

「だ……だいじょうぶ、だよ」


 みやびは座りなおした。その時、灯莉あかりの表情が少し陰った気がする。


「とりあえず、今日は泊っていくか? もう外は暗いし」


 みやびは、ちらっと窓の外を見ながら言う。


「う……うん」


 何も考えずに返事をした灯莉あかりだったが、すぐにそれが何の意味をしているかをすぐ気づき、顏を赤らめた。


「~~……っ!」

灯莉あかり、大丈夫か?」

「な……なんでも、ない……よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る